第46話 トーメーは「召喚魔法」を手に入れた……ということにしよう

「早速解析結果をVRモニタに表示するニャ」


 突然目の前に半透明の地図が表示された。


「これがこの国の地図ニャ。赤い点で示したのがこの場所ニャ。青い点が今回討伐したダンジョン。黄色い点が過去のダンジョン発生地点ニャ」

「ふむふむ。過去の発生地点もそんなに遠くはないね」

「これに時系列情報を加味して、年代別に発生順をシミュレーションするとこうなるニャ」


 ある一点にポツンと現れた黄色い点が、同心円状に広がって行く。一番外側の円は点線で示されており、その線上に今回のダンジョンが乗っていた。


「ふーむ。花火みたいだねェ」

「やはりスタンピードで増殖していくという仮説は正しいようニャ」

「500年~600年に一度スタンピードが発生して、ダンジョンが増えて行くというわけか」


 その際、外側へ、外側へと魔物は移動して行くらしい。


「おそらく同族忌避の本能が働いて、お互いに等距離を保ちながら外側に向かって生息地を広めていったニャ」


「でもさあ、今回のダンジョン5万歳だろ? 600歳だったらわかるけど」

「ダンジョンマスター自体は最初の1体が分裂した物と考えられるニャ。魔物はその分身を持って外の世界へ広がった可能性があるニャ」


 なるほどね。それならすべてのダンジョンは同じ年齢・・・・・・・・・・・・・・なわけだ。

 

