第21話 服をください

「服装をどうにかしたいけど、俺、服はこれしか持ってないんだけど」


 ゴルドからアリサの居場所を聞き出したものの、ユラーのスライムにより服を溶かされてしまった。


 街の真ん中で半裸はさすがに恥ずかしい。


 しかも、これから行くのが氷結の洞窟ときた。


 いかにも寒そうだ。氷系魔法を使うアリサなら大丈夫だろうが、一般人の俺はアリサを探す間ずっと半裸は厳しい。


「そもそも、マイル。氷結の洞窟について、何か知ってるっぽかったけど」


「今はそれどころじゃないでしょ。服を見つけたら歩きながら話すから」


「でも、服を見つけるって、俺、分け前もらってないんだけど」


「嘘でしょ? リルさんやヤングに渡して、自分の分取らなかったの?」


「うん。後ででいいやと思ったらタイミングを逃しちゃって。だから、持ち金じゃ服なんて買えないよ?」


「どれだけお人好しなのよ」


「そんなつもりはなかったんだけど」


 マイルに呆れられてしまったものの、街を案内されている間は困らない程度の持ち金は持っていた。


 街で色々としていたら、アリサからもらっていた分のお金が、なくなりかけていたのだった。


「まあ、いいわ。なんとかしましょ」


「なんとかって?」


「ふっふっふ。お困りですかな? と言うよりも我の出番ですな?」


 何やら怪しい服装の男。いや、声からすると女だろうか。


 クルクルと回りながら現れたのを見るに、ただの人間ではないのだろう。


 まるでピエロのような服装に化粧をした、白髪赤目の人間がどこからともなく姿を現した。


「服屋ってどこにある? 俺ちょっと後払いにできないか聞いて来るよ」


「ちょっと待ってくださいな。今目の我を無視するとは、ドーラ様はなかなか肝がすわっていますな」


 俺が華麗に無視すると、見た目に反して肝がすわっていないのか。奇抜な人物は動揺した様子を見せた。


 マジでなんなんだこの人。


 というか。こんな人にも名前知られてるのか。


「そんなんじゃないけど、なんなの? そういえば、マイルはどうしてツッコまないの?」


「そりゃ、慣れっこだから」


「慣れっこなの?」


 どうやら、多少有名になると、ただ話しかけられるだけでなく、変人に絡まれることもこの街では慣れないといけないことらしい。


 しかし、もうゴルドとの戦いは終わったというのに、観客が減る様子はない。


 俺、もしかしてこの人とも戦わないといけないの?


「あの。御用件は?」


「急にかしこまる必要はないですな。我はフクララ・シューミと申しますな。ドーラ様が所属する、サーカス冒険団で服飾関係をやらせていただいておりますぞ」


「服飾?」


「そう。ワタシのこの衣装もフクララさんが作ってくれたの」


「なるほど! って、衣装ってそんなに早く作れるの? もっと年月かけて作るイメージなんだけど」


「ふふ。そう言うと思いまして、我、昨日から寝ずに作らせていただきましたな。それがこちらですぞ」


「おお!」

 どういう仕組みか、フクララは服の下からから服を取り出した。


 出てきたのは、リルやマイル、ヤングが着ている。賊、それも少し海賊のような衣装だった。


 俺、そういえば、こんな風に誰かに衣装を作ってもらった経験ないな。


「どうされました? お気に召しませんでしたか?」


 俺が急に黙り込んだことで、焦った様子のフクララ。


 俺はすぐに首を横に振った。


「いいや。嬉しくて、つい。こんなの初めてで」


「ドーラ様ほどの実力なら、ねだればいつでももらえたのではないのですかな?」


「俺がこんなに強くなったのはリルさんと会ってからだし、以前のサーカスでは、クビにされるほど評価されてなかったからさ」


「なんと。我が初めて一目惚れした御仁になんという扱い。いっそ燃やしてしまいますかな」


「「え?」」


 フクララさんのセリフに、俺とマイルは顔を見合わせた。


「今なんて?」


「なんでもありませんな。我はここで退場しますぞ」


 フクララさんは、突如現れた時のように、一瞬にして消えていった。


「なんだかマイルが燃えてる気がする?」


「気のせいよ。フクララさんはああいう人なの。着せたいと思ったら一途な人で」


「なるほど。仕事熱心なんだね」


「そうとも言えるんだけど……」


 なんだかはっきりしない言い方だけど、一体何かあったのか。


 付き合いが浅いせいで、はっきりとはわからない。


「でも、俺が衣装代払う前にどっか行っちゃったんだけど」


「いいのよそれは」


「いいってことはないでしょ」


「いいのよ。そういう契約だから。ワタシたちがその分活躍すればいいってことになってるの」


 ふふん。と鼻を鳴らしながらマイルは言った。


 商品にはしっかりと対価を払わないといけない、というのは俺の思い込みなのか?


「納得いってないみたいね。でも、考えてちょうだい。ワタシたちが活躍すれば、ワタシたちは衣装が手に入って嬉しい。フクララさんは自分の服飾の技術を宣伝できて嬉しい。両方とも嬉しいっていうことなのよ」


「確かに、俺たちだけが得してるわけじゃなさそうだけど」


「でしょ? だから、遠慮してないでもらっちゃっていいのよ」


「うーん。わかった。悩んでもいられないしそういうことにしよう」


 もう受け入れて着替えさせてもらおう。


 なんだかんだ実際は、こんなことしている時間も惜しいのだ。


 俺は衣装に手を伸ばすと、その場ですぐに身にまとった。


「さあ、行こう」


「何、今の? もう着替えたの?」


「まあ、これくらいはできないとだろ?」


「いや、知らない。ワタシそんなことできない。どうやったの?」


「え、そうなの?」


「うん。見えなかったよ?」


 困惑気味のマイルだが、嘘だろ?


 みんなできるものだと思っていたが、そんなわけでもないのか。


「マイルもきっとアリサに習えばできるようになるよ」


「ねえ、それ、アリサさんに教えてもらってたの? ねえ、ドーラはアリサさんとどんな関係なの?」


「幼馴染かな?」


「幼馴染でそんなことを教え合うなんて」


 別に、できないことに恥ずかしさなんてなかったと思うけど。


 勝手に想像して照れているのか、マイルは赤くなっている。


 このまま置物になられては困るので、俺はマイルの手を引いた。


「行こう。氷結の洞窟には何かあるんだろう? だったら案内しながらどんな場所なのか教えてくれ。俺全然知らないからさ」


「そ、そうだったわね。わかったわ。ワタシの方が先輩なんだからしっかりしないとね」


 俺は手を握り返されると自分の体に力がみなぎるのを感じた。


 これがマイルの支援魔法。


 すごい。なんだかなんでもできそうな気がする。


「飛ばすから、置いていかれないでよ?」


「え? 飛ばすって何?」


 俺がマイルのサポートに感激していると、マイルは走り出す構えをとっていた。


 俺は何も考えておらず、マイルのスタートダッシュに手で引っ張られるだけだった。

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