【鉱山の灯り】

 夏だが、山は標高のせいなのか木々のおかげなのか幾分、涼しく感じた。


 今日はスタンウェル鉱山に来た。鉱山温泉の建築もだいぶ進み、建物の形ができつつある。


「あっ!セイラ来てたの!?」


 ミリーが私の姿を見つけて、嬉しそうに駆けてきた。相変わらず明るく笑顔が可愛い人である。


「元気にしてたー?坑道の中の仕上げに来たのよ」


 私の後ろに馬車何台分だろうか?箱がずらりと並んでいる。


「なに!?なにするのー!?」


「坑道の中へランタンをつけていきます」


 呪を口ずさみ、魔法で淡く白い光を放つ球体を私は作って、コロンとランタンの中へ転がし、入れる。硝子に反射しキラキラ光る。


 これを吊るしていくように指示する。坑道はすでに整備し、危なくないように階段、通路、手すりなど設置してある。今日は仕上げに来たのだ。


「手伝うよ!」


「これを坑道の中につるしていくんたね!」


 スタンウェル鉱山の皆も手伝ってくれる。


「ありがとうございます!お願いします!」


 私は礼を言って、どんどん魔法の灯りを生産していく。子供も大人も行くぞー!と坑道の中へ入り、つけていく。


「オーイ!ハシゴもってこーい!」


「落とさないようにね……」  


「ここでいいかー!?」


 スタンウェル鉱山の人達は働き者だ。明かりが綺麗に映えそうな場所を選んで設置してくれている。


「助かるわ!」


 私の思っていた以上に早く仕事は終わった。

 ……と、スタンウェル鉱山の皆が口々に言う。


「中、すごい!すごいことになってる」


「坑道がなんか違う場所みてーだ!」


 どれどれ?と私も中へ入ってみる。


「うわぁ!綺麗ーっ!思っていた以上にいい感じだわ」


 私の声が反響する。いくつものランタンが坑道を神秘的に照らす。


「あの辺り!魔石のせい?色んな色が淡く光ってるようにみえる!」


「そうだ、そんな大きい石ではなく欠片が混ざっているんだろう。そういう場所がいくつもある。掘りそこねたわけじゃない。後は魔石になりそこねた石とかな」


 メイソンがそう説明してくれる。


 全体的に石の壁が魔法の光に照らされて、淡く青く光っている。時折、魔石があるところだけ様々な色に変化して光っている。


「こんなこと考えていたとはなぁ……たいしたもんだよ。こんな廃坑の使い方、思い浮かばない」


 メイソンが苦笑した。私もニヤリと笑い返した。


「フフフ。鉱山温泉の良いスポットになるでしょ?」


 サラサラと水が湧き出ているところも綺麗だった。水と鉱石が明かりに反応し、煌めいている。水の中の光がすくえないとわかっていても手を入れて冷たい水の感触を味わった。


 外は暑いのに坑道の中は涼しい風が通り過ぎる。少し広い場所に出たので、石の天井を見上げると夜空のようだ。


「この広場に舞台作って、コンサートも素敵かな?あ、でも反響しちゃうか……」


「なにをブツブツいっておるのだ」


「アオ!どこいってたのよ?」


「子供らにみつかったら、めんどくさいから隠れておったのだ!あやつら妾を撫ぜたり尻尾を掴んだりするのじゃ」


 無礼な!とプンプンしている。でも触りたくなる気持ちはわからなくもないわ。


「この鉱山にいるものたちはなかなか楽しそうに仕事しておるな。山の民のイメージが変わったのー」


 私とアオが広場にいるとミリーの何人かの女性達がやってきた。


「セイラー!私達、旅館の研修に行きたいんだけど……とりあえず、このメンバーならしばらく鉱山の仕事にも支障がないわ」


「ミリー、いいの?」


「もちろんよ!頑張るわっ!ここまで嘘じゃなく、鉱山のことを考えてくれてすごくすごく嬉しいのよ」


 ミリーに鉱山温泉の女将を任せてみようと思っているのだ。それを聞いたとき、ミリーは少し考えさせてほしいと言い、メイソンと相談したようだった。


 その結果、女将を引き受けてくれることとなった。スタッフは新しい人や花葉亭の慣れた人などを派遣するなどしていく予定だ。


「じゃあ、一緒に頑張りましょう!」


「ハーイ!」


 女性達が坑道から出てくると、子どもたちが『おなかすーいたー!』と大合唱していた。思わず私は吹き出す。


「もう!あなたたち恥ずかしいんだから!」


