第21話 電撃戦隊Bブラザーズ爆誕!――略してBB団(R)ね。

「でもさ、トビー、アロー、ゴローって、語呂ごろが良いじゃん?」

『ゴローだけに語呂が良い……って、アリスにゃんの存在を忘れてるニャ!』

「そんなことないさ。アリスはうちのエースだからね。下僕っていうよりパートナー的ポジションだよ」

『何となく浮気の言い訳に聞こえるニャ』


 そんな事実はないよ? そもそもフリーな立場だし。


『ふーん? 3日後に勝負ニャ! 賞金稼ぎとしての活躍振りでタロー、ジローとの格の違いを見せ付けてやるニャ』


 南極に置き去りにされそうな名前になってるじゃん? アリスの活躍にはもちろん期待してるさ。総合作戦参謀だしね。


「式神のネットワークで逃亡犯の捜索はできるだろう? でもあんまり簡単に見つけたら目立ちすぎるから、ブラザーズをうまいこと動かして奴らに見つけさせよう」

『そうだニャ。チンピラの神髄を見せてもらうニャ』


 何だよ、チンピラの神髄って? それなりに荒事あらごと馴れはしてるだろうから、「追立て役」にはちょうど良いかもね。


『「中にいるのは分かってんだよ!」とか言わせるニャ』


 Vシネマの見過ぎじゃない? 金融道系のさ?


「だったら、あいつらに武器を持たそうか? 安物の剣しか持ってないみたいだし」

『ニャルほど。それニャら棒が良いニャ!』

「棒って木の棒?」

『そうニャ。RPGでも初期装備は「ひのきのぼう」が相場ニャ。時代劇の捕り方も六尺棒ろくしゃくぼうを持つもんニャ』

「六尺って180センチくらいか? 槍ほどじゃないけど、そこそこ長いね」

『棒は振っても突いても使えるニャ。遠間とおまは槍や薙刀なぎなた近間ちかまは刀として使える物ニャ』


 やや短めの棒を使う杖術じょうじゅつでは「突かば槍、払えば薙刀、持たば太刀たちつえはかくにも外れざりけり」と称する。

 杖や棒は決して「刃がない不完全な武器」などではなく、極めて応用性と実用性が高い武器なのだ。


『安いしニャ』

「身も蓋もねぇな―」


 ふところが寂しくなってきたからね。摘まめるところは摘まみましょう。


「せっかくだからさ、目立たない範囲で仕込まない? 杖にさ?」


 杖と言ったら「仕込み杖」でしょう。


『日本刀を仕込むニャか?』

「それじゃ刀になっちゃうじゃん。そうじゃなくて……あれはどう? スタンガン」


 先端が敵にヒットしたら、高圧電流を流すってのはどうだろう?


「一応棒が当たってる訳だから、その威力で倒したって説明で行けない?」

『かなり強引ニャ』

「もう、ある程度は目立っても仕方ないんじゃない? うちの流儀で『気』とか『けい』を流すってことにしてさ」

『できなくはないニャ。夢想流の型でも教え込むニャ』


 いいね、型稽古。あいつらの健康のためにも、ラジオ体操代わりに朝からやらせてみようか。


「それじゃあ、六尺棒に組み込むスタンガンユニットの図面情報と夢想流杖術の型をこっちにアップロードしてくれる」


 何たって体を使うのは俺の役割だもんね。

 六尺棒は適当な樫の丸棒を買ってくれば良いだろう。モップのとかで良い。

 スタンガンユニットは、ナノマシンに作らせよう。


 棒の置き場を作って、それを充電台にしとけばいつでも使用オーケー。電源はアローの余剰電流を貯めておこう。


「おっ? 来たか」


 俺は後頭部に軽い圧迫を感じる。次の瞬間には夢想流杖術を理解した・・・・

 スタンガンの方は、全ての構成パーツ情報、単品図および組立図が3Dデータでアップロードされた。

 CADデータも込みなので、製作方法も万全だ。


「備考欄に『FBI標準装備』的な表記があるんだけど……」

『民需用で最大威力の物をアップロードしたニャ。プロレスラーが気絶するレベルニャ』

「ワァオ」


 それはなかなかにいかついネ。


『六尺スタンガンのえぐいところは、体を打たなくても敵が持つ剣と打ち合っただけで相手を倒せるところニャ』


 そうだよね。剣に絶縁措置を施してる奴なんている訳ないし。

 ブラザーズ、接近戦では無敵じゃね?


『飛び道具には弱いニャ。せっかくだからケブラー・ベストでも着せてやればいいニャ』

「そうだね。弓矢とか投げナイフとか、この世界レベルの飛び道具なら止められるね」


 特殊繊維は蜘蛛に憑りついた式神が作成することになった。集団で糸を出しながら織り上げるそうだ。


「そういう訳で、そのベストを着て、棒を構えてみろ」

「ボスはいつも話が急っスね」


 いつもってお前、まだ3日しか付き合ってねぇだろ?

