プロローグ 余計な気遣いはご無用

 アタシは冒険者マィソーマ・ガイタス。Bランクパーティー「リュウコ」の火属性のパワーファイターで敵の足並みを乱す切り込み隊長だ。

 名前がカタいのでみんなからは「マイ」と呼ばれている。


 宿屋の一室でセンター分けの髪形をした幼馴染のデルトがパーティーメンバーから問い詰められている。小柄な体格なので一方的に圧力をかけられている感じだ。


「僕は・・・追放されるのか?」


 パーティーリーダーである坊主頭のガランドは面倒臭そうに言う。


「けっ、大層な言い方しやがる・・・要はテメェがいたら足手まといになるってこった」


 別段指示を無視したりするワケじゃないけど、何というかデルトは協調性が足りない。メンバーが全員闘志を燃やしている時でも表情を淡々とさせているというか。


「貴方のせいで先日のBランククエストは失敗したんですわよ?そのご自覚はありまして?!」


 ショートヘアで切れ長の目を持つアザヌがデルトを先日の事をほじくり返す。確かにあれはデルトのミスだった。アタシの火属性の攻撃を彼の水属性のスキルで結果的に相殺する形になったから。


「俺達は仲良しごっこでパーティーやってるんじゃない、そこントコロは分かっているハズだ」


 ミディアムヘアで少し鼻の高いスラク、普段軽口を叩いてばっかりの彼までが正論を突き付ける。ここにいる皆はそれぞれが名誉の為・お金の為・信念の為・復讐の為に集まったメンバー。そこには安っぽい友情なんてない。


「それは・・・分かってる!でも・・・戦闘の役に立たなくても雑用でいいから」


 力なく、それでも言い返すデルト・・・これ以上は黙って見ていられない。


「リーダー・・・・デルトにはアタシから言っておくから」

「ちっ、早く追い出せよマイ!」

「あ、ちょっとマィ・・・」


 強引にデルトの手を引いて宿屋の裏に連れ出す。



「デルト、ごめん・・・幼馴染だからってアンタを無理矢理引っ張ってきたアタシが言える事じゃないけど・・・もういいの」

「ま、マィ・・・」


「これ以上アンタがBランクの『リュウコ』にいると危険な目に合う・・・それがイヤだからこうして言ってるの、お願いだから・・・出て行って」


 昔から変わらず「マィ」と呼ぶデルトを切り捨てる。


「・・・なんでだよ!マィの領地が壊されて奪われたあの日・・・一緒にやって行こうって約束したじゃないか!!」


 デルトの言葉で光景がよみがえる。壊された防壁にモンスターと人間達の死体・・・どれだけの時間が経っても忘れられない。


「約束、そうよ!あの日の事は死んだって忘れない!だから冒険者になって『リュウコ』に入って腕を上げてきた・・・でもアンタはぜんぜん強くなって無い!」

「・・・・・・・」


 悔しそうに俯くデルトは一言も反論できない。盾役というのは敵の攻撃を防ぐのが役目。しかもデルトは積極的にモンスターを討伐する事よりもアタシ達の支援を優先するタイプ。というよりもモンスターを倒したところを見たことがない。


「領地を取り戻すのに必要なのは・・・圧倒的な戦力なの!これからアタシの道には戦いばっかり・・・アンタは優し過ぎるのよ!!」


 デルトはアタシの叫び声に目をいっぱいに見開いて驚愕する。

 しばらく無言の状態が続いた後、憔悴しきった顔のデルトが呟く。


「そうか・・・所詮僕はお荷物という事か、僕はマィを守るために頑張ってきたけど・・・マィには必要なかったんだね」


 デルトの力ない呟きは逆にアタシを無言にしてしまう。


「分かった、マィの最後の頼みを聞かないワケにはいかない・・・僕は出ていくよ、それじゃお元気で・・・マィソーマお嬢様」


 デルトは今までずっと呼ばなかったアタシの本名「マィソーマ」呼びをする。

「マィ」呼ばわりと敬語無しはアタシが彼にお願いした事・・・それを止めたという事は完全に別れるという決意だ。


「うん・・・アナタも気をつけて」


 後ろを振り返ることなく去っていくデルト。追い出した彼をもちろん追いかけたりはしない。

 辺りの風景が歪んで見えてしまう。アタシにはそんな資格はないのに。



 素早く顔を拭く、不意に感じた気配のためだ。振り返るとメンバーの3人がやってきた。


「・・・ちゃんと追い出せたようだな、マイ」

「ええ、手間取らせてごめんなさい」


 ガランドはリーダーらしくドライにつぶやく。すでにデルト脱退の手続きは済ませたようだ。お陰で早く吹っ切れそうだ。


「次はマッドゴーレム100体討伐のクエストですわ、さっそくアイテムの準備にとりかかりますわよ?」

「分かってるわ、それじゃ道具屋に買い出しね?」


 アタシの気持ちを次のクエストへと持って行ってくれようとするアザヌ。彼女の現実主義な考え方はこういう時には有り難い。


「なぁマィソーマ、買い物は俺達で済ませておくから先に宿屋に戻っ」

「余計な気遣いはご無用、さぁ行きましょう!」


 スラクの気持ちだけもらっておく。休んでいるより何かしている方が落ち着くから。

 Aランクが目の前に来ている今、ここで立ち止まるワケにはいかない!

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