〈記憶は残り、日常は戻る〉
百年想い続けるなんて無理でしょう?
寒い日だった。雪がチラチラ空から舞い降りてきて、コートに付く。
「百年?楽勝だな。シンヤが想うカホやリヴィオが想うセイラに関して……自分で言うのもなんだが、かなりこじらせてる。愛してるという言葉で片付けられない」
「……こ、こじらせって!?聞かないほうが良かったような気がしたわ」
ややドン引き気味にカホが言う。自分が質問してきたんじゃないか。
異世界まで助けに行ったのに、なんで今更、オレの気持ち探ってんだ?カホの思考がわからない。
夏から時々、こうして友達以上恋人未満の話題が出ている。
セイラの記憶にカホはとまどっているのだろうか?
明るいコンビニに着く。旅館の手伝いの前に小腹を満たしたいのとカホが肉まんを買っている。オレは夕飯があるから我慢した。
「さむ……」
外に出ると寒かった。
「半分あげるわ」
ハイッと肉まんを半分、口に放り込まれた。
「お腹空いていると寒さも倍増よ」
カホはそう言って、笑った。時々……こうやってやられるんだよな。
照れたことを隠すようにありがとうと小さく呟き、熱い肉まんを半分食べた。
その光景を見られたんだろう。そこにたむろしていた他校のチョイ悪い感じの奴らが冷やかす。
「おまえら何してんの?見せつけるねぇ」
「その制服、あの進学校のじゃねーの?そんなことしてねーで、ベンキョーしてろよ!」
オレとカホは無視して行こうとしたが、逆にその態度が相手を逆なでしたらしい。
「おい!無視してんじゃねーよ!」
相手がカホの腕を掴もうとした瞬間、オレの鞄が肩から抜かれて、いきなり宙を飛ぶ。オレより早い動き!?
「は!?」
バスっと顔面ヒット。
『なにすんだよ!?』
鞄を当てられた相手とオレの言葉が不本意ながら、かぶった。
「自分の鞄の使えよ!なんでオレのを使った!?」
カホがポンポンと非難するオレの肩を叩く。
「汚れるもん。………どんまい!」
「おまっ、おまえ、マジで良い性格してんな!?」
フフンと悪い笑みを浮かべる彼女。セイラが死のうとしていたのに生きようとした根性……カホの影響がデカいのは間違いない。
こいつは図太いんだーーっ!オレは叫びたいのを我慢した。状況はそれどころではなかったからだ。
「このやろ!」
数人が集まってきて、殴りかかろうとした。オレはヒョイッと拳を受け流して腕をひねってポイッと放り出す。
カホが走り、オレの鞄をザッと滑り込むように拾ってこちらに投げた。キャッチしたオレに言った。
「逃げるわよ!」
「お、おう!?」
ダッシュでオレとカホはその場から逃げた。逃げ足が速いっ!相手は追ってくる気はなかったらしい。
……オレはその軽やかさに確信した。
「あー、ごめんね。はい。鞄。警察呼んでも良いけど、大事になったら旅館のイメージダウンに繋がるし……」
どっかで聞いたなそのセリフ……。イメージ大事!とか誰かさんも言ってたよな。
「カホ……おまえさ、多少はセイラの能力あるんだろ?」
ギクッとするカホ。今の動き、どう考えてもおかしいだろ。セイラを彷彿させた。
「うーん……母さんには勘が良くなったって言われるけどね」
「そういえば、期末の点数、良かったよな」
貼り出された廊下の順位に驚いた。オレに追いつく勢いの順位だった。
「シンヤ君が教えてくれるからかなっ!?」
オレは嘆息した。カホは異世界の話はあんまりしたくないのかもしれない。まあ、良いかと放っておくことにした。
帰り道、無言で歩くカホ。家の前に着く。何か言いたげにモジモジしている。なんだよ?
「あの……その……私はカホなんだけど」
「知ってる」
いきなり何を言い出すんだ?
「セイラには、なれないわ」
「うん。似ているけど異なるよな」
「つまり……シンヤ君はなんで私を好きって思えるの!?なんで海で命をかけて助けたのよ!?」
ずっと溜まっていた物をやっと口にしたようで、言った瞬間、カホはスッキリとした顔をしていた。……これをずっと言いたかったのか!
