【ホタル鑑賞会】
フワリと温かみのある淡い色の光が夜の闇に浮かんだ。
「うわぁ!とても綺麗ですわ」
マリアが感嘆の声をあげた。
近くの小川にテーブルや椅子を置き、みんなで蛍鑑賞会をしている。
「なんか……懐かしい気持ちになるな。覚えてるか?学校の近くにある小川にさ、クラスのみんなで行ったよな」
リヴィオがジッと暗闇を見つめて感慨深げに言う。クラスのみんな……というのは日本の方だとわかる。高校1年の時の話だろう。
「え?あの後の肝だめしのほうが私的にウケたけど?」
しみじみしていたリヴィオが良い雰囲気を壊すなよ!と言う。
彼も思い出したらしい。
肝だめしはハチャメチャだった。
寺の息子の家の墓場で、肝だめしをしたのだが、どうやら許可をもらっていなかったらしく、彼の父である住職にみつかり、1の2の生徒は怒られたのだった。
座禅組まされたなぁ………。
私はそれを思いだし、フフッと笑った。
トトとテテがそっと捕まえて、手の中で黄色い光を放つホタルを顔を突き合わせて眺めている。
「軽食お持ちしましたよ〜!」
コック長や屋敷の使用人達もワイワイとやってきた。
「ありがとう!」
テーブルの上にはサンドイッチ、チーズ、ポテト、ソーセージ、クラッカー、フルーツなどが所狭しと並べられ、飲み物コーナーではお酒にお茶に果実ジュース。
もはやパーティである。
「これは?」
ジーニーがデザートコーナーで手にしたものを見せる。もなか生地のものに絵がかかれ、アンコが挟まっている棒付きもの。
「うちわ型のお菓子を作ってみました!あと、ホタルをイメージしたゼリーもありますよ!どうですか!?」
コック長が自信たっぷりに笑う。
そろそろ、この世界に和菓子のジャンルができそうだと思った。
「美味しいのぅ」
アオ!?いつの間にいたのよ?和菓子とお茶を手にちゃっかり椅子の1つに陣取っていた。
「おい……神様、暇だな?」
リヴィオが半眼になって黒猫に話しかけている。
「長い人生、息抜きも必要であろう!」
庭師トーマスと執事クロウはまったりと良いですねぇ〜と飲み物を手に持ち、くつろいでいる。
「ホタルをこんな風にみんなで観察するなんて、奥様、考えましたね」
「トーマスがホタルのことを教えてくれたおかげよ」
夜、田んぼの水を見に行っていたトーマスと出会い、世間話をしていたら、ホタルが……と、そんな話になったというわけだ。
いえいえと照れくさそうに頭を掻くトーマス。
「マリアはいつまでここにいるのだ?」
トトが聞きにくいことをサラッと聞く。マリアは苦笑した。
「自分が納得するまでですわ」
「ふ~ん。まあ、ここが楽しいのもわかるのだ」
テテがそう言う。たまに現れるジーニーと会いたいという可愛い乙女心なんだと思うが、誰にも言えない。
「うわ!服にホタルがーーっ!」
フリッツが一人、大騒ぎしている。
「もしかして苦手なの?」
「虫は嫌いなんですよおおお」
私は涙目のフリッツに騎士なのに……と呟く。
「情緒のわからないやつだな」
そうリヴィオにもいわれ、そんなこと言っても!とフリッツはホタルから逃げ続ける。
そんな歓談や騒ぎもありつつ、ホタル観賞会は幕を閉じた。
数日後、私はリヴィオに声をかけた。旅館の温泉に入りに来ない?と誘った。
考える間もなく、行く!とリヴィオは乗り気だった。
タオル片手に機嫌よくやってきた。
「なんだ?」
とりあえず入って見てとニヤリと私は笑った。お風呂の外で、反応を待つ。
「なんだこれ。すごい……ありがとう」
感嘆の声がした。
季節限定の露天風呂でホタル風呂だ。ホタルは飛んでいくから少しの間だけだが、温泉に入りながらホタルは一興だろうと思ったのだ。
私も女湯で楽しむ。普段より明かりを落とした露天風呂に黄色い光が舞う。
他のお客さんも、水面にスーっと跳んでくるホタルに見惚れている。
「この時間だけなんてもったいないねぇ」
「ずっと眺めていられたら、良いのにねぇ」
温かいお湯に浸かりながら、私もゆっくり鑑賞した。
儚くて美しいホタルはその光が、どこか遠くの小川から来たような気持ちにさせる。
『サクラ、ホタル好きか?』
『好きよ。高校の近くにこんな場所あったなんて知らなかったわ』
そうだ。……あのホタルの飛んでいた小川でシンヤ君と会話したことがある。
サクラカホを苗字であるサクラと呼ぶシンヤ君とはそのくらいの距離があった。
『ほら。これ……』
シンヤ君はヒョイッと器用にホタルを捕まえる。手の中で光るホタル。私は覗き込む。
『わあ!きれいね』
『あのさ……オレのこと憶えて………』
おーいとクラスメイト達が肝だめしに行こうと呼ぶ。はぁーい!とカホである私は返事をして駆けていく。
……そんなことあったなぁ。ホタルを見ながら、ふと思い出した。
ホタルは遠くから記憶を運んできてくれた。
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