第45話 東京ドーム1個分の面積が上限ですね

「そういうことですから、各地でダンジョン復活の可能性があるわけです」

「お前が言いたいのはダンジョンとは地中に埋もれた異界との接点であり、歴史上何度か地上に現れた以上、他にも地中に眠っている可能性があるということだな?」

「おお、さすが美女。纏め上手!」

「何を言っている?」


『はっ? 思わず感情が漏れてしまった』

『漏れたのは性癖じゃニャいか?』


 どちらもワタクシの一部でございます。はい。


「放置しておくには危険が大きいと考えますが、いかがでしょう?」

「お前に調査をさせれば見つけられるというのか?」

「さすが姐さん、話が早い。その通りです。ウチには空から地上を調査できるハヤブサ君がおりますので」

「ハヤブサにダンジョンを見つけさせるのか? 何とまあ器用なことを」


「不可能を可能にする男。奇跡のテイマーことトーメーと申します。どうぞよろしく」


「奇跡でも何でも良いが、空から調べる分には人の迷惑にはなるまい。それは構わんぞ」

「ここ掘れわんわんとなったら、発掘調査をさせて頂きたいんですが」

「わんわんが何のことかわからんが、発掘となるとその土地の状況次第だな。無人の地域ならば、問題ないと思うが」


 そりゃそうだね。人様の家をぶっ壊して穴を掘るわけにはいかない。上物が乗っかってる場合は、別途ご相談といたしましょう。


「その辺は怪しいところが見つかったらご相談させていただくってことでいかがでしょう?」

「それなら構わんだろう」


「でもって、その予備調査として過去のダンジョン発生状況について資料を拝見させていただきたいのですが」

「ふむ。今回の討伐成果があるしな。まあよかろう。持ち出し禁止、当商会内での閲覧ということなら許可しよう」

「ははあ! ありがたき幸せ」


 へへへ。閲覧さえできれば撮影し放題だからね。著作権フリーのコピー天国。ばっちり記録させていただきましょう。


「それでは早速閲覧させていただきたいのですが」

「わかった。別室に用意させよう」


「他に用が無ければ、私はこれで」


 あら~、メラニーさん。淡泊なんだから。

 まあ、性癖上の欲求を差し引けばいない方がいろいろとやり易いか?