「ちょっと待っていなさい!」


 私にもお昼ご飯を食べていきなさいよーと声をかけてくれた。


「火をつけてー!」


 ハァイと言ったのは小さい女の子だった。魔法で赤い火が薪につけられた。


「あら、魔法使えるのね。鉱山にある学校を終えたら、どこか魔法の学校や師に弟子入りしないの?」


 鉱山の学校は日本でいうと小学校程度である。魔法が使える子なら、それを極めていけば、将来、いろいろな職につけるだろう。


「アッハハハ!そんな女の子をわざわざ上の学校にだしませんよ!」


「魔法だって、便利だけど使わない時は使わないですしねぇ」


 そっか……なるほど……こうやって魔法は失われていくのかもしれないな。平和な世の中、攻撃魔法なんて、それこそ使う機会は少ない。

 

 アオはそれを見て、少し寂しそうな顔をした。


 ……私も魔法を使えない人のために家電部門を作ったけど、一役買っちゃってるかもしれないな。魔法を使わないで済むこと。それは本当にそれでいいのだろうか?魔法が必要だから、この世界に存在してるんじゃないかな?


「あら、やだ!そんな深刻な顔しないでくださいよ!」


「ハイッ!肉の串焼きできたよーっ!」


 野菜と肉が一緒に串に刺さっているのを私に手渡してくれる。

 甘辛い特性タレにつけるとジュワーと音がする。頬張ると素材の味が滲み出てくる。


「美味しい!!」


 焼き鳥のようで美味しい!素材の切り方はけっこう適当で大きめだが、お肉がプリッとしていて弾力がある。


「山の民の直伝のタレだよ!」


 へー!後で教えてもらえるならタレの味付けを教えてもらおう。


「アオも食べる?」


「うむ……」


「なんかわからないけど、元気だしなさいよ」


「元気は有るのじゃがのぉ……む!うまいな!」


 アオは一口食べて、キラーンと目を輝かせた。


「腹が減っては戦はできぬよ!」


「それはシンがよく言うておったわ。あちらの世界の合い言葉か?」


 ……血筋なのかな?それともお祖父様がよく口にしていて覚えたのかな?


「私とお祖父様、よく似てると言われるけど似てるの?」


「うーむ……似てるところもあるがのぉ……妾は前から思っていたのじゃが、どちらかと言えばリヴィオの方がシンの性格や雰囲気に近い気がするのぉ」


「ええええ!お祖父様と似てないわよっ!?優雅で温厚で優しくてクールなイケおじよ!」


 リヴィオのように好戦的ではないでしょう!?ボコボコにしてやるというリヴィオのセリフが頭をよぎる。


 呆れたようにアオは私を見た。


「それはセイラの前だからじゃろう?本来はゼキ=バルカンに負けないほどヤンチャじゃ。なによりも……可愛い孫娘の前ではカッコつけたいものであろう。シンの本当の姿はリヴィオのような感じじゃ!」


「わ……私……ジジコンなのかしら?」


 惚れたのなんだの!恋愛かしらこの気持ち?だの!……なんて考えていたが、私、もしかしてお祖父様に似た人を!?


 汗がしたたる。暑さのせいだけではないだろう。


「考えすぎであろう」


 私の動揺ぶりにアオがマズイこと言っちゃったかなぁと言う雰囲気を出していた。


「セイラ様!準備できました」


「あっ!そうだったわ。ありがとう!」


「何の用意じゃ?」


 私はにっこり機嫌よく笑った。


「山の湯に入ってみたかったのよー!アオも行きましょ!どんな温泉の水質か把握しとかなきゃね!」


「……ただ入りたかっただけであろう」


 半眼で言うアオだった。


 暑い夏でも温泉は格別なのである。アオは体半分出し、落ちないようにし、半身浴的な感じだ。石造りのお風呂に自然の中の鳥のさえずり……気持ちいいわ〜。天然の露天風呂ね!ナシュレで最初に見つけた時の温泉を思い出す。 


 あれからいろいろなことあったなぁ……リヴィオはずっとついてきてくれていた。今頃、海の上や知らない国で苦労していなければいいのだけど。


 お湯に浸かりながら手足を伸ばし……しんみりとした。


 ……にしてもお猿さん来ないな。

 ちょっと山の温泉=猿というシチュエーションを期待していた私であった。


 

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