巨大魔石を採掘せよ

 王家から各鉱山へ命がくだった。あの事件で割れた巨大な魔石の予備がいるのだ。


 私とリヴィオは王城に呼出しをされていた。


 女王陛下はよく通る声で言った。


「そなた達ならみつけて来られよう?」


 リヴィオはスッと顔色が変わった。リヴィオではなくシン=バシュレの方に近い彼になっているような表情だと私は気づいた。


 リヴィオの持つ、無邪気さやヤンチャさが消えているからだ。


「それは他国から奪ってでも採ってこいということだろう」


 女王陛下は苦笑し、彼の父である宰相のハリーは無言のままだ。


「自分の意に反したことはしたくない」


 特にセイラといるときは……と小さく呟いた言葉を私は聞き逃さなかった。


 女王陛下は困ったように笑った。その仕草すら美しい。


「しかたないのぅ。ではセイラに頼むこととしよう」


「は!?なんだよ!それ!!」


 リヴィオの怒りで金色の目が赤く染まる。いきなり矛先が私にきて驚いたが、単なるリヴィオを焦らせるための駒にすぎないとわかっている。


 私は私の案を口にすることにした。


「他国から魔石を採ってくるというのは感心いたしません。買うにしろ巨大な魔石は採掘するのに大変な労力が必要です。自分の道徳心に反することは私もリヴィオ同様したくありません。……ですから、鉱山の皆さんにやる気をだして頂きましょう」


 ニッコリ私は両手を合わせて、ほほ笑む。陛下はどういうことだ?と首をかしげた。


「幸い、この国にはたくさんの鉱山があります。……これはお祭りです!」


 黒龍の力を使って他国の富を奪ってくるのは私だって嫌だし、リヴィオにさせるのも嫌だわ。理想的なのは自国で採掘すること。できないなら他国にそれなりのお金を払うしかないだろう。ならば………。


 その数日後に王家から新たな命がくだった。


『巨大魔石!求む!!見つけた者には多額の報奨金を与える。またその中で1番巨大な魔石を発見した鉱山には国内一の鉱山であるという名誉ある賞を贈る!』


 多くの山の民達は盛り上がった。モチベーションがアップし、我こそは!国内でナンバーワンの鉱山だと示してやる!と息巻いているらしい。


 スタンウェル鉱山でも、盛り上がっていた。


「陛下から国内一の鉱山という称号をもらえば、もっとスタンウェル鉱山は有名になれる!そして温泉の宣伝にもなるっ!」


 立派な商売人になったミリーはガッツポーズでそう言う。


 ………リヴィオは苦笑した。シン=バシュレの影は消えていた。


「セイラはすげーな。……うーん、オレはすぐに黒龍の力で解決してしまうくせがついてしまってるのかもな。気をつけよう」


「すごくないわ。リヴィオはきっと自分の中で解決しようとしてるのよね。私は人を巻き込んでるのよ」


「まるっきり反対の方法を互いに考えてるよな」


「どちらが正しいのかわからないけどね」


 リヴィオの人を巻き込みたくない気持ちもわかる。できることなら自分で解決したいのだろう。


「私の予想では、そうは時間がかからないわ」


「なんでだ?」


「私は鉱山の保有者なのよ。買う時には色々調べたのよ。メイソンやミリー、鉱山の皆と話す機会もあるしね」


 ニッコリ笑った私がそう言った一週間後には巨大な魔石たちが集まることになったのだった。


「どういうことだ?」


「もともと各鉱山で保有してたのよ」

 

 王宮に集まった鉱山の代表者の中にはスタンウェル鉱山のメイソンもいる。


 ヒョコッと顔を出したのは石オタクのレイン。来ていたらしく、私とリヴィオに気づいて、こちらへ近づいて来た。


「いやぁ~。みんな、すっかりこのお祭りさわぎにのってますね。各鉱山の素晴らしい魔石を持ち寄った展覧会に来れて、光栄です!」


「持ち寄った………あ!なるほどな」


 リヴィオがレインの言葉で理解したらしい。


「売らずに鉱山に置いてあったのか!」


「そうよ。こんな大きな魔石は掘り出しても、普段は使うことがないし、需要もない。魔石が採れなくなったときに削って売却するために置いてある鉱山が多いらしいわ」


 レインがそうなんですよーと笑う。


「普段、需要はないのですが、ほんとに素晴らしい魔石ばかりです!削ってしまうなんて言語道断です!この姿のまま保管してくれるのが理想ですね!」


 ウットリ……と夢を見るような目でレインは魔石を眺めている。


「なぜ、最初の呼びかけに鉱山は応答しなかったんだ?」


「いくら出してくれるかわからないのに売れるわけないわ。巨大な魔石は鉱山にとっては貴重な貯金のような物でしょ」


 だから報奨金を提示し、さらに賞を授与することにした。鉱山のランキングにすれば燃えることだろう。


「お祭りさわぎは正直、嫌いじゃない。本当は皆が自分のところの魔石が一番だと自慢したいからな」


 強面のメイソンが楽しそうな声音で言った。


「スタンウェル鉱山の魔石も素晴らしいじゃない」


 私が褒めると、そうだろうと満足げにメイソンは頷く。


 優勝は逃したものの、スタンウェル鉱山は優秀賞をもらった。また優勝した鉱山の魔石は多額の報奨金で買い取られた。勲章とトロフィーを掲げ、誇らしげな顔が良い。


「お見事じゃのぅ」


 女王陛下はそう私に言った。


「黒龍の力を安易に使おうとして悪かったの」


 私は首を横に振った。


「こう上手くいくものとは思っておりませんでした。それに陛下が焦る気持ちもわかります」


「魔石が無いと王都の人々の生活を守れないしな……どうしても手に入れたい気持ちの理解はできる。だが、焦って他国を敵に回すような行動は慎むべきだろう。特に今、トーラディア王国は王位継承で揉めているという話だから、あちらの大陸に刺激を与えるべきではないな」


 リヴィオが淡々とそう言うと女王陛下はガーネット色の目を丸くした。


「まるで……シン=バシュレに言われているようじゃ。よく似ていると……ふと思ったのは気のせいであろうか?」

 

 ハッとするリヴィオ。言い過ぎたと気づく。

 

「そんなわけないだろう!?」


 リヴィオは強く否定する。ハリーもまさかそんなことは……と言う。私もコクコクと頷く。


「ああ……まぁ……そんなことあるわけないと思っておるが……」


 曖昧な言葉で陛下は納得したようなしてないような……。


「ともかく、感謝する。これで魔石の憂いはなくなった。また力になってくれ」 

 

「私にできることがありましたら……」


 そう言い、お辞儀した私の横ではリヴィオは便利屋じゃねーんだ、あんまり呼ぶなよ!とブツブツ言っていて、ハリーにリヴィオー!と叱られたのだった。


「案外。いいコンビなのかもしれぬな」


 対象的な私とリヴィオを見て、女王陛下はそう言って笑ったのだった。

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