 せっかちなのは認めるけどさ。


「ベストは鎧だと思え。但し、使い捨てだ。一遍でも刺されたり斬られたりしたら、新品に交換しろ」


 原材料費ゼロでお届けしてるからね。こいつについてはケチる必要がない。


「でもって、この棒を『六尺スタン』という」

「変な名前ですね」

「――威力を最小にして、と。はい、タッチ」


「うぉっぶるぶるぶる……」


「ブラウニーは不幸な事故によって亡くなったが、この棒を使えばこういうことができる訳だ」

「「サー・イエッサー!」」

「良い返事だ」


 ブラウニーは1時間後訓練に復帰した。

 トビーに撃ち抜かれた膝が特性スポドリ君Zで完治したことを知った時は、全員歓喜の涙にむせんでいた。


「どんな厳しい訓練にでもついて行きます!」


 そう誓ってくれたものである。うん、うん。

 ならばこのトーメー自ら、君たちを鍛えて上げようじゃないかということで、現在に至る。


「お前たちにはこの型を習得してもらう」


 俺はアリスにアップロードしてもらった夢想流の型を、ブラザーズの前で披露する。

 正確に確実に、そして決めるべきところをしっかりと。


 右上段からの打ち込みに始まり、相手の攻撃をさばいての足払い。下段に注意を引き付けて置いての、左上段の打ち込み。

 相手の突きを受けて中段突き。踏み込みながら下段払い。そして上段の構えに戻る。


 1つ1つの動作が持つ意味を説明しながら、技と技のつながりを示す。


「型とは最も無駄のない動きだ。そして破綻無く理にかなった流れだ。動作の意味を理解しつつ反復し、体に染み込ませろ」

「「へいっ!」」


 体に染み込ませる部分は、式がちょっと手助けするけどね。ちょっとだけね。

 達人を量産しちゃうと、さすがに目立ち過ぎちゃうから。


 良い動きをしたら、そのイメージを強めに記憶させる程度の補助をしてやった。


「臨!」

「兵!」

「闘!」

「者!」

「皆!」

「陣!」

「列!」

「在!」

「前!」


 面白いので、1つ1つの動作に合わせて「九字」のおんを掛け声にしてみた。意味はない。

 雰囲気が出ればよい。秘術が有り気に見えるじゃん。


 棒の打突部分で相手またはその武器に触れさえすれば、最大100万ボルトの高圧電流が流れる。これを必殺と呼ばずしてどうしよう。

 

 偉いもので、型稽古の効果は3日目には如実に表れた。「申し合い」であれば、結構な速度で打ち合えるレベルに全員が到達した。


「いいんじゃない? これくらいできれば1人前で」


 後は度胸の問題でしょう。みんな頑張れ。

 形から入る俺としては、チーム・ブラザーズにお仕事用の名前を命名した。

 養蜂業の蜂=Beeから取って、「電撃戦隊Bブラザーズ」だ。略して「BB団」で商標登録しよう。


「昨日、一昨日の捜査で、2組の居場所が判明したわけだな」

「へい。ボスが聞き込んできた・・・・・・・情報の通り、それぞれ隠れ家に潜んでやした」

「うん。お前ら意外と見張りは上手いのな? 見直したわ」

「へい。強請ゆすりたかりが仕事の半分だったんで……」


 ブラウニーは顔をしかめて答えた。恥はあるらしい。


「ふーん。残りの半分は?」

「大体、借金の取り立てでした」


 しけた反社の食い扶持なんて、そんなものかもね。賭場を開くほどの甲斐性はないもんね。


「そうか。同じ見張りでも、今度は正義の味方だからな。気分も違うだろう?」

「……へい。これが仕事なら、枕を高くして眠れそうで」


 チンピラでも良心の呵責はあるんだな。まだ、良心なんて物が残っていてよかった。


「確かに仕事だが、あくまでも臨時だからな」


 本業は養蜂業で造り酒屋なんだから、忘れて貰っちゃ困る。


 隠れ家を見つけた2組の悪党の内、1組は小悪党だった。人数は5人。賞金もしょぼくて、トータル5千マリ。

 もう1組の方はちょっと名が通った親分がいて、そいつ1人で3万マリ。子分20人で2万マリ。合わせて5万マリの賞金が掛かっていた。


 2件で5万5千マリ稼げれば、大分助かる。うちにとっては貴重な収入源だ。


 後で揉めると嫌なので、メラ姐さんにはこういう仕事をするという通告をしておいた。

 幸いゴンゾーラ商会が悪党を匿っているなどということは無く、勝手にしろということになった。


「それは良いが、あいつらが役に立つのか?」


 メラニーさんは不思議がった。

 それはそうだろう。揃いも揃って膝をぶっ壊された連中なのだから。荒事に向いているとは思えまい。


「我が家秘伝の治療薬を飲ませて体操をさせましてね。すっかり良くなりましたよ」


 どんな薬だとうるさかったが、秘伝なので教えられない。全部使ったので手持ちがない。自分は作り方を知らないと言い張って、誤魔化した。

 いや、誤魔化せてはいないのだろうが、「話すつもりはない」という姿勢をはっきり見せておいた。


 もうこれ以上付け込ませはしない。やる気なら受けて立つという気構えを見せつけてやった。


――――――――――

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