第14話 ・・・これで、いいんだ

「スラク!そいつが犯人なの?!」


 その間にマィソーマお嬢様がやってきてしまった。


「・・・マィソーマ、にげ・・・ろ・・・がふっ!」


 お嬢様は崩れ落ちるスラクを抱きかかえ横たわらせて両手を組ませる。そのまま怒りの表情で愛用のパルチザンを構えている。


「アンタが犯人なのね・・・スラクの仇を討たせてもらうわ!」


 お嬢様が石床に付き立てたパルチザンを振りかぶる。


「はぁぁぁあああ!ラーヴァ・フロォォォオオオオオオ!」


 溶けた石床は溶岩となって僕の元へ一直線に突き進む。


「ラージ・シールド」


 僕が右腕を前に構えるとお嬢様のラーヴァ・フロゥは蒸気を上げてただの土塊となった。そう、昔から僕のラージ・シールドだけはお嬢様の技を無効に出来る。

 お嬢様がもう一度技を繰り出そうとした瞬間、右腕を振りかぶって間合いを詰める。


「シールド・バッシュ」

「くぁあっ!・・・」


 僕はパルチザンごとお嬢様を撃ちつける。やはりガランド・アザヌ・スラクにマィソーマお嬢様は貴族社会にいたためか冒険者時代より弱くなっている。

 お嬢様が再度石床から溶岩を作り出して刃先にまとわせる。


「跡形もなく消してやる、ラーヴァ・フロォォォオオオ!」


 至近距離攻撃か、こんな時にも後先考えずに技を放つのは変わっていない。


「・・・ミドル・シールド」


  どぱぁぁぁぁぁんっ!!


「がはぁぁあっ!・・・ぁぐ・・・」


 電撃を込めてお嬢様を5メートルほどふっ飛ばす。手放されたパルチザンを回収する。


「その盾・・・デルト・・・デルトなのね?!」


 バレてしまったか。しかしそれも時間の問題、僕はパルチザンを大きく振りかぶりお嬢様の目の前に突き刺した。


  ざくぅぅぅっ!!


「ぅぐ!・・・はぁはぁ・・・」


「もうお止め下さい、マィソーマ・カウンテス=ウルカン・・・いえ、マィソーマお嬢様」


 そう言ってローブを脱いだ。うつ伏せに倒れているマィソーマお嬢様は貴族らしく長く伸ばした髪をくくってまとめている。


「デルト・・・どうしてアタシを・・・」

「それを聞くんですか?貴方がたが僕に何をしたのかお忘れのようだ」


「・・・覚えているわ、でもあの時は仕方が無かった・・・Aランクになるためには」

「役立たずの僕は要らない、ということでしたよね?かと言って恨まれる筋合いはない・・・とは言わせませんよ」


 お嬢様の質問に軽く答える。一瞬パーティを追い出された光景が甦るが言葉通りの恨みつらみはもうない。


「お嬢様は僕に『アンタはぜんぜん強くなって無い』と仰いましたね?だから強くなって戻って来たんですよ、ガランドにアザヌそしてスラク・・・さすがに彼らを相手にするのは骨が折れると覚悟はしてましたけど・・・爵位をもらったお嬢様もですが冒険者の頃より明らかに弱ってましたね?これは拍子抜けだ、ハハハ」


 僕の嘲る笑いに怒りの表情を見せるお嬢様。


「ぐっ、あの3人をバカにすることはさせない!取り消しなさ・・・ぎゃぁ!」


 目の前に突き刺さったパルチザンに手を掛けたお嬢様は叫び声を上げて身をよじらせる。パルチザンに僕の電撃の力を残していたからだ。


「だからさっき『お止め下さい』と言ったでしょう?力の弱い僕がそのまま武器を返すワケないですよ・・・僕の真の力はよく身体に通っているハズです」

「はぁはぁ・・・真の・・・ちか・・・ぁがぁ!」


 僕はお嬢様の身体を蹴飛ばして仰向けにさせる。ダメージを与えるつもりはなかったけど、抱き起こしにいけばどんな反撃が待っているか分かったものではない。


「失礼ですが仰向けにさせてもらいました、これ以上コソコソ小細工をされるのも面倒なので・・・じゃあそろそろトドメといきましょう、ガランドを始末した技でね」


 そういった僕は水の入った革袋にいくつかの小さなカミソリを入れる。


「知っての通り僕の属性は水、なので水の中の物を自在に動かすこともできるんです・・・見ての通りカミソリを仕込みましたので」


「ガランドの切り傷の痕はそれが原因・・・ぁぶっ!!」


 恐怖で青ざめているお嬢様に革袋の水を頭にぶっかける。


「ご名答!僕の水属性は弱い、だったら刃物を仕込ませておけば殺傷力は十分です・・・この状態で相手の身体に取りつけば回避は不可能、人間の弱点の頸動脈なんて簡単に切り裂けます」


「あ、ぁぐっ!ぁぁああああああぁぁぁぁあああああ!!」


 カミソリを入れた水がお嬢様の首を這いずり回り貴族らしい長い髪を裁断していく、これから僕がする事にこの髪型は邪魔になるからだ。


「一度は失った身分と領地を取り返した英雄が何とも呆気ない結末だ・・・これでマィソーマ・カウンテス=ウルカンはこの世から完全に消えます・・・最後に遺言でもあればお聞きしましょう」


「で・・・デル・・・ト・・・アタ・・・しは」


「何ですか?僕を追放した事への謝罪なら聞きましょう・・・さぁどうぞ」


 お嬢様の小さい声を聞き取るため近づく。次の瞬間お嬢様は力を振り絞って声をだす。


「アタシが追い出したアンタに・・・謝罪なんかするかぁあああ!アタシの仲間を奪い、取り返したものを奪ってったアンタは・・・アタシの敵だぁぁぁぁ!遊んでないで早く殺しなさいよぉぉおおお!!」


 こんな時にも敵愾心が無くなっていない・・・これなら大丈夫だ、お嬢様なら僕がこれからする事に耐えられる。


「あっ・・・アハハハハハ!さすがお嬢様だ!こんな状況で戦う意思を失わないなんて・・・どうあっても引き下がらない根性、そんなお嬢様が好きだったんですよ!!」


「ぅるさい・・・!笑うな!!バカにするなっ!!!アタシはアンタのモノになんかならない!!殺せないなら自分で始末をつけてやる!!」


 意を決したお嬢様は口を開けて舌を噛もうとする。せっかく上手くいっているのに邪魔はさせない。


「ぐ・・・がはっ!!」


 心苦しいけどお嬢様の腹を殴りつける・・・苦痛のために口は開きよだれが漏れる。


「そうはさせませんよ、敬愛するお嬢様は僕の手で始末しますので・・・ではお休みなさいませ、パラライズ・ウォーター」


 お嬢様の胸に手を添え衝撃を与える。もはや叫び声さえあげられない。


 そしてお嬢様の心臓は・・・静かになった。


・・・これで、いいんだ。





 気がつくと一人の男がそばまで来ていた。


「・・・デルト、検分する」


 クライツ殿下の護衛および影目付のコオゥさんだ。殿下の命でマィソーマお嬢様の死を確認しにきたのか。お嬢様の遺体に手を当てていた僕は彼に場所を譲る。

 お嬢様の様子を確認したコオゥさんは一言。


「・・・確かに、任務完了」

「コオゥさん、殿下とは約束があります・・・」

「・・・正門でラヒルが待っている」


 そう言うとコオゥさんは音もなく姿を消す。採取クエストで一緒していた時とはまるで別人のような気配だった。あれが彼の正体という事か。


 もう動かないお嬢様の遺体を担いで背負う。そのまま屋敷の正門へ行く。


「デルト様、こちらです・・・早く」


 黒装束を着たラヒルさんが大きな荷物を抱えて待っていた。


「さぁ、これをお使い下さい・・・ご遺体を」


 そう言ったラヒルさんは古びた棺桶のフタを開けた。酷い臭いが充満している・・・こんな中にお嬢様を入れるのは申し訳ないけど仕方がない。


「ラヒルさん、ありがとうございました・・・僕はもう行きます」

「どうかお気をつけて・・・」


 棺桶を乗せた台車を引きずる・・・お嬢様は最後まで僕の手で。

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