第15話 俺は剣を構えて銃と対峙した

食堂を見回すと、壁際でひっそりと紅茶を飲んでいる少女がいた。あれは『笑わずの令嬢』、エレーヌ・ハバロッティ伯爵令嬢だ。

その時、俺はひらめいた、この子になら告白してもみんなジョークだと思ってくれる、と。


おれはエレーヌに近づくと、


「君の笑顔に惹かれました、俺…私と付き合っていただけませんか」


と言った。『笑わずの令嬢』の笑顔に惹かれるわけがない、これが俺なりのジョークだったのだが…


食堂は一気に大騒ぎ、女子の悲鳴、男子の冷やかしの声が入り交じる。


「あの…ありがとう、嬉しいです」


エレーヌは、はにかむように笑った。その瞬間、俺の考えは変わった、こんなに飾らない嘘のない笑顔を俺は生まれて初めて見た。

この人の笑顔を守っていこう…俺はそう決心した。


 * * *


「そんな下らない理由で?」


コーディは馬鹿にした目で俺を見た。


「好きになるのに、下るも下らないもないだろ。お前こそ何でエレーヌに固執する?」


「僕はエレーヌの方から誘われたんだ、君とは違う」


「覚えているぞ、確かに学園祭のダンスパーティーでエレーヌはお前に声を掛けた…でもあれは、友達のいないお前への同情だ!そんな事も分からないのか」


「黙れ!」


初めて怒りの感情を見せたコーディは懐から鍵を取り出した。


「エレーヌは地下室だ、この鍵が無ければ入れないよ。鍵が欲しければ本気でかかってくるんだな」


コーディは鍵をしまうと代わりに拳銃を抜き、俺に向かって構えた。


「この距離なら銃より剣の方が有利だぞ」


俺は剣を構え直した。


「どうかな、やってみなきゃ分からないさ!」


バン!コーディは俺に向かって拳銃を撃った。

俺は一瞬先に弾道を見切ると、一気に距離を詰めてコーディの喉元に切っ先を突きつけた。


しかし、俺はコーディを刺さなかった。


「わざと外したな?何のつもりか知らんが、お前の自殺に協力する気はないぞ。鍵をよこせ」


コーディはシニカルな笑みを浮かべた。


「鍵の話は嘘さ、エレーヌはもうここにはいない」


「なんだと!エレーヌをどこにやった?」


「僕の欲しかったエレーヌはもうどこにもいない。淑やかでありながら高貴さも持つ、それが僕のエレーヌだった。なのに、今のエレーヌはただの田舎娘に成り下がった!僕は生きる目的を失ってしまったんだ…」


「かわいそうな奴…お前はエレーヌに自分の理想を求めすぎたんだ」


「相手に自分の理想を求めるのは当然だろう?あんただってエレーヌに自分の理想を投影しているはずだ」


「エレーヌがありのままの自分でいられる事、それが俺の理想だ。エレーヌが変わったと言うなら、それだって俺は喜んで受け入れるさ」


コーディはしばらく黙っていたが、ゆっくりと口を開いた。


「だったら…丘の下の村に行くがいい、エレーヌはそこにいる。そして変わってしまったエレーヌを見て落胆するがいいさ。それが僕からエレーヌを奪ったあんたへの復讐だ…」

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