第12話
「ユヅキ先生!」
「ま、話は乗ってからだ」
僕はすぐに車に乗った。
父さんが車を走らせるとユヅキ先生が話を始める。
「シュウ君のお母さんには本当にお世話になりました。おかげで私をしつこく飲みに誘って来る学校の先生は私を誘えなくなりますし、メイちゃんが不審者に声をかけられたことにして私の責任にならないように手を回してくれて本当に感謝しています」
コミュ力お化けの母さんが何かしたな。
「ユヅキ先生は気にしなくて大丈夫だ。俺の母さんはこういう人助けが好きだからな」
父さんが嬉しそうに答える。
車は北へと向かう。
「先生は北街に住んでるの?」
「そうね。学生時代から北街よ」
「お父さん、新しいタブレットを見に行きたいよ」
「後にしてくれ」
「メイ、後で連れて行くよ」
「次の休みにお兄ちゃんに連れてって貰うね」
「分かったよ。休みに見に行こう」
ユヅキ先生は昨日の事もあってか静かだった。
先生のアパートに着くと、荷物を運び出すため中に入る。
僕が入ると、先生の下着がたくさん干してあった。
「し、下着をしまうから待っててね!」
そう言って勢いよく先生が扉を閉めた。
「シュウ、ガードが甘いな」
父さんが後から追いつく。
「父さん!知ってたら教えて欲しい!」
「入るまで分からねえだろ。こういうのは勘なんだよ」
こうして、洗濯機や冷蔵庫の大きい荷物から車に入れ、空いた隙間に小物を詰めていく。
僕たちは2往復してユヅキ先生の荷物を運んだ。
僕の住む家は2つの家が繋がっていて部屋は余っている。
先生の部屋は僕の隣になった。
家に帰って落ち着くと、ユヅキ先生が居る前でメイが言う。
「お兄ちゃん、一緒にお風呂に入ろう」
ユヅキ先生は驚いていた。
「ユヅキ先生が居るだろ!」
「先生とお兄ちゃんはもうシテるし、知ってるから大丈夫だもん。先生も一緒に入る?」
「私は、一人で入ります!」
「メイ、からかうのは良くない。行くぞ」
「うん。お兄ちゃんが私を洗ってね」
僕はメイの口を押さえつつお風呂に向かった。
そしてその日はメイと一緒に寝た。
【次の日の朝】
リビングで皆で朝食を摂る。
「その、シュウ君とメイさんは、いつもあんな感じなの?」
「あんな感じ、とは?」
「一緒にお風呂に入ったり?一緒に寝てメイさんの声が、その、何でもないわ」
「ユヅキ先生、その話はやめましょう。それに声は、何でもないです」
「え?気になるわ」
「私よりユヅキ先生の方がベッドで大きな声出してるって言いたいんだよね?お兄ちゃん」
僕と父さんは同時に飲物を吹き出した。
「あらあら、そういうユヅキ先生の恥ずかしい話は駄目よお」
母さんもメイも似ている。
もっと言うと母さんのその言葉がとどめだったと思うよ。
ユヅキ先生は、まじめだから自分の事を棚に上げて人の事は言わないだろう。
僕は学校に向かった。
◇
学校が終わり、僕は玉ねぎ剣士として飴色玉ねぎを作る。
ドタバタで飴色玉ねぎのストックが少なくなっていたのだ。
「シュウ、そろそろ食事にしましょう」
今日は母さんの飲食店で食事を摂る。
僕たち家族は遅めの夕食を摂ることが多い。
ユヅキ先生もそれが都合がいいらしく、5人で夕食を囲む。
「あれ?ヒマリ?」
テーブルにはヒマリとヒマリの母さんが座っていた。
「シュウ?どうしてユヅキ先生と食事してるの?」
「色々あってね」
母さんがヒマリのテーブルに話をしに行く。
「実は、ユヅキ先生は家にルームシェアする事になったのよ」
ヒマリの母さんが驚いて声を上げる。
「ええ!何かあったのかしら?」
「実はここだけの話で、メイが不審者に声をかけられたのと、ユヅキ先生が何度も男の人に飲みに誘われて、色々困ってたのよお。この家なら高校から近くて田舎だから安全でしょう?」
「そうねえ。ヒマリも何度か男の人に声をかけられて困ってるのよ」
「それは大変ねえ。ヒマリちゃんは可愛いから、電車通勤だと危ない人に襲われないか心配だわあ。田舎はまだ良いけど、北街は不審者が出るんでしょう?」
「それが、南町でも出てるみたいよ」
「まあ、そうなの?最近は地下鉄の通り魔……」
母さんの話は長くなるだろう。
「気にせず食べよう」
「ヒマリちゃんはこっちで食べてくれ。俺は母さんと食べる」
父さんは母さんが本当に好きだからなあ。
しかもユヅキ先生を何気に子ども扱いしている。
父さんとヒマリが席を交代した。
「ユヅキ先生とシュウがルームシェアしてるのよね?」
「ヒマリも来る事になるかもな」
「え?」
「母さんがそういう話をしているよ」
ヒマリの母さんの声が聞こえてくる。
「ヒマリをシュウ君が貰ってくれれば助かるわねえ」
ユヅキ先生とメイと僕の視線がヒマリに集まる。
ヒマリが真っ赤だ。
やっぱり、予想通りの真っ赤。
「ヒマリは今日家に泊る?」
メイがヒマリに声をかけた。
「か、帰るわ」
ヒマリは母さんをせかして急いで帰っていった。
ヒマリはここ最近100%真っ赤になって帰って無いかな?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。