「つまり、すべてのダンジョンはウチの『ダン・増田』と同一個体ということニャ!」

「いつからそんな昭和のバンマスみたいな名前になったのさ?」

「ダンマスが複数存在することが判明した時点で識別名をつける必要が生まれたニャ」


 だからって「ダン・増田」は無いでしょうに。


「とにかくニャ。自分のことは自分でさせるニャ。ダン・増田にダンジョン・ポイントを特定させれば済む話なのニャ」

「そういうこと? ダンジョン・レーダー計画は中止かあ」


 過去の発生ダンジョンはどうにかこうにか討伐されたらしいので、オレたちは最外縁部に発生する予定のダンジョンに絞って探査すればよい。


「かっこいいレーダーが欲しかったけど、時間が節約できるなら良しとしようか」

「増田にキリキリ働いてもらうニャ」


「むう。そうと決まれば長期戦になるね。この外周だけでも2千キロくらいあるんだろ?」

「増田のお陰で宿泊場所には困らないニャ。というか、日帰りで行ったり来たりできるニャ」


 そうか。一度現地に行けば、ダンマスの記録に残るからね。後はダンジョン経由で行き来ができちゃう。

 便利な時代になりました。


「既に式神チームを現地に飛ばしてあるニャ。今日中に航空写真を収集して、画像解析にかければ明日には有望地点を割り出せるニャ」


 そういう画像認識系のタスクはAIの得意とするところだもんね。アリスさんの演算処理能力をもってすれば、容易いことでございましょう。やっぱり情報は力なり。


「だったら明日の朝出発ってことでいいかな? それなら今日の内に出発の準備を整えるからさ」

「画像解析はどこでもできるニャ。極端に言えば今すぐ出発してもいいくらいニャが、そんなに焦る必要もないニャ」

「物資の補給はいつでもできるよね。この家と潜ったダンジョンをダンマスにつながせればいいんだから」


 とりあえず手近に置きたいものだけをカートに積んで、ストーン5に引かせればいい。

 あ、今回からはアロー君も参加するそうです。ダンジョン内で狭い場所があっても、どこでもダンジョン機能で迂回できるので。


「しかし、不思議だよね。ダンジョン内でもダンジョンをオープンできるなんて」

「増田によると、4次元的時空間に存在するので重なり合ってはいないそうニャ」

「『そこにあるわけじゃない』と言われると、どこにあるのかわけがわからなくなるね」

「『不思議空間』で十分ニャ」


 アリスさんたらAIの癖にざっくり片付けちゃいましたね。大事なのは「使える」ってことだからね。


 ストーン5やアローが通れない細道は、オレたちが潜り抜けた先でダンマスの「どこでもダンジョン」を呼び出せば、中に入っているデカブツたちを呼び出せるというわけだ。


「これはもうさ、『召喚魔法』と言ってもいいんじゃない? 収納~召喚が自在にできるわけだからさ」

「現象だけ見たらそういうことになるニャ。前回のダンジョン討伐で召喚スキルを獲得したことにすればいいニャ」


 そうか。討伐報告でそこのところはあいまいにしてたものね。ダンジョンをテイムしたというよりは、ショックが小さいだろう。


「ふふん。テイマーに続いて、召喚士スキルを獲得ということですな。何か、才能にあふれている感じじゃん?」

「どちらも人任せという能力であるところが、見事ニャ」


 それを言っちゃうかあ。そうなんだよなあ。俺って初期設定の「若い肉体」ってところと、ナノマシンの回復能力の他には特にチートな特殊能力が無いのよね。


「今度スキルオーブを見つけるなら、魔法とか念力とかがいいかなあ」

「戦った感想で言うニャらば、魔法も大して便利には思えにゃいニャ」

「それはこっちの戦力と相性の問題じゃない? 世の中的には十分あっと驚く能力だと思うけど」


 そんなトンデモ能力であるはずのスキルだけど、今の世の中には伝わっていなさそうだ。過去のダンジョン討伐時にスキルオーブを獲得した人間がいたはずだけど、能力は一代限りで遺伝しないってことかな。


「あくまでも外付けの能力ニャからヒトゲノムに記録しようがニャかったんニャろう」

「だとしたら、ダンジョンを一人で討伐しまくったら、俺ってこの世界唯一のスーパーなマンになっちゃうね」

「ウルトラなマンの方だと、デカすぎて生活が面倒ニャ」


 あのサイズだと戦っただけで回りが大惨事になるからね。「巨大化」って能力は要らないわあ。

 どんなスキルがあるのかな? ダンマスに聞いてみようか。


「ダンマス―? ちょっと聞きたいことがあるんだけどー」

「むー。何か、グラビアアイドルがマネージャーを呼び付けてるみたいニャ」


 それはマニキュア乾かしながら、「ジャーマネー」でしょ? グラビアは夢を売る商売なんだから、裏側を暴かなくて良いの。


「お呼びでしょうか、マスター?」

「あのさあ、スキル・オーブってどんなものがあるの?」

「丸くて、赤いのとか青いのとか……」

「見た目じゃねえよ!」


 そういうベタなボケは今は要らないです。いちいちツッコむのも疲れるのです。


「スキルの種類だってば。どんな能力が得られるのさ」

「それはもう人間の夢とロマンを満たす力。そう言われております」

「何だよ、そのドラマの最終回みたいなナレーション。具体的に頂戴?」


 それによってモチベーションが決まるんですから。


「まずは『透明化』ですな。健全な男子の大半と、不健全な女子の一部が渇望して止まないという能力です」

「光学迷彩的なものかな。それとも存在論的に認識できなくなるとか」

「どうでしょうね。マスターの場合は初めから『トーメー』ですけど」


 やめろ! トーメーの次に付けられる渾名は決まって「トーメー人間」だったんだから。悲しすぎるだろ。


「どっちにしろアリスさんとか、スラ1の持ちネタに被っちゃうからもう1つだな。他にはないの?」

「人気の高い能力と言うと、『瞬間移動』でしょうか」

「おおー、あるの? 瞬間移動?」


 空間魔法的なやつかしら? ある意味必殺技じゃないの? スキルっぽく言うと「瞬歩」とか「縮地」とかって、奥義っぽいよね。


「あらかじめ登録しておいた2点間を瞬時に移動します」

「ふむふむ。事前登録しておけばよいのね。登録可能地点はいくつまで」

「2点までです」

 

 うおい! 使い勝手悪いな。仕方ないね、その都度登録上書きで対応するしかないね。


「地点登録のためには、その地点に24時間以上滞在する必要があります」

「なんそれ?」


 準備に48時間掛かるじゃん。どこが瞬間やねん。


「しかしですね。東京=新大阪間のようなドル箱区間に設定した場合、交通機関としてはすばらしい効果を発揮します」

「え? じゃあ、新幹線みたいな巨大な乗り物でも瞬間移動できるの?」

「できますけど、運ぶ物の重量を自分の体重で割った倍率だけ登録所要時間が長くなります」


 説明が面倒くさいな?


「じゃあ、たとえば体重50キロのオレが、体重50キロの人を100人運ぼうとしたらどうなるの?」

「自分の体重の100倍ですから、登録所要時間が2400時間になります」

「100日かあ。繰り返し使えるから大変なのは初回だけだけど……」

「2地点分だと200日ですね」


 うわあ、半端じゃない初期投資だなあ。やってやれなくはないだろうけれど。がっつり金儲けでもしないと割に合わないよ?


「ちなみに、地点登録中に1メートル以上移動すると、登録がやり直しになります」

「無理ゲーだろ、それ!」


 自分一人で移動するだけで48時間じっとしていなきゃならない。トイレにでも籠るしかないよね。食事が嫌だなあ。


「瞬間移動は無しで」


 よくよく考えたら、もう「どこでもダンジョン」があるじゃねえか!

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