第2話 私は誘拐されてしまいました

意識が戻ると走る馬車の中でした。つまり、私は誘拐されたのです。

衛兵に警備された城からどうやって私を連れ出したのか分かりませんが…とにかくこの少年は何かとんでもない組織力を持っているのは確かなようです。えらい人物に目を付けられたものだと私はげんなりました。


嗅がされた薬品の効果なのか、体は動かず、話す事もできません。


「覚えているでしょう?聖夜祭で一緒に踊った日の事。あの日から僕は君の期待に答える為、日々自分を磨いてきたのです」


少年は私を見て言いました。


よく見るとどことなく少年の顔に見覚えがあります。私は必死に記憶を辿り、あっとなりました。


あれは3年前、学院生の時に一度だけ参加したダンスパーティー、寂しそうに佇む少年にシンパシーを感じた私は柄にもなく踊りに誘ったのでした。

それからしばらくして少年は私に交際を申し込んできました。でも、あの時にキッパリとお断りしたはず…


(違う!それは勘違いです。あなたに何も期待なんかしてません!)と言いたかったのですが口が動きません。私は少年の話を黙って聞くしかありませんでした。


「君の為に素晴らしい場所を用意しました。そこでゆっくりと呪縛を解きましょう」


(一体どこに連れていかれるのだろう…今頃、家族やエドワードは心配しているだろうな…)不安と悲しみで私の胸は張り裂けそうでした。


 * * *


夜が明けてしばらくした頃、私を乗せた馬車は荒涼とした丘の上に建つ屋敷に到着しました。


屋敷は石造りの二階建てで、手入れされた庭園を持ち、その周りは石造りの高い塀で囲われています。


私は二階の部屋に運ばれ、そこでベッドに横たえられました。


「ど…う…し…て…こ…ん…な…こ…と…を?」


やっと動くようになってきた口で私は訊きました。


「あなたはアイツと結婚なんかしたくないのに、呪縛を掛けられて愛してると錯覚している。だからここで僕が呪縛から解き放ってあげます」


「ち…が…う」


(オマエ何言ってんの!頭おかしいんじゃない?)と言ってやりたいのに、私はもどかしくて血が滲むほど強く拳を握りしめました。


「ではまた明日、ゆっくり休んでください」


少年は部屋を出て行く。その後、ガチャリと音がした、たぶん外から鍵を掛けられたのでしょう。

ベッドの上には質の良さそうなナイトドレスが置かれている、これに着替えろという事なのでしょうが、まだ完全には体の自由が戻っていなかったし、何より心が疲れ果てていたので、私はそのまま眠りに落ちました。

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