冬の舞姫は宮様の好意に気付かない
千賀春里
第1話 舞姫
冷たい空気が肌に沁み、鉛色の空から舞い降りる白雪が冬の訪れを告げている。
内裏では紫宸殿で催される新年の舞を一目見ようと多くの貴族達で賑わっていた。楽の音が飛び交い、その音に合わせて舞姫達が美しい舞を披露していた。
紫宸殿の高御座に座る帝は満足そうにその舞を見ていた。殿上を許された公達も舞を捧げる舞姫達に目を奪われている。
疲れた……。
何せ舞を見せるのは今日で何回目か分からない。疲れもする。
連日の練習で蓄積された疲労、人前に出ることの精神的負担で身体は今にも倒れそうだ。
冬の舞姫に選ばれた初季は今まさに舞台の真っ最中であり、舞も終盤に差し掛かっていた。
藤原初季は左大臣を親類縁者に持ち、左大臣の強引な推薦で舞姫として舞を披露することになってしまった。舞姫に選ばれてからは特訓の日々だった。何度、頓挫しかけたか分からない。こんな大役を務める日が来るとは露にも思わなかった為、舞などほとんどしたことがなかった。
有権者の姫達はおそらくこの日の為にと練習していたのではないだろうか、初季よりも断然上手かった。
自分の下手さが浮き彫りになるだけで恥をかきに来ただけのような気がしてならない。
楽の音に合わせて扇を仰ぎ、舞を終えた。
やっと終わった……。
帝の御前で礼を取り、下がろうとした時だった。
つんっと裾を踏み体勢が崩れる。
マズイ……!
そう思った時にはもう遅く、けたたましい音を立ててひっくり返ってしまった。
凄まじい音を立てて転び、扇が板の間に落ちて広がる。周囲からは笑いを堪える声が聞こえてくる。
もういっそ堪えなくていいから、普通に笑ってくれ。
とりあえず、板の間に顔面をぶつけるのは避けられた。
恥ずかしいがいつまでもここで寝転んでいるわけにもいかないのでゆっくり身体を起こす。
痛たい……。
もう終わりだと、気が緩んでいたせいだろう。
御前に改めて礼をとり、何事もなかったかのようにその場から下がる。
その間も嘲笑は消えなかった。
もうどうでも良いよ、ホント。
とにかく五節の舞を終えることが出来て良かったと初季は安堵した。
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