【牧場へ行こう!】

 秋晴れで久しぶりにトーマスとトトとテテ達と一緒に牧場に来ていた。


「いい天気になってよかったのだー!」


「羊さんもいるのだー!触りに行くのだー!」


 トトとテテは楽しげに駆けていく。遠足のような雰囲気。


 もちろん、私は仕事を兼ねていた。旅館に出すための牛乳、チーズ、お肉……その視察をするためにきていた。


 品質はいつも保ってもらっているが、たまに現地を実際に見ることを欠かさずにしている。


 頑張ってくれてる牧場の方々に差し入れがてら、アイスクリームや秋の収穫物を馬車に積んできた。


「奥様、差し入れ喜びますよ!」


「うん。いつもお世話になってるもの」


 トーマスは顔なじみの牧場主に手を振る。ちょっと太めの人の良い彼は10人家族の大家族で牧場を切り盛りしている。


「トトとテテからもお土産なのだ!」


 え!?何を持ってきたのだろうか?トトとテテが箱を渡す。牧場主が開けるとそこには小さい………目覚まし時計!?


「早起きが大変と聞いたのだ」


「こうセットすると『リンリリーン』って音がなるのだ!」

  

 アッハッハッハと笑って牧場主はおもしろい!とウケているが……これ……こないだ確か私ももらった。


 トトとテテがニヤリと私を見た。


「リヴィオがこういう物が作れないか?と相談してきたのだ。それで時計職人のおっちゃんと作ったのだ」


「セイラがねぼすけだからなのだ」


 リヴィオから手渡された目覚まし時計、たしかに便利だ。日本でも使っていた。


「リヴィオが目覚まし時計開発に関わっていたのね。どうりで、なんか懐かしい物というか……私にピッタリというか……」


 朝の弱い私には必要だけども!……いいじゃない?現世はメイドさんたちに優しく起こしてもらってもいいじゃない!?


 目覚まし時計を渡されるとは小学生か中学生のような扱いのようで、微妙な気持ちになる。


 ……まぁ、いいわ。と、気を取り直して、牧場を堪能する。


 ヤギに草を上げたり、羊のふかふかとした毛を触らせてもらったり、馬に乗ったり、トトとテテもキャアキャア言いながら楽しんでいた。


「美味しいもの用意しましたよー!」


 トーマスが呼ぶ。牧場の人達と一緒に外のテーブルに用意してくれた物があった。


「うわぁ。チーズフォンデュね!」

 

 私は目を輝かせる。トトとテテはすでにちゃっかり椅子に座って準備万端!


 自家製チーズ、自家製パン、ヨーグルト、牛乳、野菜、お肉やベーコン、ソーセージなどが並べられる。


 とろとろチーズをソーセージに絡めて食べる。美味しすぎる!次はパンを絡めてみようかなー。


「とっても美味しいです。ありがとうございます!」


 私は頬に手をやって幸せーと食べる。


「そんなに美味しそうに食べてくれるなんて、嬉しいよ!」


「セイラ様は基本、食いしん坊ですからね!」


 牧場主とトーマスは笑いながらそう言う。


 美味しいもののお礼に牧場の仕事を少し手伝って行く。私は牛に牧草を運ぶ。ちゃんと労働用の服も持ってきていたのだ。


 一方、トトとテテはキャー!と牧草の山から滑り落ちていて、こらー!お姉さんたち!と牧場の子どもたちに怒られていた。


 しかしその後、二人は子どもたちと仲良くなり、一緒に遊び、子守り係をしていた。


「セイラ様は意外と手際いいですね!」


 褒められてしまった!バシュレ家で雑用していたスキルがこんな時に役立つとは思わなかった。いえいえと言いつつも、褒められて嬉しくなる単純な私だった。


 ちなみにトーマスは本当に人足の一人となっていて、テキパキと動き、さすがだった。


 帰りにありがとうとお礼の品を貰ってしまい……逆に申し訳なかった。自家製チーズにヨーグルトにチーズケーキをくれた。


「また旅館に美味しい素材をよろしくお願いします!」


「任せといてくださいよ!」


 そう言って、牧場の人達は馬車が見えなくなるまで手を振り、見送ってくれたのだった。


 肉体労働の後と言えば、やはり温泉だろう!トトとテテと一緒にまったりお風呂に入る。


「筋肉ほぐしておかないと、筋肉痛になるわよね」


 温かいお湯の中で足や腕をモミモミする。


「久しぶりに身体を動かしたのだ」


「牛さんも羊さんも可愛かったのだ」


 いつもお風呂では、賑やかな二人だが、さすがに今日は疲れているようで、肩までゆっくり浸かって、ほわ~とした顔をし、のんびりしている。


 薬草のお風呂に入っているとじんわりと体に温かさや効果が伝わってくる。青葉の薬草の香りも嫌いじゃない。


「疲れてるときは薬草風呂が一番ね」


「葉っぱ臭いけど、体に良い感じがするのだ」


「発明中の肩こりにもよく効くのだ」


 二人は街の銭湯にも行っていることを明かす。いつの間にか、すっかり温泉を気に入って日常生活の一部となっているようだ。


「今日は楽しかったのだ!」 


「誘ってくれてありがとうなのだ!」


 双子ちゃんは頭にちょこんとタオルをのせて、お礼を言う。


「私の方こそ、トトとテテと一緒に行けて楽しかった。ありがとう」


『えへへへへ』


 少し照れて、二人は顔を見合わせ笑った。


 お風呂上がりに、いちごオ・レを体がホカホカしている三人で並んで飲んだ。喉が乾いたところに甘い味が染みていく。

 

 こんなほのぼのとした、日常もたまにはいいものだった。


 目覚まし時計はせっかくもらったので、使っていることを追記しておく。早起き頑張ろう……っと。

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