ルーキー・皇伊万里

 皇伊万里は、今年の3月で職場を退職した。理由は、上司からのパワハラだった。これで、3度目の退職だ。伊万里は、その前の職場もパワハラが原因で1年続かず辞めていた。最初の職場は2ヶ月、2番目は5ヶ月、最近辞めた職場は1ヶ月だった。


 ある日、伊万里は転職サイトである項目を見つけた。そこには、『何でも屋』と書かれてあった。


「何でも屋…そんなの聞いたことない。けど、面白そう…」


 そう決心した伊万里は、早速応募し、後日面接日が決まった。

 何でも屋がある建物はクリニックや塾が入っている小さいビルだった。ビルの中に入り、何でも屋と書かれたドアの前のチャイムを鳴らすと1人の女性が現れた。

「本日面接で参りました。皇伊万里と申します」

「お待ちしてました。少々お待ちください」

 そう言って女性と入れ替わりで、1人の眼鏡をかけた40代ぐらいの男性が現れた。

「皇さんですね。どうぞこちらへ」

 そう男性は言って伊万里を中に入れた。

 何でも屋の中は、パソコンやデスクがあったりとどこにでもある事務所だった。

 伊万里を中に入れた男性は、鬼塚清志郎と言い、この何でも屋の社長だった。

 鬼塚は、伊万里の向かい側に座り、履歴書を見ながら志望動機などを聞いてきた。それに対して伊万里は丁寧に1個1個答えて言った。

 このまま後日面接の結果を知らせる流れになるかと思いきや急に鬼塚は

「明日から来てくれないか?」

 と立ち上がり言った。

 訳がわからなくなった伊万里は冷静に考えた。

『前みたいな事はパワハラは起こらなそうだし、ここならやっていけそう…。でも、明日からって仰ってたよね…。という事は…採用?』

「はい!喜んで!」

 伊万里は立ち上がり返事した。

 その後、鬼塚は何でも屋の中を案内したり仕事内容を説明した。

「何でも屋は、庭の草むしりから犬の散歩、遺品整理や家の中の掃除などを請け負っている。但し、法律に違反しているものはNG」

 同じく何でも屋で働くスタッフが紹介された。

「先程君を応対したのは阿南一華君。優しいから困った事があったら聞いてね。後、奥にいるのが、本郷岳君。無口だけど、仕事できるから頼りになるよ」

 本郷と呼ばれた大柄な男性は伊万里に会釈した。


「おっと言い忘れてた。明日勤務した際、お客様には僕が牛鬼だというのは黙って貰えませんか?」

 鬼塚が言うと伊万里は、

「え?牛鬼?牛鬼って昔話に出てくる牛鬼ですか?」

「はい、その牛鬼です」

 そう言うと鬼塚の姿は牛鬼になった。

 伊万里は腰に抜かし、尻餅をついた。

「皇さんも聞いたことあるでしょう?妖怪達が人間社会で生きている話を」

 そう言われた伊万里は今まで聞いたニュースや身近な人間の話を思い出した。

「はい、ニュースで聞いた事あります。妖怪達が人間の姿をして学校に通ってたる会社で働いていると聞いたことあります。あと、父の職場の同僚で妖怪がいます」

 そう伊万里が言うと鬼塚は人間の姿になった。

「皇さんが拝見したニュースでも言ってるとは思いますが、主に人間の姿をして学校や会社にいるのは、狸や狐が多いんですよ!狸や狐ならまだいいですが、牛鬼は怖がられるんで、お客様には内密に」

「わ、わかりました」

 すると一華がやって来て

「鬼塚さん〜!あんまりルーキー怖がらせると可愛いそうですよ!」

 そう言って伊万里を見ると

「ごめんね〜。怖がらせて」

「大丈夫です」

「よかった!明日からよろしくね!皇さん」


 こうして伊万里は、何でも屋で働く事になったのだ。

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