第33話 幕間
ここはとある男の書斎である。
「おい!まだ王家からの連絡は来ないのか‼︎」
焦りと怒りの表情でその男は執事長に向かって怒鳴り立てた。
一度王家に対して戦力の支援をお願いしたのだが、素気無く断られたこの男は再度王家に連絡を送っていた。
「申し訳ございません。まだ連絡はございません」
怒鳴られた男は深々と頭を下げた。
「フン、使えないやつだな。私の可愛い娘を殺した罪を償わせてやらねばならぬというのに・・・・・・。あと1週間もないのだぞ⁉︎戦力はどうなっている‼︎」
男はアーノルドから送られてきた自身の娘の首と宣戦布告受領の宣告を受け、恐怖より怒りが頭を支配していた。
自身の娘を可愛がり好き放題させていたがための結果なのであるが、この男にはそんなことは想像できないのである。
そもそもこの男がこのような人物だから娘があのように育ったとも言えるだろう。
あわよくば公爵の妾に、それがダメでも公爵家の子供達の妾や貴族の騎士達の妻となれば良い暮らしが出来、貴族としての格も上がると思ったため送り出した。
最初はヴィンテール侯爵家からの打診を受け、借金を帳消しにする代わりに手先となる侍女を借りたいという連絡を受けたのだった。
領内には鉱石が取れる鉱山があるためお金ならたんまり持っているはずなのだが、家族の散財癖に鉱山での事故が重なり一時期莫大な借金を背負ってしまった。
その時に頼ったのがヴィンテール侯爵家であった。
そして此度のヴィンテール侯爵家からの提案は良いことしかなく、その程度で借金がなくなるならと二つ返事でその打診を受け入れた。
そして既に嫁いでいる長女を除く2人の娘にそのことについて話すとユリーが自ら立候補したのであった。
だが、三女はまだ幼いので当然の結果ではあった。
この男もユリーも公爵家のことを知っていはいるが知っているだけでその実態を全く想像できてはいなかったのである。
一般的な貴族の枠に当てはめて考えるという愚を犯していた。
『ダンケルノ公爵家には手を出してはいけない』
これは貴族の間では常識である。
だが、ここ数世代にわたって貴族や教会などが後継者争いの間にちょっかいをかけ、それが容認されている雰囲気が出ていた。
確かに基本的には後継者争いの間に公爵本人が出張ってくることはない。
そういった障害もまた成長には欠かせないものであるからだ。
しかし、皆が知らないだけで一線を超えた者達は秘密裏に処理されている。
程度の違いはあれど、自然死、事故死など誰にも分からぬ方法でそれらは為されていた。
それゆえ、最近の貴族達には弛みがあった。
特に若い貴族にそれは顕著に見られた。
「現在想定される我が領の戦力は騎士が200名に魔術師が100名、領民が500名ほどです・・・・・・」
「なぜそんなにも少ない‼︎」
そう言って男は机を思いっきり叩いた。
何も言えない執事長を見るや男は次の問いに切り替えた。
「我が領には騎士が500ほどいたはずだぞ⁉︎残りの300はどうした‼︎それに傭兵共も雇うのではなかったのか⁈」
「・・・・・・皆ダンケルノを恐れているのです。手を出せば死ぬまで追いかけるのがダンケルノと言われていますので」
「何を今更言っている‼︎私の父も今の公爵が後継者争いをしている時分に手を出していたが今でも生きておるわ‼︎あんなもの噂でしかないわ‼︎どいつもこいつも怖気付きおって。参加しないと言った騎士共から今まで払ってきた分の給与を返すように言ってこい‼︎それと相手の戦力は分かったのか⁈」
「い、いえ・・・・・・」
「役立たずが‼︎」
書斎のテーブルの上にあった分厚い本を執事長に向かって投げた。
執事長は避けることもなく頭に直撃した。
「申し訳ございません」
執事長は怒ることもなく深々と謝るだけであった。
「当人はたかが5歳のガキだ。戦力には考えんでいいだろう。問題は
「はい、その通りでございます」
「ならば、それほど付き従うような者はいないだろう。だが、公爵が見栄のために
この男もまた娼婦の子というだけでアーノルドのことを格下に見ていた。あくまで戦うのは公爵家とその騎士であり、後継者候補だとは思っていない。
「
「
その男はニヤリと笑って尊大な態度でイスの背にもたれかかった。
「で、ですが、
「何をバカなことを言っておる‼︎たかだ娼婦の子供風情にそんなもの付けるわけなかろう。それに後継者争いでは騎士達も主君を自ら選ぶそうではないか。なら、なおさらそのような心配をせずとも良い。少し考えればわかることであろう!まったく・・・・・・、使えんやつだ。そもそも100すら来ん可能性すらあるのだぞ!だが、施政者ならば常に最悪は想定せねばなるまい。その最悪が
この男はダンケルノ公爵家にいる
それゆえ、王家が唯一保持している
そうすれば、そう易々と攻め込むことは出来ないだろうと本気で思っていた。
だが、世間に公表されている
むしろ国ならば馬鹿正直に明かすわけがないのである。
だからこそ王家が自身の最大戦力を貸すなどするわけがないのである。
自己の視点でしか物事を見ない人には他者の考えを推察することなど出来はしないのである。
そのとき扉がノックされた。
「・・・・・・入れ」
低い声で短くそう答えた。
「し、失礼いたします」
ビクビクとした様子のメイドがその部屋に入ってきた。
「こ、こちらが先ほど届けられました。何でも緊急ということでしたので・・・・・・」
そう言ってメイドが差し出したのは一通の封筒だった。
その封筒の印璽には見覚えのない紋が刻まれていた。
一瞬この忙しいときにと怒鳴ろうとしたが、もしや、ということがあると思ってメイドからその封筒を引ったくるように奪い取った。
その封筒を乱暴に開けた男はその手紙の内容を読むと固まった。
徐々に険しい表情となり、怒りと悩みがごちゃ混ぜとなった表情でその手紙を何度も見ていた。
「こ、侯爵様・・・・・・」
見かねた執事長が声をかけた
しかし侯爵はその声に応えることはなくずっと唸っており、遂には頭を抱えたのだった。
「侯爵様!」
頭を抱えた侯爵を心配した執事長が駆け寄ろうとしたが、その前に侯爵が顔を上げて言った。
「シェリーとミオを呼んでこい」
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