変態女子中学生 私を丸裸にして
豚肉丸
第1話
「……ここは?」
「あっ、起きた」
「……あなたは誰ですか?」
「えー、ひどいな。同じクラスの胡桃だよ。葉月胡桃。覚えてない?」
「あっ、葉月さんですか……えっと、こんばんは……?」
「そんなに気を遣わなくても結構よ。一応クラスメイトなんだし」
「わかりました……それで、この部屋はなんなんですか?」
「下にある紙を読んで。大体わかるから」
「この紙か。えっと、ネットラジオをしないと出られない部屋……って何ですか?」
「アタシもよく知らないけどね、なんかこの会話は誰かに聴かれてるっぽい」
「えっ、聴かれてるんですか」
「最近親友の子が話してたんだけど、最近話題のネットラジオに『ネットラジオをしないと出られない部屋』ってのがあるの。日本中からランダムに二人が選出されて、マイクとかの基本的な機材が置かれた無機質な部屋に閉じ込められる。そして、二人で三十分ぐらい語り合うって内容のラジオ番組。どう?今の私達の境遇にそっくりでしょ」
「確かにそっくりですね。目が覚めたらこんな部屋にいて、しかも目の前にはマイクが置かれてて」
「でしょ?だから多分、ネットラジオをしないといけないんだと思う……じゃないと出られなさそうだし」
「でもボク、ネットラジオなんて聴いたことも無いから進め方なんて知りませんよ」
「アタシはちょっと聴いてた時期があったから何となくなら知ってるよ。とりあえずお便りを読んで世間話でもしたら良いんじゃないの?」
「知りませんけど……簡単そうですし、そんな感じで進めましょうか」
「てか今のアタシ達の声もリスナーさんには聴こえてるのかな?」
「……マイクの電源が点いてるので、多分聴こえてるんじゃないですか?」
「そっかー……いやはや、待たせて申し訳ございませんね。今すぐ始めますので」
「タイトルコールはどっちが言います?」
「タイトルコールはアタシが言うよ。てかキミ、タイトルコールは知ってるんだね」
「ラジオの冒頭ってエコーを付けながらタイトルを言うイメージが付いていたので……これってもしかして偏見ですかね?」
「いやいや、イメージ通りだよ。色々あれど、大抵冒頭にはタイトルを誰かが言う。ラジオを人の記憶の中に印象づけるためじゃない?」
「そんな効果があるんですね。初めて知りました」
「ま、この話は一旦置いといて……それじゃあ始まりますよ。ネットラジオをしないと出られない部屋!今回の放送は葉月胡桃と」
「……」
「ほら、名前言って」
「あぁ、これ名前を言わなくちゃいけないんですか」
「その方がリスナー的にも助かるでしょ。この二人が会話してるんだなって瞬時に理解できるから」
「そういうもんなんですか?」
「そういうもんなのよ、ラジオって……ゴホン!では気を取り直して……今回の放送は葉月胡桃と」
「藤丸悠人」
「がお送りします!それでは楽しんでね!」
「じゃあまずは……互いの自己紹介から始めたらいいかな?リスナーさん達はまだアタシたちのこと知らないと思うしさ」
「それでいいと思います……それで、どちらから先に行きますか?」
「アタシからいっちゃおうかな。悠人クンは自己紹介とか慣れてないでしょ?」
「合ってますね、凄い偏見ですけど」
「あはは、ごめんごめん。ま、キミは慣れていないから、まだちょっとでも慣れてるアタシからの方が進めやすいっしょ」
「そう、ですね」
「では……えっと、アタシの名前は葉月胡桃。そのまんまクルミちゃんって呼ばれてる。クルミは食べたこと無いけどね。さっきも言ったけど、一応親友の子からこの番組の存在自体は教えられてるから安心してね。好きなもの、ってか好きな人はまふまふとかの歌い手さん。リスナーにも聴いてる人はいるかな?嫌いなものは勉強と部活の顧問の先生。話したら長くなるから言わないけどさ、ほんと面倒くさくて嫌いだわ……はい、アタシの自己紹介終わり。キミの番だよ」
「あっ、えっと……どうも、初めまして……藤丸悠人って言います。そもそも人と喋ることに慣れていないし……このラジオの存在も初めて知りましたが……がっ、頑張ります」
「ちょっと硬くない?もう少し柔らかく柔らかく」
「えっと……すみません、柔らかく話すってことがわからなくて……」
「う〜んまあいいか。きっと進めてる内に自然と柔らかくなってるでしょ……それで、自己紹介も終わったし世間話でもする?」
