第16話 私は黙ってうなずきました
その夜は村の収穫祭でした。村の広場では焚火が燃え上がり、村人はその周りで好きなように飲み食いし、歌い踊っています。
私はその輪の中に加わり他愛もない会話を楽しんでいました。
「ねえ、エレーヌ、ダルトンとはどうなってるの?」
この村で一番の仲良しのフローリアが唐突に訊いてきました。
「どうって、どういうこと?」
私はその意味を察して、あえてはぐらかそうとしました。
「もう!いい加減、ダルトンとの関係をはっきりさせなさいって言ってるの!
幼馴染のあたしが言うのもなんだけど、あいつは底抜けにいいやつよ。あいつと結婚すれば絶対に幸せになれる、あたしが保証するわ」
「フローリア…」
そうなのだ、フローリアはダルトンの事が好き、それは見ていれば分かる。私がダルトンの告白に対する答えを保留し続けているのは、エドワードの事を完全には忘れられていないのもあるが、友人になったフローリアの思いを知ってしまった為でもありました。
「エレーヌさん、ちょっといいかな…」
村長会議を終えたダルトンがやって来て私に話しかけてきました。少し緊張しているようです。
「行ってきなよ」
フローリアは私にウインクしました。
* * *
ダルトンと私は村の集会所に入りました。
「歓談中に割り込んでしまってすいません…」
ダルトンは申し訳なさそうに頭を掻いた。
「いえ、大丈夫です」
私は緊張から何だかそっけない返事をしてしまいました。
「あ、あの、私は御覧の通りの田舎育ちで、貴族生まれのあなたとは釣り合わないかもしれない」
「そんな…そんな事ありません」
自分を卑下するようなダルトンの言葉を、私は慌てて否定しました。
「あなたの姿を遠くからでも見ているだけでいい、私はそう思っていました…
でも、もし許されるなら、残りの人生をあなたと歩みたい。あなたを笑顔にできる存在でありたい」
「ダルトン…」
「エレーヌさん、これを受け取ってください」
そう言ってダルトンはペンダントを差し出しました。
「我が家に代々伝わる花嫁の証です。私と結婚してください!」
遂にこの時が来ました、決断の時です。私の頭の中を様々な思いがぐるぐると回りました。
(ダルトンは私を愛してくれている…エドワードは私を愛してくれていたのだろうか?)
何だかこれはとてもズルい考え方に思えました。自分の思いではなく、他人の思いに従うことで、自分の思いに決着をつける事から逃げているのではないか?そんな気がしていました。
でも、私にどんな選択肢があるというのでしょう?
エドワードとの婚約は解消され、私の帰れる場所はもうどこにもないのです。
少なくとも目の前にいるダルトンに対して、私は好ましい感情を抱いている、今はそれに従うしかありません。
私は、黙ってうなずきました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます