32.帝王の謝罪
「父上にしては珍しく緊張してるようだ」
今度は何だと振り向くとマックスが立っていた
「マックス様…驚かさないで下さい」
「まぁいいじゃないかアリシャナ。それより、アンジェラは色んな意味ですごいな」
マックスは笑いながら言う
「マックス様はアンジェラを押し付けられたとか」
「あぁ、別に構わない。どうせ公の場に連れ立つことはなさそうだからな」
「と、言いますと?」
「公の場に出て恥ずかしくない礼儀作法を覚えてからでないと外に出すわけにはいかないからな」
「それは…監禁?」
「ともいうかもしれないが…常識があればすぐに外に出られることを考えればそれほどのことでもないと思わないか?実際貴族のマナーなど子供でもこなしているのだからな」
マックスはそう言って笑う
「相変わらずですね」
「まぁ、人の本質などそう簡単には変わらんさ」
「私は少し残念です」
「残念?」
「アンジェラ様を押し付けられたことでマックス様の本当のお姿をもう見ることはないのでしょうから」
「あはは…そういえば君は知っていたんだったか。まぁ俺としては絵さえかければ満足だ。そういう意味では出来損ないが嫁になったのは逆に都合がいいかもな。そうだ、今度2人にプレゼントするよ。楽しみにしていてくれ」
マックスはそう言って帝王の元へ向かって行く
「マックス様の本当の姿?」
「ふふ…今のマックス様はわざとあのようなお姿を」
「何で?」
「幼い頃から帝王の血を引くことで色々あったそうです。その全てに嫌気がさして逃げ出したと」
「…で、何でリーシャがそんなこと知ってるんだ?」
「魔術師団に入ってすぐの頃に書類を出した帰りに迷子になってしまって…その時に助けてくれたのがマックス様だったんです。とても美しい男の子でした」
「え…?」
「おそらくそちらが本当のお姿でしょう。おそらく今も本来の姿であれば帝王と並んでも遜色がないくらいなんじゃないでしょうか」
帝王は中世的な顔立ちで男女問わず引き付ける容姿をしている
「兄弟の中で一番帝王に似ているそうですよ?だからこそ色んなことに巻き込まれて疑心暗鬼になった。私が出逢った頃は姿を変える術を練習されてたんです」
「姿を変える…だからって何もあんな姿にならなくても…」
「ふふ…あえてです。政務の才能も隠し、絵だけが全てと周りに思わせて…だからこそ帝王の役に立つ情報も得れるのだとおっしゃっていました。皆さんとても口が軽くなるそうで」
「なるほど…な」
エイドリアンは帝王の側に控えるマックスを見る
「まぁでも…あの方は自由に絵を描ける環境を作りたかったという方が大きかったかもしれませんけど」
半分呆れたような言い方にエイドリアンも苦笑する
そんな他愛ない話をしていると帝王が立ち上がった
「今日は皆に伝えたいことがある」
その言葉に一斉に会場が静まり返る
「エイドリアン・スターリングの呪いの噂についてだ」
「!」
エイドリアンの体がこわばるのが分かる
静まり返った会場もどこか緊迫している
「我はエイドリアンに、そしてスターリング家に謝罪せねばならん」
謝罪という言葉に会場がざわつく
「帝王が謝罪?」
「どういうことだ?そんなことがあり得るのか?」
「そんなことされたら…」
「そうよ、私達はどうなるのよ…」
口々に零される言葉の端々に、これまで自分たちが取ってきた態度がまずかったのではないかという不安が見える
「エイドリアンが纏っていた入れ墨は呪いではなく、魔術国に伝わる祝福であると我は知っていた。知った上で国の平和の為に呪いの噂を放置した」
「呪いじゃなく祝福?」
「どういうこと?」
所々からそんな声が聞こえる
「エイドリアンの入れ墨は魔力を封印したもの。そしてその封印を解けるのはアリシャナが成人してから…それまでの間、我はエイドリアンの封印された状態の性質を利用した」
「…帝王は一体…」
エイドリアンが呟く
「エイドリアンが呪い持ちと忌み嫌われ強い魔力で恐れられ、そのことに苦しめばその分この国は平和を保つことが出来た。我はその平和の為ならエイドリアンの犠牲は仕方ないと結論付けていたのだ」
帝王は淡々と説明する
「だが、それは間違いだったと今はそう思う。エイドリアン始めスターリング家の者にはまことに申し訳なかった」
そう言って頭を下げる帝王に皆の視線がエイドリアンに向けられた
「もうやめましょう帝王」
エイドリアンの言葉に帝王は頭をあげた
「確かに俺は苦しみました。家族も悔しい思いをしたでしょう。でもそのおかげで信用できる人間を見極めることが出来ました。それに何よりアリシャナを手に入れた。あなたの命のおかげで未来永劫、俺からアリシャナを取り上げられることもない」
「エイドリアン…そなた…」
「俺の為に祝福の解放を拒む、帝王のしてきたことを許せないと怒ってくれる、アリシャナは俺のかけがえのない存在です。正直それ以外はどうでもいいとさえ今は思える。だからもう全て忘れましょう」
エイドリアンはそう言って笑う
「…すまない…感謝する」
帝王の言葉に会場が静まり返った
「良かったですね父上でも、ここからが本題ですよ?」
その静寂を破ったのは意味ありげにそう言うマックスだった
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