交錯する思い
リヴィオがシン=バシュレということをあまり私は意識していない。
そうだったわと、認識したのは……偶然、父がサンドラを伴って社交界へ出て来た時に出会った事件があったからだ。
「オーホホホッ!旅館は順調ですのよ!お客さんをこちらへ貰ってしまって、申し訳ないわねぇ」
「相変わらず、お元気そうで何よりですわ」
勝ち誇ったサンドラは私に向かって、高笑いする。私はうんざりとした口調で、挨拶を返す。
「セイラはやっぱり何をやってもダメね。けっきょく、あなたのくらーい地味な温泉旅館よりゴージャスで派手な温泉旅館の方が良いってことでしょ?さっさと廃業なさいな!」
「別に勝負を致しているわけではありませんわ。それにいつもどおり、常連のお客様たちはいらしてくださっていますもの」
「負け惜しみかしら?オーホホホホ!」
ムカムカしてきたけど、落ち着け私!言い争うところではない!と自分に言い聞かせる。
サンドラの隣にいた父は私を冷たく一瞥してから、ふとリヴィオに気づく。
「小僧……ではなくナシュレ伯爵になったのだったな」
ピリッとした緊張感が、リヴィオの雰囲気から感じられた。貴族たちだらけの場所で騒ぎを起こしてもらっては困ると、私はギュッとリヴィオの服の裾を持ち、引っ張る。
大丈夫だ……そう小さく言うリヴィオだが、父は空気を読まずに話していく。
「貧相な娘の相手はどうだ?退屈だろう。さっさと離縁し、公爵家へ帰れ」
「本当につまらないセイラなのに、よく相手にしますこと。この子は小さい頃から根暗なくせに生意気なんですのよ。性格も悪くて………!?」
空気がざわりとした。金色の目がサンドラと父の息の根を止めそうになるくらい怒りの色を帯びた。
「この場で騒ぎを起こす気はない。おまえらの思うツボだからな。下手くそに煽っているが、それにのるほどバカじゃない」
リヴィオは静かにそう言って、睨みつけた。ゾッとするような絶対零度の冷たい視線を送り、言葉を続けた。
「おい……この国へ連れてきたのは裕福な暮らしをさせるためでも後継者にするつもりでもない!自分が誓ったことを思い出せよ。思い出せないなら元居た国へ場所へ帰すぞ!」
「なっ………なにを………おまえは何を知っている!?」
動揺する父。身体が震えている。目には焦りの色が浮かんだ。
そう言って踵を返すリヴィオ。今の表情はシン=バシュレだった。
「くっそ……あいつら滅ぼしたほうが良くないか?」
「近寄りたくないの。それにいずれ私がどうにかするわ。リヴィオを犯罪者にしたくないわ」
イライラしている彼はリヴィオに戻っている。しかし私は気になっていた。先程のやりとりはなんだったのだろうか?
屋敷に帰り、寝る前にお茶の時間を作ってもらった。
「聞きたいことってなんだ?」
ラフな格好になり、ソファーに猫のようにゴロゴロするリヴィオ。その隣に腰掛けてお茶を注ぐ。
「父のことだけど、どこで出会って、なにがあったの?パーティーでのやりとりで気になってしまったの」
リヴィオはキョトンとしてから、困った顔をした。黒髪をクシャリと手で握る。
「あまり……セイラにシン=バシュレやシンヤの姿は見せなくないんだが……」
「なんで??」
「特にシン=バシュレはおまえのじーさんだろ?なんとも思わねーのかよ!?」
私はその辺、難しいのよと口にする。
「確かに祖父だけど、シンヤ君でもあるし、ずっと一緒に暮らしていたわけでもないし……でも大好きだったわね。私はあまり気にならないけど……前にも言ったけどリヴィオはリヴィオでしょう」
リヴィオは気難しい顔をしている。
「大好きな二人があなたの中に居るんだから、私の幸せも二倍でしょ」
そう言ってニッコリ微笑むとリヴィオはえっ!?と声をあげて、ソファーから跳ね起きた。
「……今の、すごい破壊力だった。オレが悩んでることをセイラはアッサリ打ち砕いて来るんだな。油断してた」
顔が赤い。少し照れてるような気がする。
思ったことをそのまま言っただけなんだけど、その反応に私まで照れてしまう。
「まあ、いいか。……どこから話せばいいかな。えーと、オレというか、この場合シンとアオが他国へ足を踏み入れて、魔物について調べていたんだが」
リヴィオは話す気になったようで語りだしたのだった。
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