第27話 そりゃあ理に適ってるね。

 翌朝、俺は「トーメー探検隊」をお庭に招集した。


 アリス、俺、トビーまでは難なく決まった選抜メンバーであるが、アロー君を泣く泣くお留守番にしたため、代わりに誰を入れようかという悩みが生まれてしまった。

 アリス、トビー、アローは「3つの下僕しもべ」というウチの大看板ですからね。その一角の代理となると、これは大役ですよ。


『問題はそこではニャイニャ』

『何ですか、アリスさん?』

『ボクとトビーがいれば、火力も機動力も十分ニャがそれ以外に致命的な問題があるニャ』


 あれま? ウチに致命的な問題なんてあったかしら?


『お前ニャー!』

『えっ? 俺?』

『そうニャ。何気にトーメーはほぼ普通の人間ニャ』


 えーっ? 今更そこ? 確かに改造手術とかは受けてないけど。


『ナノマシンが唯一の取柄ニャが、それはアリスにゃんで間に合ってるニャ』


 まあね。アリスさんはナノマシン100%ですからね。「ナノマシンと言えば」の代名詞はお譲りしましたよ。


『ということは、現在トーメーは足を引っ張るだけのお荷物ということニャ』


 うわあ、そこまで言う? 言っちゃう? 泣くよ? すねるよ?


『そこで今だけの大チャンス! こちらの商品をご提供するニャ』

『何か用意してくれたの?』

『パッパラー。高周波ブレードー! こちらの商品はショートソードを高速振動させることで、触れる物を何でもぶった切るというとっても便利な商品ニャ』


 ふーん。なんかパン切ナイフをでかくしただけな感じがするけど。


『そんなもんと一緒にするニャ! この商品には下町工場の技術と汗の結晶が含まれているニャ』


 人工衛星が飛びそうだね。それより超高熱とかレーザーとか、そういうのは無いのかな?


『携帯可能な大きさには収まり切らないニャ。だいたい超高熱なんて装備したら自分が溶けてお終いにゃ』

『そっかぁー。まあ、仕方ないね。主人公は現場で成長するタイプだからね、どの物語でも』

『トーメーに成長は似合わないと思うニャ』


 失敬な。まだ20歳なんだから成長途中ですよ。それに俺にはアレがあるからね。


『スキル・オーブを当てにしてるニャか?』

『期待は大いにしてますよー。それにさ、忘れてもらっちゃ困るんだけど、俺ってテイマーだからね?』

『それがどうしたニャ?』

『ダンジョンならモンスターが出てくるわけでしょ? モンスターをテイムしてどんどん自分を強化すれば良いのよ』


 ドラゴン・テイマーなんて良いじゃん? ドラゴンがいるかどうかは知らんけど。


『それだけ自分に都合よく物事を考えられるニャは、1つの才能と言うべきニャ』

『ポジティブ・シンキングと言ってちょうだい。お兄さんは前向きに生きて行きます』


 実際にドラゴンが出てきた場合、ウチの戦力で対抗できるのかって問題があるけどね。トビーの超音波砲が通用しない相手だっているかもしれない。


『生物である限りは、ボクの攻撃で倒せない物はいないはずニャ』

『ですよねー。アリスさん無敵っスよねー』

『問題は、相手の攻撃にこっちが耐えられるかどうかニャ』

『あー。ドラゴンブレスとか、毒霧とか、石化とかの不思議攻撃があるか―』


 課題は攻撃力よりも防御力ですな。死んでしまったら情けない――じゃなかった、元も子もない。

 ゲームじゃないんだから「死に戻り」なんて無いし。……無いよね?


