【チョコレートは魅惑的】

 朝から屋敷中にあま~い香りが漂っている。


「む!美味しいのだ!」


「味見なのだっ!」


 トトとテテが溶けてきたチョコをペロッと舐めた。それは一口では終わらず……。


「ちょっと!?無くなるわよ!?」


「また溶かせば良いのだ。そもそも父上にあげるより自分で食べたいのだ」


 トトが最初はやる気だったのに、チョコを目の前にすると、あげる気が失せたようだ。


『大切な人にチョコをあげるなんて素敵なのだー!』ってバレンタインデーの話をしていたら、そう言って、いたのに……。


「こうやっていちごにチョコレートをつけるだけで、ほら、簡単だし、可愛いでしょ!?」


 パクッと私が手に持っているイチゴチョコレートを食べるテテ。


「おいしーのだ!」


「ええええ!食べちゃうの!?」


 モグモグモグと口を動かし当然であると頷く。


「ところで、セイラは何を作っているのだ?」


「○ッキーよ」


『なんなのだ?』


 声を揃えて聞き返された。あ、ごめんと私は謝り説明した。


「プレッツェルの細い棒にチョコレートをつけると美味しいのよ!この黄金比はどれくらいなのか測ってるところ」


「ふぅん……手に持つところにチョコレートがないから汚れないし、食べやすいのだ」


「発明中にも良いかもしれないのだ」


 トトとテテは気に入ったようだが、細さ太さのちょうどいい黄金比は難しい……まるでエスマブル学園でしていた実験の授業のようだ。


「これは?キノコなのだ??」


「こっちは……なんなのだ?三角なのだ」


「キノコ型とタケノコ型のチョコレート菓子よ!」


 お分かりであろうか。キノコの○とタケノコの○である。どっち派!?と問われても私は甲乙つけ難い。むしろ大袋購入し、交互に食べる派。


「ちょっとセイラの趣味がわからなくなったのだ」


「リヴィオは喜ぶ……のだ?」


 天才発明家で変わり者の二人が困惑し、首を傾げられる私だが、日本では有名なお菓子なのよっ!と言いたかった。


 しかし、不器用な私が作ったから、かろうじてキノコと三角の物体に見えてるレベル。これをリヴィオにあげていいものかどうか?


 旅館のスタッフや屋敷の者たちには○ッキーをプレゼントする予定だ。


 腕組みをし、無難に溶かしたチョコをハートの型にはめ込むべきかしら?と悩む。


「朝から屋敷の中が甘すぎる匂いを漂わせて何をしてるんだ?」


「あー!リヴィオ!そこの貼り紙見えてる!?」


『男子禁制。入るべからず』


 ビシッとドアに書いてあるのに無視して来るところがリヴィオだ!隙間あればスル~ッとはいってくる猫そのものね。


 もうっ!と怒る私に、そんなにか?と悪気のない彼は首を傾げ………ぷっと吹き出した。


「これってまさか!?」


「きゃああああ!まだ見ちゃダメって言ったじゃないっ!!」


 私の悲鳴にトトとテテは呆れて言う。


「諦めるのだ」


「不器用なのはしかたないのだ」


 隠してくれるとか、なんとかフォローしなさいよっ!と八つ当たりしかけたが、リヴィオがヒョイッとキノコとタケノコを交互に口にした。


「うん。味は悪くない。美味いよ」


 そう言って、彼はまたククククッと笑いを堪えられず、手で口を抑えている。


 笑いのツボに入るくらいだったかしら?私はなんとなく憮然として、ムッとした顔をすると、リヴィオが目の端に笑いすぎて涙を溜め……いや、そうじゃなくて!となにかを否定している。


 口ごもる彼は何が言いたいのだろうか?


「キノコとタケノコか……いや、なんというか、セイラはなんで、今、これ作ろうと思ったんだ?」


「私が好きだからよっ!」


「だろうと思った!オレもこれ好きだな」


 へっ?と私は間の抜けた声をあげた。リヴィオは楽しみにしてると言って去っていった。廊下からまだ笑い声がする。


 今の?好きって言う反応だった?爆笑していたよね?これで、いいわけ?まじまじと不格好なチョコレート菓子を見る。


「味は悪くないのだ」


 トトが今更、フォローしてくれた。


「真面目に作るのだ」


 テテは味見をやめて、作り出した。私は最初から真面目なのよ?


 こうして作り上げたチョコレート菓子は無事に出来上がった。


 ○ッキーはスタッフや屋敷の人達のみならず、手軽に食べれるお菓子の形として絶賛されて、その後、街でも流行りだした。


 トトとテテがお返しが来たのだー!と手紙とお返しの品を持ってきた。


「こ、これは!?」


 私は机の上にドサーと置かれた大きな段ボール箱に詰められた、チョコレートを見て、どういうこと!?とトトとテテに尋ねる。


「父上からの返礼なのだ」


「愛が重いのだ」


 手紙を見せてくれた。『トトとテテ、手作りのチョコレート菓子には感動した。遠く離れた地でおまえたちが頑張っているという話を聞く度に涙が出る。これはほんの少しだが、お礼だ。家にたまに帰ってきておくれ』

 

 双子ちゃんの母の愛も重かったが、父もまたそんなタイプだったか!


 ほんの少しのお礼?ではない量のチョコレートの山を見ながら私は頬に一筋の汗が流れた。


 トトとテテはハーーーと長いため息をついたのだった。


 そして不格好なキノコの○とタケノコの○を貰ったリヴィオはというと、機嫌が良く、私に、笑いかけて言う。


「これ交互に食べると美味いんだよな」


「わかってる!わかってるじゃない!」


 タケノコ派とキノコ派に分かれる品だけど、私は中道派なのよ!袋の中にキノコだけ残すとか、かわいそうなことしないで!


 スッとリヴィオは手を伸ばして、私の髪に触れて優しく撫でた。


「セイラは……本当に変わらない」


 その目がいつも以上に私を愛しみ、そっと触れる手が優しいものであったので、私は驚いた。


「ど、どうしたの!?」


 彼らしくない気がして思わず聞き返した。リヴィオはハッと何かに気づいて手を引っ込め、いつも通りの少しやんちゃな顔に戻って、お返しを考えておく!と言い、去っていった。


 調子が狂っちゃうわ……やはり不器用な私が作ったから、物はイビツなままであった。


 あんまり試作と変わってないじゃないか!と言って笑う反応を予想していたのに。


 最近、彼はなんとなく変だ。説明は難しいけど、なんか変なんだよねと背中を見送りながら腕組みをし、佇む私だった。

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