第6話 冥界修行(1)
「何か質問でもあるか?」
(質問しかねぇーよ!!)
「あとついでに、俺にはため口でいい」
オーディンと名乗る男は、深々と被った帽子に銀の長髪、片目には眼帯といった姿をしている。
勇輝がオーディンに聞きたいことは山ほどあったが、その中で一つ。
何よりも優先して聞きたいことがあった。
「聞きたいことは山ほどありるが、まず初めにどうして俺なんだ。大した能力を持たない転生者の俺を、どうしてをここに?」
「あぁ、そのことか」
オーディンは少し考えた後、笑顔で答える。
「まぁ、ある人への恩返しだ」
「は?」
”恩返し”という予想外の言葉で勇輝の頭の中でパニックを起こしかける。
「お前はこの世界の創世記を読んだか?」
「一応は…」
「そうか」
それを聞くとオーディンは何かを懐かしむようにどこか遠くを見て話し出した。
「で、何で俺はここに呼ばれたんだ?」
「それはもちろん、お前の修行をするためだよ」
「そうじゃねぇ!!何で俺みたいな無能の転生者を此処に―――」
「いつ誰がお前を無能だって言ったんだ?」
「それは―――」
「あくまでそれはお前の主観だろ。お前が有能か無能かは、これからのお前の修行の成果次第だ。さぁ、修行を始めるぞ」
そう言って、オーディンは横に突き立てていた槍を引き抜いた。
「まだ聞きたいことは―――」
「質問に答える時間が惜しい。さぁ、剣を構えろ」
急かされるまま、近く木陰に置いていた剣を構えた。
「何故に模擬戦!?」
「実力を測る為だ。俺はハンデとして魔法やスキルを使用はしないけど、お前は何回でも使っていいぞ。さぁ、かかって来い!!」
そして、オーディンは槍をこちらへ構え、こちらの攻撃を受ける体勢になった。
(なんで戦うことになってんだ⁉)
「どした!!攻撃してこないのか?」
「うるせぇ!!今から行くところだよ!!」
「来い!!」
勇輝は訳のわからないまま剣をオーディンに向ける。
相手のオーディンは槍を使う為リーチ差が大きい。
故に勇輝は瞬時に剣で槍を斜めに払い、懐に入り込もうとした。
だが―――
「甘いな」
「なッ!?」
次の瞬間、剣を持った手は斜め上に払われ、さらには体が後方に飛ばされていた。
「そんなもんか?自称無能!!」
「クソっ!!」
体勢を立て直して再び攻撃をしようとするが、攻撃が届く前に剣は槍によって払われる。
「こうなったら―――」
「次はどうする?」
(
勇輝はディアから習った基本的なスキルを、オーディンの目元を目掛けて放つ。
「おっと」
オーディンは〘
勇輝はその隙にオーディンの背後に回り込み、その首に向けて剣を振る。
しかし
「目くらましする考えはいい…だが、詰めが甘い!!」
オーディンは背後の勇輝に視線を外したまま、勇輝の心臓を一突きする。
(やばい!!死ぬ!!)
槍は勇輝に命中し、体を後ろに押し飛ばす。
だがその刃は、勇輝の心臓を貫くことは無かった。
「え⁉」
「槍の先端に特殊な魔法を付与してたんだよ」
オーディンは勇輝に槍の刃を見せる。
そこには光る文字が刻まれていた。
「それは…話が違うんじゃないか…?」
「どういう意味だ?」
「魔法とスキルは使わないって言ったのあんただろ」
「あ……ま、まぁそれのおかげで命を失わずに済んだんだし良いだろ」
そう言って再びオーディンは切り株に座る。
「今の戦いでお前の強さはわかった。お前は弱い」
「俺は戦闘民族の猿じゃねぇんだよ!!」
「その…戦闘民族の猿のことは知らんが、お前の攻撃は単調すぎる」
「そりゃあ、経験ねぇから―――」
「シンプルに力が弱い。動きが遅い。あと予備動作から動きがわかりやすい。だからお前は―――」
「話聞けよ!!」
勇輝の言葉に驚きオーディンは一瞬固まる。
「どうした?何か問題でもあったのか?」
「まず何で俺がお前の元で修行することになってんのかを言え!!」
「は?俺言ったよな」
「一言も言ってねぇーよ!!」
「アレ?」
オーディンは少しの沈黙の後、納得のいったような顔をする。
「そういや、言ってねーわ」
勇輝は思わず目の前のオーディンに呆れる。
(本当にこの人は…いや、この神は北欧の主神なのか?)
