第5話 リスクとクスリ
憲介はトイレから出たあと正直にコソコソと調べていたことを西畑に言った。
「すみません。なんか。」
「いやいや、身分もあかさず依頼に来た私が悪いんですよ」
ハハハハッと西畑は明るく笑って答えた。
「雑談もこのへんにして.....」
西畑の表情が明らかに変わった。
「私の依頼を聞いて貰えます?」
先程までのが営業スマイルだったのが明らかにわかるような変貌だった。
「そうですよね。はい、どんな依頼ですか。」
「まず、これを見てもらいましょか。」
そういうと西畑は持っていたアタッシュケースを机に置いた。ポケットから鍵を取り出してかかっていた南京錠を開け、パチッパチッと両側のロックを外した。西畑はおもむろにケースを開けた。
「これが……」
憲介は思わず音を立てて息を飲んだ。
「これが依頼金です。」
「全部で1000万円です。」
「ど、どうゆうことでしょうか?」
「どうゆうことも、こうゆうこともありません。私の依頼を受けてくれたらコレがあなたのものになるんですよ。」
憲介の頭は完全に混乱しきってしまった。
「いやいや、受け取れませんよ。ウチは一、二万が相場でして。」
「別に私の嫁さんの浮気調査してもらうんじゃないんです。1人の人間について調べてもらおうかと思うてるんです。」
憲介ようやく西畑が関西弁で話し出していることに気がついた。それも少し脅すような感じで。
「もちろんリスクもあります。でも、危険とちゃいますよ。ただただ.......」
西畑はそこで不自然に言葉を切った。
「ただただ?」
憲介の額はもう全体が湿っていた。
西畑は異様に落ち着いた様子でこう言った。
「ただただ結婚してもらうだけです。」
「は?」
「あー勘違いしないでくださいね。私と結婚してもらうっちゅーわけじゃないですよ。」
ここにきて急に西畑は冗談を言ってきた。それが逆にこの場を奇妙な空気にした。
憲介は落ち着かなくなり、ついにフリスクを服用した。
「すみません。もうちょい詳しくお願いします。」
「私が調べて欲しい水森ちゅう女の人と、あなた、えー、円谷憲介さんが結婚して欲しいっていう依頼です。」
「いやなん...」
「彼女の本名を知りたいからです。」
憲介の言葉を遮ってそう言った。
いつもは舐めているだけのフリスクを人生で初めて噛み砕いた。
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