彼岸羊水
籾ヶ谷榴萩
プロローグ 月端の向こう側
「ねえ兄ちゃん、知ってる?」
「なんだ?」
月明かりを眺めながら、自分の腕の中にすっぽりと収まる弟の頭を撫でる。
「生まれてこなかった赤ちゃんって、水子っていうんだって」
「ああ」
知っているけれど、この年の子供は自分の知っている知識をひけらかしたい年頃なのだろう。だから、知らないふりをして聞いてやる。同じ頃、同じようなことをして母親にそんなこと知ってると言われたのが、どことなく悲しかったからだ。
「でね、その子たちが、10歳の誕生日になると、家に帰ってくるんだって」
「誕生日って?」
そもそも生まれれこれなかったのだから、誕生も何もないだろう。
「生まれてこれたら、その日に生まれてたって日」
「……ああ、そういうこと」
もう直ぐ日付が変わるというのに、今日は随分と月が近くて丸い。カーテンを明け放っていると昼間とはまた違った造詣の明るさがある。
「これはね、友達から聞いた話なんだけど……」
話たがりなのか、弟は一向に寝る気配がない。仕方がない、あまりそんな話は趣味ではないのだが、聞いてやるとしようか。
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