第1話 森の旅路

「ヤバい……喉が…………」


 森から出るために動き出したはいいものの、しばらく動き回ると喉の乾きで意識が飛びそうになる。


(そういえば水分取ってねー!!)


 何とか水を得るためにも歩くが、勇輝の視界には川や池などは見えなかった。


(やべぇ……意識が………)


 意識が途切れそうになり、足を滑らす。

 そして勇輝は運悪く、自然にできた落とし穴に無様にも落下した。


(何で今日はこう、何度も落下するかなぁ…)


 意識を保ちながら落とし穴から這い上がり、再び歩みを進める。


 絶望感———


 それが脳内埋め尽くし、自然と視線は下を向く。

 そこに追い打ちを掛けるように周りには霧がかかる。


(何で俺がこんな目に―――)


 思い返すとロクでもない十七年の人生だった。

 物心ついた時には母の再婚相手の継父に疎まれ、その連れ子にはストレスの捌け口に。

 挙句の果てに家を追い出され、母方の実家に預けられていた。


(何でいつも……俺が………!!)


 怒りが湧き上がる。

 理不尽にも不幸は勇輝にいつも付き纏う。

 だが今は、その怒りが途切れそうな意識を何とか繋ぎ止めていた。


「クソ…………クソッ!!」


 不満を叫びながらも歩みを止めず進む。

 そしてついに


「ようやくかよ……」


 視線の先の開けたところには泉が現れる。

 それを見て思わず泉に向かって駆け寄った。

 その水が体に及ぼす影響を考えず水を掬い上げ、ただ我武者羅に口運ぶ。

 そのようにしているうちに喉の渇きは収まる。

 落ち着きを取り戻したことで、揺らいでいた水面も落ち着き、木々の隙間から差す朝日によって鏡のように周りを反射する。


「何……で…………」


 水面に映る自分自身の姿を見て、勇輝は驚きを隠せなかった。

 その水面に十七歳の青年の姿はなく、小学校高学年ほどの少年の姿が映る。


(まさかこの水のせいか⁉)


 だが身に着けている麻製の服はその幼い体に合ったサイズだった。


「まさか……あの時に⁉」


 魔法陣(?)で転移した際、服装が今着ている麻製の物に変化していた。

 そのことから、体の若返りが起こったタイミングはそこしか考えれない。


(あの女神…!!次あったら覚えとけよ!!)


 次の瞬間、何かの気配のようなものを感じる。


(誰だ⁉)


 その方向を見ると一つの白骨化した死体が木に寄り掛かっていた。

 そしてその死体の横には、目の前の死体が生前持ってきていたであろう荷物が置かれている。

 その荷物の中には、旅で必要となりそうな道具ツールがしっかりと入っていた。


(すまない……使わせてもらうな)


 持ち主への謝罪の言葉を思いながら、荷物から地図と

 水筒を取り出す。

 そして水筒を水で濯いだ後、新たに水を水筒に汲ん

 だ。


「これで数日はどうにかなるかな……」


 だがここで一つ気掛かりなことが思い浮かぶ。

 それはこの目の前の死体の死因がわからないことだ。


(もし他殺だとしたら、気を付けねぇとな)


 勇輝は頂戴した地図を見て、この森が北欧領内の国で

 あるゴスティルの”聖臨せいりんの森”という場所だということがわかった。

 また、”聖臨の森”から近くの町に流れる川があることがわかり、その水源がこの目の前の泉だということは

 容易にわかる。


(この川沿いを歩いて行けば、何とか森を抜けられそうだな)


 そして勇輝は川沿いを歩き出した。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 勇輝が泉を去る姿を息を潜め、眺める者がいた。

 そしてその姿が見えなくなると陰から姿を現す。


「気味が悪いほど似ているな」


 そう言うと男は腰にある剣を引き抜き、死体の前方の地面に突き立てる。

 すると泉から石柱が音を立てながら出てくる。

 その石柱には青い光を放つ石が埋め込まれており、男はそれを取り出す。


「こいつをへファイトスに渡せばいいんだな」


 そう言って男は暗い森に消えていった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 ゴスティルの首都”ヴォルビマナ”の王城にて―――

 一人の少女が憂鬱な表情を浮かべながら目を覚まして

 いた。


「ディア王女、お召し物をお持ちしました」

「えぇ……ありがとう」


 ディアにとって朝の訪れは、その憂鬱の原因でしか無かった。


(何で私って生きてるんだろう)


 そう考えている間にも、城の使用人はディアの身支度を整えていく。

 そして身支度が終わらないで欲しいというディアの思いも空しく身支度が終わり、食事のために城内の食堂に向かう。

 出来れば食堂に行きたくはないが、今日は国王からそこで大切な話があるとのことで、必ず行かなければならなかった。


(どうせ私には………)


 食堂に着くとそこには第二王女を除く全ての王族が集まっており、ディアも第三王女として、用意されている自分の席に着く。

 すると、国王は全員の顔を見た後、話し出す。


「今日は皆に話すべきことがある。それは近いうち、招く客人のことについてだ」


 ディアは一応その話を聞いていた。

 この時はディアは自分自身には関係のない話だと思っていた。

 だがディアは知らなかった。

 その客人が自分のその後の人生を大きく動かす、重要な人物だということを。



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