私の恋

雪うさぎ

第1話

「小雪ちゃんは?誰か、気になる人いるの?」

「えっ」


まさか自分に話を振られるとは思っていなくて、動揺で床に落としそうになったパックジュースを慌てて持ち直しながら、なんとか笑顔を作った。


「今は特に……いない、かな」

「えー!小雪ちゃんかわいいし、恋人いると思ってた!」

「意外!」


驚いた顔をする女の子たちに苦笑いを返して、私は心の中でそっと呟く。


(言えない)


(ゲームのキャラクターが好きなんて、言えない!!)




『おかえり、ユキ。今日もお疲れ様』


にこりと微笑んでそんなことを言われたら、もう私の疲れはどこかへ飛んでいってしまった。


ちなみにユキ、というのはゲーム内での私の名前。

オシャレで可愛いユキは、この画面の先で好きな人の隣に立って、いつも幸せそうに笑っているのだ。


「……画面の中に入れたらいいのになぁ」


今までに何度も願ったことを呟いて、そっと液晶に触れる。

当たり前にぶつかった指に、彼は「くすぐったいよ」とまた笑った。


好きだ。

その笑った顔が好き。その綺麗な目が好き。

いつも優しいけど、たまにいじわるな事を言う。そんなところも大好き。


今日学校で話していた女の子たちの会話を思い出す。


いつも優しくしてくれるところが好きとか、目が合うと笑ってくれるところが好きとか。

同じだった。同じなのに、私だけ。


私だけ、その身体に触れることはできない。



長時間画面に反応が無いことで、「どうかしたの?」と好きな人は眉を下げて私を見つめた。

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