36







目覚めたら、住み慣れた我が家の天井があって。





「綾ちゃんっ…!!」


次には子どもみたいに泣きじゃくる、

母親の心配そうな姿がぼんやりと視界に映り込んだ。






徐々に覚醒する意識で、記憶を辿る。

公園で上原に好きだと言われ、乱暴にもキスをされて…


それから突然現れた芝崎が、上原を殴って…。

ふたりが喧嘩を始めてしまった。



そして…





(町田さん…)


そうだ…倒れた芝崎には、彼女が駆け寄ってきて、


泣きながら…アイツの名前を呼んでたんだ。





全ては自らの曖昧さが引き起こした、過ちなのに。

悔しくて、哀しくて、苦しくて。何もかもから逃げたしたくなって…



僕は現実逃避とばかりに、

都合良く気を失ってしまったんだ。








「大丈夫?怪我はしてないって聞いたけど…。」



そう小声で告げ部屋の隅に視線をやる母。

釣られて見れば、そこには壁にもたれて眠っているのか…目を閉じた上原の姿があった。


…傷だらけのままで、なんだかとても痛々しい。






「…彼から一通り聞いたわ。綾ちゃんに会いたくなって、たまたま家にいたから良かったんだけど…。そしたら彼…上原君が、グッタリした綾ちゃんを抱えて来るものだから…。」



心配したのよと、涙を浮かべ僕に縋りつく母。

その小刻みに震える手に、僕は自分の手を重ねた。





ふと視界に入った時計の短針は2を指していて。

カーテンの隙間から見えた外も、部屋の中も真っ暗だったから。おそらく、真夜中なのだろう。







「…ゴメン…仕事平気?」



上体を起こし、母の背をポンポンとあやすように擦る。すると取り乱していた母も、段々と落ち着いてきて。僕の顔をじっと見つめてきた。







「そんな心配しなくていいの!綾ちゃんが何か悩んでるのは解ってたのに…。ゴメンね、肝心な時にいつも傍にいられなくて…。」


「母さんのせいじゃないよ…だから、泣かないで?」


「でもっ…」



母子家庭であることに、責任を感じているのだろうけれど。


それを僕が不幸だと思ったことは、一度もなかったから…。だから母さんは悪くないよと告げたら…

母はぎゅっと抱き付いてきた。




しかし母は、上原に事情を聞いたと言ってたけれど…

一体、何処まで…知ってしまったんだろうか?






母は少し取り乱し、泣いてはいるけど。

いつもとそう変わらないみたいだし、告白の事とか、上原もさすがに詳しくは話してないのかなと…

思っていたんだけど。






「色々あったのねぇ。綾ちゃん可愛い癖に全然っ自覚が足りないから…。最初は男子校に行かせるのも不安だったのよ?」


「まさかこんなに男の子にモテちゃうだなんて…。パパに似て純粋だから、いっぱいいっぱい悩んだのね…。」


「…………」



…どうやら、上原は全て話してしまったらしい。



それこそ自らの気持ちも、芝崎の事も…相手が男だと言う事実も全部、バレている。





けどやっぱり、母はいつもと変わらないから。

敵わないな…と素直にそう思った。

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