【朝の始まりに】

 新米がとれた。今年も天候に恵まれていい出来だった。


 お湯の中から湯気と共に優しい出汁の香りがふわりとする。


 まだ採れる夏野菜を切って味噌汁に入れたり、サラダにする。

 

 ジュッという音と共に卵液をフライパンに流した。くるくると黄色の卵を巻いていく。甘い卵焼き。


 脂がのった干物も焼けた。あっさりとした浅漬けの漬け物。


 パカッと土鍋を開けると白い艶かな炊きたてご飯。


「できたわ!」


 私はエプロンを外して、そろそろ帰ってくるであろうリヴィオを待つ。 

 

「おはよー!」


 私は元気に朝の挨拶をした。そこへ朝の鍛錬から、帰ってきたリヴィオが驚き、目を見開いた。


「朝が苦手なセイラがどうしたんだよ!?」


 何事だ!?と言われたが……たまに早起きするわよ。……ごくたまに。


「朝ごはん作ったのよ。食べる?」


「朝からセイラが!?」


 私が朝から活動的なのが珍しいらしい。テーブルにつくと更に驚くリヴィオ。


「こ、これは!!」


「フフフ。驚かせようと思っていたのよ」


 前から考えていたのだ。朝食に和定食。食べたかったのは自分だけど、きっとリヴィオも食べたいだろうと思っていた。


「すごいな!日本食の朝ごはんかよ!」


 思わず『いただきます』と日本式の食前の挨拶をしているリヴィオにクスッと笑った。


「私もいただきます」


 味噌汁を飲むとホッとするような気持ちになる。


「なんだか、今いる場所が異世界と忘れかけた」


 リヴィオはそう言って、甘い玉子焼き好きなんだと箸で器用につまんで口に入れ、幸せそうな顔になる。その顔に、こちらまで幸せな気持ちになった。


「なんでいきなり和食の朝ごはんを作ったんだ?」


「新米ができたから、私も食べたかったのよ」


 なるほどとリヴィオは頷いてから、フッと真面目な顔で言った。


「なあ……オレ、欲しい物があるんだが、セイラと相談してからと思っていたんだ」


「なに?」


「携帯電話欲しくないか?連絡球があるなら、小型化して作れそうな気がするんだよな。でもセイラが手を出していないから、何か理由があるんだろうと思っていた」


 そうねと干物を食べる手を止める。


「なんというか、のんびりとした世界の雰囲気変えちゃうかなと思ったのよ。携帯電話があると仕事から離れられなくなりそうだし……でも確かにあると便利なのよね。トランシーバー小型化を作ってみたけど、確かに便利だったもの」

 

 ただ、トランシーバー小型化は魔力をある程度持つ者同士でなければ使えない。携帯電話のように誰もが使えるようにするには……トトとテテと開発していく必要がある。


「そうだな。じゃあ、トランシーバー小型化のやつ貸してくれるか?」


「良いけど、何に使うの?」


「秘密だ」 

 

 気になる。だが、秘密と言うなら仕方ない。後で持っていくわと苦笑した。彼の雰囲気からして悪いことには使わなさそうだし。


「そういえば、屋敷のお風呂の改築が終わったのよ。食事が終わったら、アオも呼んで、見てみる?」

  

「おおー!とうとう完成したのか!楽しみだな」


 そう言ってリヴィオは二杯目の土鍋ご飯を食べたのだった。


 新しくなった屋敷のお風呂は露天風呂にサウナ付きだった。


「最高じゃのーーっ!露天風呂大好きじゃーー!」


 アオは嬉しくて、テンションが高い。


「これでいつでもサウナ入り放題だなっ!」


 リヴィオもどことなくウキウキとしてる。


「セイラは妾のためにしてくれたのじゃぞ!」


「なにを言ってるんだ。オレだろ?」


 私は二人が始めた言い争いにハイハイと言って軽く流す。


「せっかくだから、入ってみたら?」


 オレが先だ!妾じゃー!とまた喧嘩する二人。こういうところが気が合わない所なのねと私は呆れて見ていた。


 けっきょくリヴィオは仕事があるので、アオに譲る形になった。私も試しに一緒に入ろうかしら?としばらくしてアオが入っているお風呂を覗いたときだった。


「温泉とは最高じゃろう?」


「これが温泉というものなんだね。………うん、悪くないな。気に入ったよ」


「黒龍は幸せだな。こっちはそれどころではないというのにな。しかしなんだ?これは?温泉というのは癒やされるものなんだな」


 あれ?誰かいるの?三人いるような声がした?


「アオー?誰かいるの?」


 パシャッ!パシャッ!と水音が2回する。私がヒョコッと顔を出すと、アオだけがまったりとお湯に浸かっていた。


 湯けむりでよく見えないが、アオは笑っているように思えたのだった。


 気のせい……だったのかな?私は首を傾げて、新しくなったお風呂を堪能したのだった。

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