第6話 愛してるなんて言えません
「あの、あなたのお名前はなんでしたっけ?」
私はストレートに訊いてみました。
「君が冗談を言うなんて珍しいね。まあいい、付き合いましょう」
少年が私の言葉を都合いいように解釈するのはいつもの事、反論する気も起きません。
「僕はコーディ・ランバート。トナン地方の領主の息子です」
思い起こせば、ダンスパーティーで親は地方の領主とか言っていた気がする。トナン地方といえば高原の不毛な土地で収穫は少なく、領主と言えど無駄な金を使う余裕はないはず。
「こんな立派なお屋敷を造る無駄なお金はどこから出たんですか」
私は精一杯の皮肉を込めて言ってみました。が、コーディに伝わるはずもありません。
「ここはただの屋敷とは訳が違う。僕が研究施設として建てた場所なんだよ」
(このふざけた行為も研究の一環だと言いたいのか?)これ以上話に付き合っていたら頭がおかしくなりそうです。
「どうしたらこの屋敷から出して家に戻してもらえますか?」
「あなたの口から婚約破棄すると、僕を愛していると言ってください。そうしたらすぐにでも家にお送りしましょう」
(ああ面倒くさい、もう愛していると言ってしまおうか…)私は喉まで出かけた言葉を飲み込みました。
(ダメだ、それを言ってしまったら私の負けだ)第一、愛してると言われたコーディが素直に家に帰してくれるとも思えません。
「嫌です。愛してもいない人に愛してるなんて言えません」
「愛してもいないエドワードに愛してると言えるのに?それは矛盾していますよね」
「何を言うの?私はエドワードを愛しています!」
私は生まれて初めてと思えるくらいの大声で言いました。
「そう思いたいだけなんじゃないですか?愛してると言われたから愛してると思い込もうとした。
第一王子と結婚すればハバロッティ家の安泰は保証されたようなもの。君は自分の気持ちより一族の幸せを優先した…それが君に掛けられた呪縛です」
(違う!)とはっきり否定できるはずでした。なのに、心のどこかで、エドワードへの愛は本物なのか、周囲に流されのではないか、という疑念を捨てきれない自分がいるのでした。
「私は…」
「まあいいでしょう。ご自分で良く考えてみてください」
そう言ってコーディは部屋を出て行きました。
その夜、頭の中を考えがぐるぐる回って私は眠れませんでした。
「私はエドワードを愛している。でも、なぜ愛したの?
愛していると言われたから。いえ、それは理由にならない…
格好いいし、優しいし、ステータスが高いし…なんて薄っぺらな理由なの!
そもそも愛しているって何?言葉で説明できるものなの?」
私はドツボにはまってしまいました…
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