「……ネットラジオって世間話から始まるんですか?」
「アタシが聴いたラジオではそうだったよ。テレビにもよく出演してる有名な芸人さんのコンビで放送するラジオなんだけどね、最初はよく世間話で駄弁ってた」
「世間話ですか……そういえば、あの……胡桃さんは、お付き合いをしたことってあるんでしょうか。その、男の人と恋愛的な経験をしたりとかは……」
「それ世間話じゃなくない?別に話したいテーマも無かったしそれでいいけどさ……アタシはまだ付き合ったことは無いよ。こんな見た目だけどね、男と付き合ったことは無いかな。ま、前に何回か告白されたけど断っちゃったからってのもあると思うけど」
「そうなんですか……ちなみに理由とかは……?」
「断った理由ね。って言われてもそんな複雑な理由じゃ無いけどね。ただ単にアタシの好みに合わなかっただけで。人間性も何も知らない状態で告られたところでアタシは告った奴の性格も、どんな人生を歩んだのかも、好きな食べ物も、休日の過ごし方も何にもかも全部知らないんだから。イケメンでもないし。イケメンだから良いってワケじゃないけど」
「そうですか……」
「……どうかした?」
「いえ……なんともありません。先に進めてください」
「キミがそう言うならいいけど……ええとそれでは、次の話題へ行こうか。ところでさ、最近ハマっていることって何かある?」
「ハマっていることですか」
「そう、ハマっていることについて」
「うーん……ボクは絵を描くことにハマっています。基本的には模写ですが」
「へぇー絵を描くんだね。凄いねキミ」
「いっ、いえ、そこまで凄くないですよ。ボクの絵なんてイラストと呼べるのかさえ恥ずかしいんですから……」
「そう?キミの描いたイラスト自体は見てないけど、そんなに自分を卑下する必要は無いと思うけどな。頑張ってるんだし」
「そっ、そうですかね……」
「そうだよ。絶対そう。頑張ってる自分をもっと労わるべきだよ。『人間の美徳はすべてその実践と経験によっておのずと増え、強まるのである』ソクラテスの言葉よ。何事も描いていけば、必ず成長するから」
「あっあのっ、その……ありがとうございます……」
「次の絵が完成したらアタシに見せにきてよ。評価してあげるから」
「……葉月さんは絵を描いたことがあるんですか?」
「ぜーんぜん。全く、一ミリも無い。そもそも絵を描きたいって思ったことすら無いから。あっ、でもね。絵の感想だけは言えるよ」
「言えるんですね」
「うん。結構西洋画とか好きだしさ」
「そうなんですね……じゃあ今度、完成したら持ってきますから」
「楽しみに待ってるからね」
「そろそろリスナーさんからのお便りのコーナーに移ろうか」
「リスナーからお便りって来てるんですか?」
「それがね、来てるらしいんだよ。親友ちゃんが話してたけど、リアルタイムで募集してるらしくて」
「えぇ……じゃあ、このラジオって本当に聴かれてるんですね」
「そうみたいだね。アタシたちはマイクに向かって話してるだけだから聴かれてる実感とか湧かないし」
「それで、お便りはどうやって読めるんですか?」
「知らない。アタシもこんなの初めてだし、今までこのラジオを聴いたことないから」
「なんか決められた手順とかあるんじゃないですか?」
「知らないって……きっと運営側がなんかしてくれるでしょ」
「そもそも運営なんているんですかね」
「知らないよ……あっ、来た」
「来ましたね」
「ええと、多分音声だけ聴いているリスナーさんには何が起きたかわからないと思うから説明するけど、天井からパッと手紙の山が現れたんだよね」
「こんなにお便り届いてたんですか」
「とりあえず一つだけ拾って適当に読もうか。えっとこれは……『二人は付き合ってますか?』って」
「……」
「いやいや、明らかに付き合ってないでしょって。付き合ってたらこんな距離感で接しないし、さっきの時点でアタシに彼氏はいないってちゃんと明言してるし」
「……」
「黙りこくってるけどどうかしたの?」
「いえあの、付き合ってるって言ったら面白そうだなって思って……」
「……えっ?」
「いえ、やっぱなんでもありません。変なこと言ってすみませんでした」
