33
無我夢中で、走る。
何処でもいいから、なるべく遠くへ。
偶然も必然にもぶち当たらないような、
独りの世界なら何処へでも────…
「待てって、水島…!!」
必死で走った筈なのに。
呆気なく上原に追い付かれ、腕を掴まれてしまう。
「うっ…くッ……!」
涙が溢れて止まらない。
例え道行く人の視線に晒されようとも…
今の僕では、どうにもならなかった。
「チッ……こっちだ…。」
そんな野次馬をひと睨みで一蹴し…。
泣きじゃくる僕の腕を、強引に掴んで歩き出す上原。
「ここなら…」
抵抗する気力も無く連れてこられたのは、
人目につかない小さな森林公園で。
木々が囲むその場所は、天気も災いして薄暗く…
僕ら以外の人影は見られなかった。
「うっ…ぅ……」
「水島…。」
嗚咽を漏らし、
悲しみに暮れる僕の身体ごと包み込まれ。
僕より背の高い上原が、今は更に大きいよう感じる。
「…もう、忘れちまえばいい。」
あやすように、諭す上原。
着崩した上原のカッターシャツには、僕が零す涙がポタポタと広がり…。いくつもの染みを作っていた。
「…アイツの事、まだ好きなのか…?」
「え…?」
何の事だか解らなくて、上原を見上げるものの…。
涙とレンズで視界がぼやけてしまい。
彼の真意を読み取る事が出来なかった。
上原は更にきつく僕を抱き締め、肩に顔を埋めてくる。
巷では悪名高い不良で。
生徒はおろか…大人までがビビってしまうような奴なのに。
今はまるで捨て猫みたいに背を丸め、
微かに震えてるみたいだった。
「俺じゃ、ダメなのか…?」
「うえ、はら…?」
弾かれ顔を上げれば、切なげに問う上原。
つり目の端正な顔立ちが、今は苦痛に歪められて。
縋りつくよう肩を掴まれた。
「アイツはっ…散々お前を煽っておいて、前の女が現れた途端に逃げてったんだろ!?それでもお前は、芝崎を────」
…────選ぶのか、と。
上原の悲痛な叫びにも、
僕は答えすら見つからなくて、
喉の奥、声は出ない…。
「俺は、んなことしねぇ!…いつだってお前だけだ。どんな時でも何があっても、絶対傍にいるから…頼むよ…」
どうしようもないほど、惚れちまったんだ───…
言い切った上原の顔が、こちらへと近付いてくる。
反応するより先に、
僕の唇は上原のそれで、
塞がれていた。
「ッ…ンッ……」
木の幹に押さえつけられ、口内に侵入する上原。
それは噛みついてるみたいに乱暴で、なんとも余裕の無いもの。
けれどそこには、例えようもない程の感情が込められていて…
胸を締め付けるような激しさに、
僕の思考はボロボロと剥がれ落ちていった。
「あっ…やめっ…!」
片手で器用にシャツのボタンを外され、
上原の手が胸元を這う。
大きな手が肌を滑る度、そこからゾワリと電流が走り…無意識に身体が仰け反った。
「アイツのとこなんか行かせねぇ…俺の事だけ考えてろよ…。」
“傍にいるのは俺だろ…”
あんなに優しかった上原が…狂ったように甘く、囁く。
「いっ…ンッ……!」
首や胸に顔を埋め、舌を滑らせ先で犯し…
きつく吸い上げ紅い印を刻み付ける。
まるで自らの所有物に、名を残すように。
いくつもの花弁を僕の肌へと散らしていった。
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