撒いたのは豆か?種か?

 ナシュレの屋敷に父が来ていた。客間でリヴィオも混じえて話をしている。


 ポイッとリヴィオは自分のサイン入りの書類を机に投げ捨てるように置いた。


「これでいいんだろう?持っていけ」


「領地をやろうというのに、随分な態度ではないか?」


「別にいらないし必要ないが、いちいちセイラに近づくからウザくて仕方ない。警告しておくぞ。これ以上近寄るな!」


「父と娘が会って、何が悪い?なぜおまえに指図されなければならないんだ!」


 バチバチやり合っている。口を挟まなくていい。後はオレがするとリヴィオが何やら考えがありそうだったので、私は見守る。


 ……が、リヴィオは普通に自分のサインを入れて書類を父に渡しただけだった。


 しばらく睨み合っていた二人だったが、父が先に動いた。書類をバッと取り、カバンにいれて、そそくさと立ち上がる。


 執事のクロウがお帰りですか?と声をかけると、そうだと低い声で言った。


 さっさと帰っていく。私の方など見向きもしなかった。……それが答え。真実の姿だ。


「リヴィオ、書類にサインして帰してよかったの?なにかお父様には嫌な企みがありそうな気がするけど?」


「大丈夫だ。この件について、また悩むと体調を崩すぞ!オレに任せておくといい。シンとアルトは向き合う時が必要だ」

 

 あまり考えるなとリヴィオが言う。なにか仕掛けの種を撒いているのだろうか?


「それより、今日はやりたいことがあるんだろ?」


 そうなのよ!と私は慌ただしく立ち上がった。


 バッと豆まきセットを持ってきて見せる。リヴィオがイベント好きだなぁと笑った。

 

「したいことに全力だな。その鬼のお面は、この世界の人々には理解不能だと思うぞ?」


 やめておけ、炒り豆だけにしといた方がいいと笑われる。……確かに何これ?と聞かれると、説明するのが難しい。残念だが、お面はそっとしまう。


 トトとテテも遊びに来て、厄を払う説明を聞き、フーンと言いつつ、豆をポリポリ食べている。


「豆を食べるんじゃなくて、こう、投げるのよ!」


 私は外に向かってする。


「鬼はー外!福はー内!」


 パラパラと窓の外に豆が落ちていく。


『もったいないのだ』


 ………あれ?しごく真っ当なことをトトとテテに言われた気がした。私の手が止まった。


「ええーーっと……でもこれは縁起を担ぐというかね……」


 リヴィオがアハハと爆笑している。


「いやー、無理だろ?ここに馴染みはない!やってみるところが面白いな。セイラは面白すぎる!」


 私はムッとして、笑ってるリヴィオに向かって豆を投げる。


「イテッ……やめろよ!部屋に豆が散らばるだろ!」

 

「セイラが変なのだー!」


「投げるなんて、食べる豆が無くなるのだ!」


 3人に止められたところで、メイドからも『部屋を散らかさないでください』と苦情がきた。


 ポッポッポと窓の外には鳥が集まってきて、のどかに豆をついばんでいた。


「くっ……悔しいけど、この風習は無理そうね」


 ガックリとした私。これは流行らない。


「豆はおいしーのだ!」

 

 トトが励ましてくれる。豆がおいしいというのが、励ましになるかどうかは別として。


 豆撒き断念……。


「仕方ないわ。お昼ご飯にしましょ。手巻き寿司を作って食べようと思ってるの」


『手巻き寿司?』


 双子ちゃんは首を傾げる。


「恵方巻きにしなかったのか?」


 リヴィオはそこはこだわらなくていいのか?と聞くが、私はうんと頷いた。


「皆、自分が好きな具を選んで巻いたほうが楽しいかなっと思って、手巻き寿司にしたの」


 材料集めるのが面倒というか、困難だからであるというのは伏せておく。カンピョウとかどこにあるんだろうか?


 リヴィオ……シンヤ君はそれを言うと躍起になって探してきそうだから言わないでおこう。


 なぜか、食べる時になるとちゃっかりとジーニーが来ている。


「おまえ、暇なのかよ!?」


「偶然だよ。忙しいに決まってるだろ」


 クルクルとジーニーはエビフライ巻きを作って、リヴィオに答える。


「年寄りにはアッサリとした、キュウリとゆでガニも美味しいですな!」


 クロウがそう言うとトーマスがこれもいいですよ!とシーチキンマヨを勧める。


「はぁ……生物がどうしても怖くて手が出せないわね」


 私の言葉にリヴィオもそうなんだよなぁと同意する。


「取り扱いがなぁ。市場の漁師たちに相談してみたこともあるんだが、生で!?と言われたんだよな。刺し身は衛生管理が難しい」

  

 どうやら、リヴィオも模索してたらしい。


「お魚のお寿司食べたいわ」


 私の一言にリヴィオがなぜか苦笑して、方法がないこともないと言う。いずれな……と歯切れ悪く答える。なんだろう?


 とりあえず、手巻き寿司パーティーを楽しむこととする。


 茹でガニ、茹でエビ、シーチキン、アボカド、キュウリ、レタス、エビフライ、唐揚げ、焼肉、玉子、チーズ、焼きイカ、コーン……こっそり納豆!なんでも合いそうな物をご飯と海苔で巻いていく。


 どの具をのせる?どれから食べる?と皆が盛り上がっている。


 コック長は新しい料理ですね!とワクワクしながら、大量の酢飯と海苔を用意してくれた。


「これは楽しくて美味しいーのだ!!ナットーイケるのだ!」


「ネバネバが癖になるのだ!」


 トトとテテは納豆にハマったらしいが、何だこれは!?とジーニーとアルバートがドン引きしている。


「体に良いんだぞ!?」


 制作者のリヴィオがそう言う。蒸した大豆を藁に包んで雪の中に埋めて、作ったんだからな!と凝る男はそう言う。


「リヴィオ、こんなのに頑張るなら、もっと違うことに労力使えばいいと思うよ?」


 ジーニーは口直しにお茶を飲んでいる。やはり納豆は好き嫌いあるなぁ。私は好きだけどなぁ。


 手巻き寿司パーティーは面白い!美味しい!と好評ではあったが……納豆は「食べてみなさいよ」「負けたやつ、納豆な」と罰ゲーム的な扱いにされていたことを記しておく。


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