「……まぁいいか。こんなくだらないお便りは置いといてさっさと次のお便りに行こうよ。えっと……『お二人は学生とのことですが勉強は好きですか?よければ理由までお願いします』って。これは良いお便りだね」
「葉月さんはどうですか?」
「アタシ?アタシはもちろん嫌いだよ。こんな見た目と話し方だからすぐ察せると思うけどさ、大っ嫌い。数学とか英語とか。学んで何になるのってずっと思ってる。そんなの学ぶよりか今しかできないことをした方が楽しくない?失われた青春の時間は戻ってこないんだよ。そんな青春の時間を勉強なんかに使ってて満足できるの?」
「ボクは好きですけどね、勉強。だってほら、日常のいろんな部分で役立つじゃないですか。国語を学んだら本を読めますし、数学を学んだら距離も測りやすくなるしお金の計算もしやすくなる。こんな感じで、学んでたら日常の至る所で使えるんですよ勉強の知識って」
「……私には心の底から理解ができないけど。まあきっと勉強を楽しめる層っていうのは人類の中で必ず一定数存在していて、その人たちがこれまでの化学とか言語とかを作ってきたんでしょ。そして、これからも勉強が好きな層が科学を発展させて地球をより豊かにしていく。まさにキミみたいな人間がね。でも、だからと言って勉強を押し付けるのは違くない?アタシは楽しみたくて学校に来ているのに。青春を謳歌しているのに」
「多分……葉月さんは勉強って行為に拒否感を示しているだけで、きっと学ぶこと自体は興味があるはずですよ。話を聞いている限りだと、興味関心がある分野を学び始めたらきっと伸びると思いますが」
「アタシが興味関心ある分野が無いから今こんな風になってるんだよ。自分のしたいことも好きなことも何にもわかんないから」
「それで楽しいですか?」
「楽しいに決まってるでしょ。青春を謳歌しているんだから」
「そうですか?ボクは逆につまんないと思いますけど」
「なんで?」
「だって、日常生活に生きる意味を見出していないじゃ無いですか。人はみんな生きる意味を抱えて生活しているのに、葉月さんにはそれが無いように思います。行き当たりばったりで衝動的な日々を過ごして、生きる目的すらもなくした生活を続けて……本当に楽しいですか?」
「……キミはさ、生きる目的なんか持ってるわけ?」
「持ってますよ。それについては……言えませんが」
「なんで?」
「……もういいから次に行きましょう。次に」
「はい、次ね。えっと『小学生の頃の黒歴史はありますか?あったら教えてください』だって」
「……黒歴史ですか」
「黒歴史だね。アタシにももちろんあるけど、キミの方がいっぱいありそうだし、先にキミの方を聞かせてくれないかな?」
「ボクからですか……」
「辛かったら変わってもいいけど、どう?」
「いえ、大丈夫です、頑張ります……えっと、小学三年生の時ですかね。ライトノベルを学校に持ってきて読んでたんですが、ある時それがクラスの他の人達にバレてしまいまして……しかも、冒頭の挿絵が肌色多めのイラストだったことも相まって馬鹿にされまして…。それが今でも心に残っている黒歴史です」
「ありがとうね、話してくれて。てかキミは今も学校にラノベ持ってきてるけど大丈夫なの?」
「そんなことをする人はいないってわかってるので……」
「わかんないよ。人間の悪意って底が深くて見えないからね。人間は誰もが悪意を抱えているけど、それを表に出さないだけなんだから。表に出してないだけでアタシもキミへの悪意を抱えているかもしれないし、キミもアタシへの悪意を抱えているかもよ」
「なんか哲学チックですね」
「テレビでなんか語ってた」
「そうですか……そういえば葉月さんの黒歴史って何かありますか?」
「アタシ?アタシのかぁ……ちょっと待ってね。今までの人生を振り返ってるから」
「黒歴史って一つ二つは心に刻まれているようなものだと思いますけど、もしかして黒歴史らしい黒歴史が無いんですか?」
「あるよ。アタシにも黒歴史なんていっぱいある。けど、何を言おうか迷ってるだけで。黒歴史の数って今まで生きていた中で大量に生産されていくじゃん。自分が自覚している黒歴史もあれば、自覚していないだけで他の人の記憶には刻まれている黒歴史だってある。その中から一つ選んで言葉に出力するって結構大変な作業だよ」
「言葉に出力するってそんな大変な作業なんですか……」
「逆にキミは大変じゃないの?」
