第20話
あの後の後始末はそれほど難しくなかった。
騎士やメイド達には魔法の練習中の事故であるという説明をし、マードリーが魔法で部屋を元通りにしてくれたのでそれほど大事にはならなかった。
(黒いオーラか・・・。これはなんなのだろうな)
元通りになっていく部屋を見ながらアーノルドは自身の黒いオーラについて考えていた。
(普段は金色のオーラだが、黒色になるときもある。黒色が確認されたのは1度目はコルドーとのエーテル循環、2度目はさっきの出来事・・・)
「なぁ、オーラの色が人それぞれ決まっているってのは本当なのか?」
「う〜ん、それね〜。正直わからないってのが私の答えね」
「お前はマナやエーテルを存在しないものと考えているなら、そもそもオーラというもの自体あるのか?」
「出そうと思えば出せるわよ?」
「色を変えることは出来ないのか?」
「っ!そうね、出来ないのよ。私のオーラの色はいくらやっても赤にしかならないわ」
マードリーは苦虫を噛み殺したような顔をした。
「それについて考えるのはやめておいた方がいいわよ。もし魔法や剣術を制限なく使いたいならね」
「わ、わかった」
アーノルドは思考を強制終了させた。
「さて、座学も飽きてきただろうし、最後に魔術師の階級だけ説明して庭にでも行きましょうか。魔術師の階級は5つに分けられるわ。
マードリーは指を一本ずつ上げながらアーノルドに向かって話した。
「あなたはどのくらいまでなりたい?」
「当然頂点だ」
うんうん、と嬉しそうに首を縦に振りながらマードリーは嬉しそうにアーノルドを見ていた。
――∇∇――
「さて、それじゃあお待ちかねの初めて魔法を実践するお時間ですよ〜」
マードリーはバッと手を大きく広げてウインクしながらそう言ってきた。
「それでどうしたらいいんだ?」
「簡単に言ってしまえば、自分の起こしたい事象を明確にイメージするだけよ。あ、最初にやるのは水を出すとかくらいにしておきなさい」
「それで出来れば苦労しないと思うが・・・・・・。もう少し具体的に何かないのか?」
「う〜ん、あなたは魔法が使えるってイメージを持っているかしら?」
「いや」
「それなら、まずは魔法が使えることが当たり前だと頭を騙すことね」
アーノルドはマードリーの説明を聞き、こいつを教師にするのは早まったか?と思ってしまった。
「じゃないと魔法を自由に使うことは出来ないわ」
「そう言われてもな」
前世では魔法などなかったので使えるイメージなど微塵も持てなかった。
アーノルドは手に力を込め手から水が溢れてくるイメージをした。
しかし全く出てくる気配がなかった。
「とりあえず、一度私が魔法を使うからそれを見て自分も使えるとイメージしてみなさい」
マードリーはアーノルドから少し離れた。
「こんな感じよ」
マードリーの周囲にまるで生きているかのように水が渦巻き始めた。
太陽の光が反射して水がキラキラと輝き、まるで水が踊りを踊っているかのような状態の中心にとても美人であることは間違いがないマードリーがおり、それはとても神秘的で美しい光景に見えた。
アーノルドに、自分もあれをやってみたいという気持ちを起こさせるには十分な光景であった。
そしてマードリーの周りを渦巻いていた水の一部がアーノルドに近づいていきアーノルドを飲み込んだ。
すぐさま周りに控えていた騎士達が駆け寄って来ようとしたが、アーノルドは手でそれを制した。
(何の真似かと思ったが、水の中にいるのに何も感じない。温度も液体感も・・・・・・。そもそもこれは水なのか?・・・・・・それに呼吸すらできるのか)
アーノルドは反射的に息を止めていたが、水とは思えないその魔法の中で口を開け水が体内に入ってこないことを確認してから呼吸をしてみた。
「あら、いきなり呼吸をするなんて度胸があるのね。でも戦闘の際にそんなことしてはダメよ?もしこれが悪意ある攻撃ならその魔法を体内に忍び込ませていくらでも体内から攻撃できるのよ?」
実際そんなことができる魔術師などほんのひと握りであろうが、可能性があるのならやるべきではないだろう。
マードリーは指をこちらに向けてウインクをしてきた。
アーノルドが怪訝に思っていると
「ゴハッ‼︎・・・ゲホッゲホッ・・・」
マードリーはアーノルドに纏わせていた水魔法を本当の水に変えたのである。
マードリーの制御を失った水はすぐに地面に落ちていったがアーノルドは水を少し吸い込んでしまった。
「こんな風に自由に出来るのよ?」
「ゲホッ‼︎・・・なるほどな」
アーノルドはびしょびしょになりながらも不敵に笑っていた。
「どう?少しはイメージ出来たかしら?」
マードリーも全く悪びれることもなく楽しげにアーノルドを見ていた。
メイドが慌てたようにタオルを持ってアーノルドに駆け寄ってきた。
「ああ、それはいらないわ」
マードリーはメイドにそう言ったあとアーノルドに手を向けるとアーノルドが一瞬で乾いた。
「ね!便利なものでしょ?」
マードリーはまるで幼児のように楽しそうにはしゃいでいた。
「ああ、そうだな」
アーノルドはそんな様子のマードリーに軽く呆れながら先ほどの魔法のことを考えていた。
そして、アーノルドは自らの手を見つめて手のひらを下に向け蛇口から水が出る様子を思い浮かべた。
それから5分くらいが経過した。
その間誰も言葉を発することはなく、アーノルドは静かに目を閉じ精神統一をしてひたすら蛇口から水が流れる様子を想像していた。
しかしまだ出る気配はなかった。
マードリーも初日はアーノルドの自由にやらせるつもりであった。
いきなり自分で考えさせることもなしに教えるだけというのは発想の柔軟性に支障が出ると思っていたからであった。
そのとき、ピチョンとアーノルドの手の平から水滴が地面に落ちた。
おお〜と周りから歓声が上がった。
アーノルドは目を開け自分の手を見つめた。
「おめでとう。まさか初日に使えるようになるとは思わなかったわ」
「使えたと言ってもたかだか水を1滴出せただけだけどな」
「まぁみんな最初はそんなもんよ。使えただけでもすごいわよ。あとは練習あるのみね」
アーノルドはその後もひたすらイメージの練習を繰り返し、日が暮れるまで魔法の練習をやめなかった。
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