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翌朝、僕の苛立ちはピークに達していた。






「ハヨ―ッス、綾兎先輩!」


反して、朝っぱらからテンション高めに登場するコイツに…血管は今にも破裂寸前である。






「どしたの~?今日はやけに不機嫌ッスね?」


「お ま え の せ い だっ…!!」



約束もしてないのに、勝手にお迎えに参上した芝崎にウンザリしたのも勿論あったが…。


そんなことくらいで、僕は此処まで不快になった訳ではない。







「え~‥オレなんもして無いッスよ?」



しゅんと項垂れる芝崎。

それは確かにコイツの言う通りだが…元はといえば、100%お前が原因なんだ。







“キスしたいなって────…”



コイツがメッセージを寄越したりするから、変な夢を見たりするんだ…。


こんな事なら、意地でも起きておくんだったと…

後悔しても後の祭り。








そう…──────キス。


あろう事か僕は、

夢の中でコイツとキス、してしまったんだ…。




たかが夢、では済まされない。


誰も居ない図書室でふたり。

夕日を背景に抱き合いながら…なんとも夢らしからぬ、写実的な息遣いと描写。


伝わる熱に急かされ、互い視線を交わせたなら。

どちらともなく顔を寄せて────…








「ッ~…!!」



ゴス!!!



「っ…~~てぇッ!?」



思い出したら衝動的に、芝崎の頭へと八つ当たりしてしまい。不意打ちで鉄拳を喰らい悶絶する芝崎。


涙目で見上げる顔には、罪悪感を抱きながらも幾分心がスッキリしたが。

そのまま何事もなかった様に、スタスタ歩き出す。



対する芝崎に怒った様子はなく…

よろめきながらも、慌て僕の後をついて来た。








「…なんだ?」


横を歩く芝崎は殴られた癖に満面笑顔を湛えていて。訳が解らないし、なんとも気持ちが悪い。


コンパスの違いか、僕に合わせるようにさりげなく歩調を緩めるとこなんか、ほんと憎たらしいし…。



またも怒りゲージが急上昇してきたので。

でこピンで以て冷却しておいた。









「今日は無いッスね、クマさん。」


額を押さえつつ、良かったとほざく駄犬。

先程から僕の沸点を的確に上げにきているようだ。


なのでもう一発デコピンを食らわせておく。







「エヘヘヘ~。」


懲りない芝崎は、こんな遣り取りさえも嬉しそうで。

目だけで「何だ?」と問うと、またもや地雷を踏み当ててみせる。







「だって、好きな人とこうして一緒に歩いてんスよ?」


それだけで幸せなんだと、さらりと言ってのけた。



…もう、いちいち相手するのはよそう。

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