『ちょっと出撃を保留して、作戦会議を開こうか?』

『りょ、ニャ。ブーブー団が邪魔だから、部屋に籠ってお話合いニャ』


 部屋に戻った俺とアリスさんは、早速お話合いを開催した。


「はあー、すっきりした。やっぱり会話は声に出した方がやり易いね」

「慣れの問題ニャ。聞き間違いをしないように、耳の穴を良くかっぽじって置くニャ」


 聞こえてますって。こっちは20歳の高性能ボディーですからね。


「会議のテーマは『トーメー探検隊』の防御力強化についてニャ」

「はい!」

「トーメー君!」

「防御には物理、魔法、精神系の3つがあると思います!」

「はい、よくできたニャ! 良いニャが、会議ごっこが面倒くさいので普通に話すニャ」


 アリスさんたら、興ざめですことよ。仕方ない。真面目にやりますか。


「物理の分は、ナノマシンで何とかできるよね?」

「障壁は作れるニャが、構築スピードが問題ニャ」

「攻撃に間に合わないってこと?」

「一瞬で壁を作るのは難しいニャ」


 そうかー。ナノマシンも万能じゃないからなあ。


「アリスさんの優秀な人工知能で、何か対策はないかしら?」

「おだてても何も出ないニャが、対策はあるニャ」

「おお、さすが極悪AI! どうするの?」

「すぐに作るのが難しいなら、最初から作っておけば良いニャ」


 アリスさんの対策はこうだ。

 骨組みだけのロボットを作り、土で表面を固める。そいつにチタン製の盾を作りつけて、ナノマシンで動かすというもの。

 

「なるほど。ゴーレムを使うのね」

「そうニャ。表面の土を削られても、骨組みが無事なら何度でも再生できるゾンビ・ゴーレムニャ」

「いや、ゴーレムにゾンビはいないと思うけど」


 使い捨てにしても惜しくないってところが優れた案だね。


「続いて魔法対策だね。モンスターが魔法を打ってくると仮定しよう」


 ドラゴンならブレス攻撃もあるしね。


「この場合の防御には2段階あるニャ」

「ほほう。伺いましょうか」

「第1段階は魔法阻害ニャ。催涙弾、スタングレネードで行動を阻害し、魔法を発動する余裕を奪うニャ」

「SWAT的な対テロリスト部隊で実績のあるやつね?」


 そりゃあ理に適ってるね。魔法阻害であると同時に行動阻害でもあり、先手を取れるでしょうな。


「じゃあ、第2段階は?」

「液体窒素弾ニャ」

「ほうほう。絶対零度的なやつね?」

「液化窒素はマイナス196度ニャ。絶対零度には大分遠いニャが、大概の物は凍らせるニャ」

「それでどうなるの?」


「火魔法系なら酸素供給を絶ちながら温度を下げて、燃焼不能にするニャ」

「理屈に適ってるね」

「水魔法系なら凍らせて固めるニャ」


 固めちまえば物理攻撃と同じか。


「雷魔法なら低温超電導で電流を散らしてしまうニャ」

「良いねえ。『利かんなあ』とかうそぶけるわけね。風魔法は?」

「爆発力で吹き飛ばすニャ!」

「力づくかい!」


 でも、まあまあ役に立つかな? 結果、攻撃にもなるしね。冷凍魔法チックな。


「じゃあ、最後に精神系攻撃に対する防御は?」

「般若心経を大音量で脳内再生するニャ」

「なんそれ!」

「正式には『摩訶般若波羅蜜多心経』という名の仏教典ニャ」

「ツッコミに回答すんなや……」


 心の迷いを払って下さるわけですか?


「いや、単に大音量で覚醒効果を狙うだけニャ」

「いやがらせか!」


 考えたらアリスさんには「精神」とかないから、状態異常は受けないのね。

 だったら、大丈夫か?


「何だかアリスさん1人で行ったら楽勝な気がするけど、気のせいだよね?」

「ボクはキュートなサイズ感なので、お宝を見つけても持って帰れないニャ」

「ああ、そこで俺の出番か……って、俺は運び屋かっ!」


 はあ、はあ。大声出したらすっきりした。


「さて、モンスター対策はこんなところで良いかな?」

「後は3Dプリンターでじこじこ量産するだけニャ」

「あら、そんな文明の利器を備えたの?」

「駄馬1号のお陰で潤沢に電気を使えるようになったニャ。おかげで地下に東京ドーム1個分の地下工場を設置できたニャ」

「でけえな、おい!」


 我が家に地下基地があるとは知らなかった。「ワンダバごっこ」とかできちゃうのね?


「せめて『NE〇Vごっこ』くらいにしておかないと、平成生まれすらついて来られないニャ」


 いいのよ。俺はひとり遊びができるオタクなんだから。セルフツッコミだって出来ちゃうよー。

 はあ――。

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