【温泉マーケット!】

 ウィーン、ウィーンと床を丸い物体が進んでいく。


「こっ!これはなんじゃー!?」


 肉球で猫パンチをシュッシュッと繰り出し戦っているアオ。その仕草かわいすぎる!!癒やされるぅと眺める私に説明を求めている。


「お掃除ロボットよ!」


 サッ!サッ!タシッ!とステップを踏んで床を往くお掃除ロボットを避けるアオ。自動で避けてくれるよーと言うものの真剣だ。


 ピコーンピコーンと音が鳴った。


「にゃっ!」


 叫び声をあげて、私の肩に飛び乗る。


「あのね……お掃除終わっただけよ?」


 カシャンと自分の家に戻っていくお利口なお掃除ロボット。ありがとう!と声をかける私に呼応するようピピッと音がして動きが止まった。ペシッと何やら反撃するようにアオが肉球で叩いた。……何してるんだろう。


 さて、今日の本題である。


「今年はこれを開催します!」


 ババーンと私は執務室に集まった皆にポスターを見せた。

『温泉マーケット』と大きく書かれている。桜と共にお祭り的なマーケットを開こうというイベント。


「楽しそうなのだー!」


「お店、やってみたいのだ!」


 はりきるトトとテテ。各自、お店を考えることとする。またナシュレの街の人にも声をかけて、出店を募った。


 ポーン!ポポーン!!と春のよく晴れた空に花火が打ち上げられた。

 花葉亭近くの芝生広場……公園作り中の広場にざっと50店程の店が並んだ。


「意外に皆、出店してくれたわねぇ」


「おじょーさまー!どうです?おひとつ!」


 料理長がソースの香ばしい香りで私の空腹を誘う。丸型の物体これは……!


「うわぁ!うまくなったわね。タコ焼き!!ソースも……」


「もうお嬢様とソースは研究に研究を重ねましたからね!タコの焼きの丸を見てください!美しい丸を!!」


 チャッと長細い銀色の串を顔の前で掲げてキラーンとポーズをきめる。

 自信をみなぎる料理長は熱々のたこ焼きを1つ私に味見をしていいですよとくれた。


「アツっ!……美味しすぎます。やっぱり1つください」


 舌を火傷しました……。でも懐かしのたこ焼きソースにすごくすごく近い味!思わず1パック買ってしまう。

 甘辛いソースが絡み、周りはカリッと、中はトロリ。蛸の歯ごたえが嬉しい。感動だわー!

 手に持って歩いていると冷めたころにヒョイッとアオが食べた。


「ふむ……うまい!これとよく似た味の麺をシンは作っていたのぉ」


「ご明察!お祖父様のレシピノートの焼きそば用ソースを参考にしたのよ」


「ほー!このソース万能じゃの」


 まだお好み焼きという楽しい物もあるわよと言っておく。今度、みんなで鉄板焼きの会をしても良いなぁ。


「お嬢様っ!こっちもどうですか?」


 トーマスだ。鉢植えがずらりと並んでいた。


「花屋さんね!」


 何か欲しい物有りましたらどうぞ!と言ってくれる。しばし眺める。


「うーん……ハエとり草かな?それとも蚊がよってこない草?」


「お、お嬢様、もう少し綺麗な花とか……」


「あ、あら。ごめんなさい。つい便利なものを選んじゃったわ」


 女子力無いのがバレバレだったと赤くなる。世話をキッチリとする自信もなくメイドの手を煩わせそうなのでやめといた。次は……。


「サニー♪サニーサンデー♪あなたにサニー♪私にサニー♪一緒に食べよう♪美味しいアイスクリーム♪サニーサンデー!」


 新曲だ。なんか2曲混じってるっ!!


「カミナリデデン♪カミナリデデデーン♪お家に1つカミナリドーン♪」


 サニーちゃんVSカミナリドンの戦いが起こっていた。互いの店員ときぐるみ達がバチバチ火花を散らす。


「美味しいアイスとサニーちゃんとの握手できまーすっ!」


「雲のようなフワフワ綿菓子いかがですかーっ!今ならカミナリドンと撮影できまーすっ!」


 子どもたちと若い女の子たちはキャー!と言いながら群がっている。アツイ戦いを横目に通り過ぎていく。 


「アハハ!楽しいところじゃのぉ」


 アオがウケている。楽しそうでよかった。


 祖父がいなくなって……寂しかったのは私だけではなかったのではないか?それは私の心を癒やしてくれた。アオは時々、祖父の名を出す。懐かしむように。とても嬉しいことだ。


「こ、これは?」


 ジーニーが本に埋もれてる……。両端に積み上げた大量の本に挟まれて身動きできない感じだ。


「要らなくなった古本だ」


 本を読みつつ、客引きすることなくマイペースに待つジーニー。売れそうにない感じだが……まぁ、のんびりかまえているから、売る目的ではないのかもしれない。頑張ってーと声をかけて、私は次の店へ……。


「お嬢様ーっ!こっちです!これ食べてみて!漬物だよっ!」


「こっちこっち!今朝とれたばかりの新鮮野菜持ってきな!いつも世話になってるからタダでいいよ!」


「おいおい!この干物も夕飯にどうだい!もってけー!」


「焼き立て自家製パンだよー!お嬢様の口にあうと嬉しいが!食べてくれ!」


 あっという間に私の両手にいっぱいとなった。みなさん、ありがとう。と何度もお礼を言った。

 ありがたいことだけど……お、重いですっ…。よろけつつ広場の一番開けているスペースへ来た。


「すっげー!飛ぶ!」


「もう1つ作りたい!」


「そっち!そっちへ行ったぞー!」

 

 子どもたちが手作りの飛行機を飛ばして遊んでいる。追いかけて駆けていく無邪気な子達。


「アハハ!それじゃ傾いていくのだーっ!」


「うまいのだーっ!」


 トトとテテの無料、子供向け飛行機作りコーナーだ。人気で子供たちが夢中になって組み立てたりカラーリングしたりしている。


 良いアイデアだなぁと感心してしばらく見ている。

 ペコンッと飛行機の1つが私の頭に当たる。


「お嬢様!ごめんなさい!」


 慌てて謝る子供。大丈夫よと笑って私も手で飛ばして返してやる。ありがとうー!と飛行機と共に走っていく子供。


 さて、温泉コーナーは……。私の姿を見ると、スタッフの一人が笑顔で報告してくれる。


「女将!足湯好評ですよーっ!」


 簡易的に公園の片隅に作ってみたのだが、座りながら足を入れて、皆、歩き疲れた足を浸してゆったり会話を楽しんでいた。


 公園に足湯も良さそうだなぁ。


「ほんとね!良かったー!」


「セイラはすごいのぉ。人々を自然と幸せにしておる……」


「え?」


「こんな平和がずっと続くことを妾は願っておる」


「大げさね……でも私も平和が好きよ」


 クスクスとアオのどでかいスケールのセリフに笑ってしまったが、アオは笑わなかった。ジッと黒の目で人々が楽しむ姿を見ていたのだった。

 


 





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