「いえ、別に……ボク小説を書いているので、多分頭の中の風景を文字にするのに慣れているんだと思います」
「へえ。小説書いてるんだ。凄いね、どんな作品書いてるの?」
「それは……恥ずかしくて言えませんけど……」
「いいじゃんいいじゃん。アタシは聞きたいよ、キミの書いた物語」
「……ちょっとだけあらすじを言うと……平凡な高校生が異世界に転生するお話です。彼は勇者になるんですが、ある日妖精と出会ったことで事件に巻き込まれる……とか、そういうお話です」
「へえ……凄いじゃん。絵も描けて小説も描けるって。アタシは何にもできないから尊敬しちゃうよ」
「ありがとうございます……てかそれより、葉月さんの黒歴史の話をお願いしますよ」
「そうだったね。まあ、しょうもないようなことなんだけど。小学四年生ぐらいの時かな。親友ちゃんと遊んでた時なんだけど、調子に乗ってアタシは自販機で缶コーヒーを買っちゃったね。大人っぽさに憧れてたアタシはコーヒーを飲むことが大人っぽいことだと思い込んでいての行動だったんだけど……結局、不味すぎて吐き出しちゃった。それがアタシの黒歴史かな」
「……微妙ですね」
「でしょ。本当はもっと消したい過去とかの黒歴史があるんだけど、ここで話すことはできないかなって。この話は……アタシが唯一認めた人にしか話したくない。って言ってもその人はアタシの過去も知ってるんだけどね」
「そうなんですか……ちなみにどうしてボクはダメなんですか?」
「話したくないってだけ。キミだって話したく無いことの一つ二つは絶対にあるでしょ。自分が信頼を置いた人にしか話したくない話はあるでしょ。それとおんなじ。ただそれだけ」
「さて、ではそろそろ終わりの時間が近づいてきました。終わりの時間が定められているかなんてわかりませんが、きっと自分達の好きなタイミングで終わっていいんでしょうね。どこにも書いていませんから。さて、キミ。今日の感想はどうだった?」
「あの……少し言いたいことがあるんですけど、いいですか?」
「うん、いいよ。最後だしね、思いっきり言っちゃっても」
「あの、実は……その……葉月さんのことが、前からずっと好きでした」
「……なるほど」
「……」
「即答になっちゃうけど、いい?」
「……薄々勘づいていますけど……どうぞ」
「ごめん、無理かな。キミとは付き合えない」
その言葉を聞いて、ホッと安心する自分がいた。こんな男子を選ぶような子じゃないって安心した。
「確かにキミは話していて面白い人なんだけど、付き合うってのはまた違う。友達なら良いしこれからも楽しめそうだけど……でも、ごめん。付き合うのは無理」
「……何か足りなかったんでしょうか」
「足りないって訳じゃないよ。ただ、付き合いたいって人ではないし、アタシはキミに恋愛感情なんてものが一切湧いていないし、これからも湧かないと思う。それに……」
「それに?」
「……アタシさ、好きな人がいるんだよね」
心臓が飛び跳ねた。寝ぼけて落ちかけようとしていた私の意識が一瞬で目覚めた。
「名前は伏せるけど……幼馴染の子。さっき話してる時にたまに出た、親友ちゃん」
あまりに突然のことに驚き、私はしばらくぼーっと虚空を見つめていた。夢の話なんじゃないかとも思えた。
でも夢にしてはあまりにも現実と地続きだし、声も何から何まで再現され尽くしている。現実なんだ、現実なんだよこれは。
「好きって気づ……」
イヤホンを耳から外した。外したと言うより、スマホごと投げ飛ばしたと言った方が正しい。無意識の内に衝動的に投げたことで、しばらく自分がスマホを投げたことには気がつかなかった。ただ、気がついた時にはスマホは強い音を立てて床に転がっていた。
寝て全てを忘れよう。もしかしたらやっぱり夢なのかもしれないし、そうじゃなければ寝ぼけていたから幻聴が聞こえただけなのかもしれない
電気を消してベッドに入り込む。いつもの、変わらない枕の感触。変わらないはずなのに、いつもと違う感じがする。落ち着かない。目を瞑っても暗闇が来ない。眠気が来ない。心臓がバクバク鳴ってうるさい。うるさい。うるさくて堪らない。
翌日の放課後。校舎裏で葉月から告白を受けた。
「好きだ」と。
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