「すまんな。そういえば説明してなかったな。まぁ、とにかく座れ」
オーディンはその場に立っていた勇輝に座るように促すと、腕を組んでため息を付く。
「まず、お前に何から話せばいいか……死んだらこの世界に来るっていうのが決まってたってことは知ってるよな?」
「ちょっと待て…最初っからとんでもないことを聞いた気が…」
「それも知らなかった?」
「知るわけねぇーだろ!!」
「じゃあまずはそこから……お前はとある理由からこの世界と大きく関りがある」
「そのとある理由ってのは何だ?」
「理由は俺の口からは言えない。だがこれだけは言える。お前の転生には意味がある」
先程の態度から一転して、オーディンは真剣な表情を浮かべる。
「それはこの世界…いや、全世界単位で意味がある」
「さすがにそれは大げさすぎないか…」
「大げさな話でもない。まぁいつかお前にもわかる。そして俺は、そんなお前がこれから先受ける試練で死なないように、修行を付ける役割を引き受けている」
「試練…?」
「あぁ、それも七つな」
「七つの試練って…」
「俺との修行はその一つ目だ」
「でも俺が試練を受けるメリットは無いだろ」
勇輝はそう言って荷物を持ち、その場を離れようとした。
「いつかお前を殺すために刺客が送られるぞ」
「……」
「その刺客はお前の周りの人間も殺すぞ」
「何を根拠に言ってんだ?」
「逃げようとしている奴に言うつもりはない」
「……脅迫かよ。わかったよ…その試練受けてやる」
「そう来ないとな。じゃあ早速始めるぞ」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
修行を始めて一週間経った。
この一週間、勇輝は縛りを課されている。
それはいかなる魔術、スキルを使用してはいけないというものだ。
さらにそれは勇輝が無意識的に出した魔力でさえ許されなかった。
「隙あり」
「チッ!!」
オーディンの素早い動きを、間一髪のところで受け流す。
しかし気を抜く間もなく、オーディンは追撃を行う。
「守ってばかりじゃ勝てねぇぞ」
「うるせぇ!!」
「ほらほら、口の前に体を動かせ」
一週間経ったが、未だに勇輝はオーディンに攻撃を当てれずにいた。
毎度勇輝の攻撃はギリギリのところでオーディンに躱される。
(何で当たんねぇんだ⁉)
「首ががら空きだぞ」
(クソ……)
この後何度も攻撃したが、オーディンに攻撃を当てることは出来なかった。
「ここまで。今日はこれくらいで終わりにするぞ」
「はぁはぁ―――」
「飯だ飯」
「あぁ」
勇輝は夕食を食べ終え、寝る準備を始めた。
そしてテントの中に入り横になる。
いつもであれば目を閉じればすぐに寝ることが出来た。
だが今日は中々寝付けない。
(自主練でもするか…)
勇輝はそう思い剣を持って、開けた場所から木々の生い茂る森へ入って行く。
森の中は昼間と違い多くの魔物がいた。
その魔物たちを勇輝は素早く倒す。
(前に比べたらだいぶ楽になったな)
しかしそれを感じる度に勇輝の中で焦りが生まれる。
(何でだ…こいつらはすぐ倒せるようになった。なのに 何で
勇輝は足を止めず、動き続ける。
そして魔物が出てくればすぐに倒す。
それを繰り返すが自分が成長した実感が湧いてこない。
(クソッ――—クソッ――—クソォー!!)
何故焦っているのか自分でもわからない。
だがその焦りは着実に、勇輝の体に無理をさせる。
「何をそんなに焦ってんだ?」
「何でここに⁉」
「森を散歩してたら魔獣の死骸が転がってたからな。それより、お前は何をそんなに焦ってんだ」
(俺が一番知りてぇよ…)
「まぁ、お前は弱い。だけど、今まで戦いに身を投じてこなかった奴にしては強い。それでいいだろ」
「わかんないんだよ…俺は今何を焦っていて、何を思って強くなりたいのか」
「何だそれ?」
「なんて言ったらいいか……本能的に、もっと早く強くならないといけないって思うんだよ」
勇輝は自分でも可笑しなことを言っている自覚はあった。
しかし、本能的だと考えなければこの焦りにも説明がつかない。
「じゃあそのお前の本能のままに動けばいいと思う。だが!!」
オーディンは勇輝の額を軽く叩き、微かに笑う。
「無理は禁物だ。今日は休め。お前が強くなれるように場は俺が用意してやる。それまでは何も考えずに修行に打ち込め!!」
「…わかった」
勇輝は促されるままテントに向かおうとした時、思い
出したかのようにオーディンは話し出した。
「今の俺は北欧の主神と言われるまでに成長したけどな、俺だって昔は弱くて焦ってた時期もある。だけどそんな俺でも強くなれたんだ。お前が強くなれねぇわけがない。だからそんなに自分を追い込まないようにな」
「人間と神では訳が違うだろ…」
「いや、そうとも限らない。十二年前だったか…神ですら倒すのが困難な”オルズ”って化け物じみた奴らを単身で倒した人間だっているんだぞ」
(その人間の方が化け物じみてる…)
「で、でも、その人間も転生者だろ」
「フツーにこの世界の人間」
「マジかよ」
「マジマジ
驚きを隠せず目を見開く勇輝にオーディンは笑う。
「つまりお前だって俺レベルの奴になろうと思えばなれるんだよ」
「何年先の話だよ…。それじゃあ俺は寝に行くわ」
「応」
オーディンは勇輝がテントに入って行くのを確認した後、呟く。
「まぁ、すぐに俺はお前に追い抜かれるんだけどな」
そのオーディンの言葉は夜風に吹かれて、何事もなかったように消えていった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
あの日から勇輝の中の焦りは少しだけ薄れた。
そのおかげか少しだけ体が軽く感じる。
「次は何をすればいい?」
「ランニング」
「わかった」
しかし、今日はオーディンの様子が怪訝しい。
何故か普段とは違い、実戦ではなく只ひたすらに魔獣を狩ったり、走ったりするだけだった。
「何で今日は実戦方式じゃないんだ?」
「次の修行内容のことでちょっとな」
「そ、そうか」
オーディンは目を閉じたまま難しい顔をしている。
(ほんとにどうしたんだ今日は)
結局その日は大したことはせず、夕食の時間になっていた。
そこには変わらない表情のまま夕食の用意をするオーディンがいる。
しかし、その横には
「い、いつの間に…この量の魔獣たちを―――」
「考えながら殺ってたらこうなった」
(フツーはこんなことにはなんねぇーよ!!)
