第8話見てしまえば、揺れる

放課後になり、椅子から腰を浮かせ立ちあがろうとした俺に、駆け寄ってきた田辺が二人で下校しないかと誘ってきた。

「かっちゅん、一緒に帰ろ」

「ああ……」

彼女に生返事を返すと、彼女が表情を曇らせ顔を近付けて覗かせる。

「……言いたくないなら良いんだけどさ、昼休みになんかあった?」

「おそ……っとぉ、迫られた」

襲われたと言いかけ、言葉を柔らげて返した。

「宮間さんに?」

「……ああ。誰かに訊いたのか?」

隠しても無駄に終わりそうで、正直に答えた俺。

「うん、まあ……うだね。衣織から……」

「そう……帰るか、そろそろ」

「うん。帰ろ……」


俺と田辺は教室を抜け、会話を交わすことなく校舎を出た。

校門を通り抜け、「あちぃ……」と小声で愚痴ってから、「田辺はさ——」と彼女に話しかけた俺。


彼女はからかうことなく、大人しく相槌をうつだけだった。

俺は——彼女の表情かおを視界に入れようとはしなかった。


だって……——。

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