しかしオレは確信した。
リヴィオにセイラは言っていた。『クラスメイト』だと。そんな認識だったんだよな。
「覚えてねーもんな。そうだろうと思ってはいたんだ」
カホはキョトンとした。わかってた!完全にリヴィオと同じ運命かよ!オレはガックリと肩を落とす。もはや宿命。
「カホとは学校は違ったけど、同じ塾に中学の時、通ってたよな?」
「ええっ!?」
はい。覚えてない。
「お菓子の話を始めてさ、オレにキノコの○とたけのこの○どっちが好きか聞いてきたよな。……それが初めて話した時でさ。何度か塾で話すようになってラインの交換とかして、いきなり音信不通になったという……」
ポンッとカホは手を叩く。
「あー!!トオノ君!……あれ?名前が違うわよね!?ハスエじゃなくて、トオノ君じゃなかった!?いやー、ごめんね。母さんに受験勉強中に何してるのって怒られて、携帯とられちゃって、塾も変えられたのよ。あれ!?トオノ君はメガネしてたよね?」
気になる子といい感じになり、浮かれまくってたオレだったが、いきなり塾も来なくなるわ、連絡先も通じないわで……落ち込んだ。
そして高校で出会ったが、カホはオレのことなどアウトオブ眼中。でもオレはやっぱり気になっていた。
中学の時、連絡つかなくなって、こっそり自転車に乗って、カホの学校近くまできたこととか、じーちゃんの還暦とかでカホの旅館に泊まった時とか、高校生になってからは一緒に日直したこととか、一年の時の文化祭の委員会で仕事を一緒にしたこととか……ストーカーちっくだからもう言わないでおこう。
リヴィオもオレも……頑張るよなぁ。セイラやカホの一挙一動に翻弄されてる気がする。涙ぐましいだろ。かなり努力家だろ。
「苗字は変わったんだ。婿養子だった父さんが実家の事業を継ぐことになってさ。そっちの苗字になった。目はコンタクトにしたんだ……って気付けよ」
なるほど!とカホは頷いた。
「えーと、ごめんね。私……シンヤ君のことは嫌いじゃないわ。でもね……自信無いの。セイラのように才能溢れてないフツーの女子高生の私でいいのかなって不安になるの」
そんなことかと少し笑ってしまった。
「フツーだろうがなんだろうが、カホが良い」
ハイ……と小さく返事をし、カホは赤くなって照れている。そして控えめに言い出す。
「……あのね。私、ほんとはシンヤ君とメールとかしたいし、休みの日も会いたいし、夜に電話して『またね』って言いたいし……そんな普通でいいのかな?」
うん……と頷いた。かっこ良く見せたくて、冷静に頷いたけど、心の中では嬉しくてたまらない。
静かに降る雪の中、オレは雪がついたカホの頭をなでて雪を落とす。ちょっと触れたかったから、わざとだ。
その手をカホは取り、ギュッと両手で握りしめて、まっすぐにオレを見た。
「異世界の喪失感を私で埋められるかな?時々、寂しい顔してるよね」
バレていたか。バレるよな。
「正直に言うよ。時々、寂しくなる。あっちの世界の人達は大丈夫かなとか、魔力が無くなった自分とかが……でも人って不思議なもので、日に日に、こっち側になってくるんだよな。それも寂しい。おかしいだろ?」
おかしくないよとカホは首を横に振った。でもな……とオレは付け加えた。
「映画とか水族館とか一緒に行ったり、寝落ち電話もしてみたり、カホを他のやつに自慢もしたい。バカみたいに普通の高校生みたいだろ?」
あのシン=バシュレが普通の高校生みたいで嫌になるくらい恥ずかしい願望を素直にカホに話していた。
アハハハとカホが笑顔になった。
「良いわね!全部一緒にしてみようじゃない!……そして私と一緒に温泉旅館をしてくれる?現世でも!」
「もちろんだ。一緒に温泉旅館しよう」
サウナ作ってあげるわよとフフッと笑ったカホはその後、顔に手をあてて、赤くなり、焦りだす。よく考えたらプロポーズみたいなこと言っちゃった!と焦るカホも愛おしすぎた。
ありがとう。この世界へ帰してくれてありがとう……もう一人のオレに感謝する。
カホをずっと大切にするよ。
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