「それより、今日本当に何があった?」
勇輝がそのことを聞いた瞬間、一羽の鴉が嘴に手紙を咥えて飛んでくる。
そしてその鴉はオーディンの肩に止まると、咥えていた手紙をオーディンに渡す。
「何だこの手紙は?」
「ん、これ?これは友人からの返事の手紙だ」
「返事の手紙って、何か頼んでたのか?」
「あぁ、友人の管理する土地で修行しようと考えてたんだけど、修行の内容と言い、友人の管理する土地と言い、その友人の許可が必要なんだよ。だからこの手紙の返答次第で、修行の内容も大きく変わるんだよ。」
そう言ってオーディンは手紙を開いた。
「何が書いてあるんだ?」
手紙を見るととオーディンは不敵な笑みを浮かべた。
「修行の内容が決まった!!冥界に行くぞ!!」
「俺に死ねと言うのか…」
「ちげえよ。冥界に収容されている奴らと戦って経験を積むんだよ」
「冥界って死者の世界じゃないのか?」
それを聞いてオーディンは首を傾げる。
「何言ってんだ?俗に言う死者の国って言うのは霊界だろ」
(いや知らねぇーよ!!)
「あー、あのー」
「何だ?」
「俺はイマイチ冥界と霊界の違いがわからないんだが…」
「教えて無かったか?」
(教えてねぇーだろ!!)
「まぁ、冥界は生前に罪を犯す。または神との契約違反を起こした奴の魂を永久に閉じ込める監獄の様なもんだ」
「俺はこれから実体のないヤツと戦うってことか?だとしたら俺が攻撃をしたところで、その攻撃を当てることはできないんじゃあ…」
「その心配はいらない。冥界では魂に刻まれてる記録から肉体が生成される。だからお前の攻撃も当たるんだよ」
「その考え方でいくと、冥界から魂が抜けだそうとしたら―――」
「肉体は崩れ、再び冥界に吸い込まれる」
「吸い込まれる!?」
「冥界と霊界は共通して死者の魂を吸収しようとする性質があるんだよ」
「つまり魂が入り込めば一生出られ無いってわけか」
「例外はあるけどな…」
「例外?」
オーディンはそう言うと近くに落ちていた木の枝を使って砂の地面に何かを書き始めた。
「その例外は
「超越体?それって何か特別なのか?」
「普通の生命体は『体』っていう『器』に『魂』という『中身』が入ってるイメージだ。それに対して超越体は、『体』=『魂』という感じで体と魂を引き離せない存在だ」
「それはつまり収容不可ってことか?」
「いや、超越体に対しては原初の鎖が使われている」
「え、えーと…その原初の鎖っていうのは―――」
様々な情報が勇輝の頭に入り整理できなくなりつつあった。
「簡単に言えば…超越体専用の拘束具」
「あぁ…わかった。逆に霊界っていうのはどういうところ―――」
「知らん」
「え、知らないって…⁉」
「その手の話は現地の俺の友人に聞いてくれ。じゃあ出発は明日だから。飯食った後に準備しとけよ」
「わ、わかった…」
そう言うとオーディンは何処かに行ってしまった。
勇輝は置かれている夕食を食べテントに入る。
そしてすぐに横になった。
だが、また寝付けない。
今回は理由がわかっていた。
(死にに行く気がして嫌だな~)
冥界に行くということに少しばかり抵抗感がある。
勇輝は心の内で逃げ出したいと考えてしまう。
その際、首に付けている花のネックレスが目に入る。
(年下の女の子が頑張ってんだ。俺が頑張んねーでどうするんだ。)
勇輝は無理矢理目を閉じ眠る。
そして次の日———
勇輝は冥界へ出発した。
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