 しつこい奴は嫌われるからね。大人の余裕を見せましょう。


「お名残り惜しゅうございますが、それではまたの機会に」


『もう背中も見えないニャ。ドアに向かって何を語っているニャか』

『紳士としての作法でございます。レディーには礼節を以て接しないとね』

『ジジイのどこに礼節があるニャか? 関節痛の間違いニャ』


「さて、メントスさん。過去のダンジョン発生記録の件、キリキリよろしくお願いします」

「アンタ、人によって随分態度変わるね?」

「良く言われます」


「まあ、大したことでもない。一緒に来て下さい」


 ◆◆◆


 メントス氏に連れて来られたのは、資料室という感じの部屋だった。書棚が所狭しと並んでいるせいで息苦しい上に、どこかカビ臭さが漂う空間であった。


「あ、そこの机といすを使って下さい。今資料を持ってきますから。ダンジョン、ダンジョン。はい、これです」


 どんとデスクに置かれたのは、分厚い1冊の本であった。


「資料と言ってもこれ1冊ですから。その代わり全ダンジョンの記録を網羅しているはずです」

「ふむふむ。1冊だけとはわかりやすいですね。早速拝見いたしましょう」

「お気のすむまでどうぞ。用が済んだら受付の女性に声を掛けて下さい。では、失礼いたします」


 メントス氏も忙しいのか、資料を置いて出て行った。


 これで資料室に1人きり。のんびり調査しましょうかね。


『しかし、猫連れでも資料閲覧オーケーとは異世界は動物に甘いのかな?』

『アリスにゃんの魅力がなせる業ニャ。美人は罪ニャ』


 あんまり重要な資料だと思われてないんだろうね。数百年に1度しか出現しない現象だし。

 さて資料を拝見しますか。アリスさんが。


『資料が600ページあるとして1ページ当たり0.5秒でスキャンすれば300秒、つまり5分で終わるニャ』

『へいへい。指紋が擦り切れるまでページをめくりまっせ!』


 俺は「ページめくりマシーン」と化すことによって予定通り5分で資料調査を終了した。

 受付に用事が済んだことを伝えると、史上最高にうさん臭い物を見る目で睨まれた。


 大丈夫。慣れてますからね、そういう目で見られることに。別にゾクゾクとかしてないんだからね!


『ふむ。実に興味深いニャ』

『受付のお姉さんですか?』

『違うニャ。ダンジョン調査資料の方ニャ』

『あー、そっちね? 受付のお姉さんも悪くは無いけどね』


『うるさいニャ。とにかくおうちに帰ってデータを分析するニャ』


 はいはい。そうしましょうね。

 

 アロー君の背に揺られることしばし、俺たちは愛しの我が家に帰り着いた。


「アロー君ライドはアトラクションとして楽しいんだけどね。この世界って移動に時間が掛かり過ぎだよね」

「それを言うなら連絡の方が問題ニャ」


 あー、電話も現代郵便制度もないからね。直接出向くしか伝達手段がないという。


「もうダンマスの存在を解禁しちゃおうかな。ゴンゾーラ商会の場所は覚えただろう?」

「どうかニャ? ボクのお腹にいても記録できるニャか?」


 すると、ウイーンという感じで部屋の一角に黒々と洞穴的空間が発生した。


「ただいまご紹介にあずかりました。ダンジョン・マスターです」

「おおー、こんな感じで登場するのか」

「別に洞穴を開けなくても会話はできるんですが、今回は臨場感を演出してみました」


 なるほどねえ。こんな感じで口を開けられるなら我が家は実質増築し放題だな。


「これってさあ、洞穴の開口面積は自由になるの?」

「東京ドーム1個分の面積が上限ですね」

「何でまた東京ドーム?」

「理論的には限界は無いのですが、マスターの『容れ物』に対するイメージが最大でも東京ドームなので、そのイメージに引っ張られています」


 俺次第だったの? と言っても東京ドームの面積がすっぽり入り口になるなら、大概の物は通れるけどね。

 この国だったら「軍隊」でもイケそうだった。


「今日街のゴンゾーラ商会まで行ったんだけど、あそこの場所って『ポイント』として記録できてるのかな?」

「はい。問題なく利用可能です」

「ということは、アリスの体内にいても機能に影響は無いってことだね?」

「御意。ワタクシは4次元生命体(残留思念)ですので、3次元的な状態には影響を受けません」


 こいつ、言葉遣いが面倒くさいな。単純に「その通りです」とか言えないのかね。


「それならここにいたままで世界中の場所を『ポイント』登録できても良くない?」

「それもマスターがイメージとして『できない』と思われていたので、できない形で定着してしまいました」


 何だよ、それ? 気持ちの問題だったの?


「別にいいけどさ。一度くらい自分の足で出向いた方が土地鑑が付くだろうし」


 無いよりは合った方が便利だもんね。それで良いや。元手は掛かってないんだし。


「ところでお前の中にいたモンスターってどうなったの?」


 全部討伐したわけじゃないからね。リポップだってするだろうし。


「普通に活動しております。どこかの冒険者がダンジョンに入ってくれば、命の奪い合いになりますね」

「ふうん。俺たちが入って行った場合はどうなるの?」

「マスターのチーム・メンバーの場合は、モンスター側にカウントされますので、攻撃は受けません」

「それなら番犬付きの別荘みたいなものか? そう考えるとお得な物件だな」

「築年数だけはイッチャってますけど」


 5万年だっけ? そりゃ築年数って言わないだろう?


「チーン! ダンジョン発生記録の解析結果が出たニャ!」

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