30.舞踏会へ
ナイジェルの裁判から半年が経った頃、帝王から舞踏会に参加するよう要請が出た
渋っていた2人も帝王の命と言われれば断ることも出来ず、バックスとオードリーに仕切られながら準備を進めてきた
「どういうつもりなのかしら?」
会場に向かう馬車の中でアリシャナはつぶやく
「まぁ、行けばわかるだろ。それより絶対そばを離れるなよ?」
「なぁに突然?」
「ピアスのけん制も結界もあるから問題ないとは思うけどな…母さんも言ってたけど今のアリシャナは誰もが振り返る」
「な…に言って…」
「それぐらい綺麗だってことだよ。出来ることならこのままどこかに閉じ込めて…」
そこまで言って真っ赤になったアリシャナにエイドリアンは苦笑する
ちょうどその時会場に到着したらしい
2人は馬車を降り注目されながら会場に入った
「リアン」
「ん?」
「いつの間にこんなこと覚えたの?」
エイドリアンはこの国で最上級と称されるエスコートを完璧にこなしていた
「母さんに叩き込まれた。リーシャこそいつの間にそんな身のこなしを身に着けた?」
「…お父様が教師を手配してくださいました」
「…そういえば父さんは俺のことがあるにもかかわらず国務機関長を続けてきた人だったな」
エイドリアンがため息混じりに言う
一夫多妻が常とは言え、相手のいるものにアプローチしたければ、誰の目から見てもその相手を越えてから、というのがこの国の常識となっている
それをクリアせずにアプローチすればただの愚か者として笑いものにされる
つまりアリシャナに近寄りたければエイドリアンを、エイドリアンに近づきたければアリシャナを越えなければならないということだ
そのためにバックスとオードリーは協力を惜しまなかったということなのだろう
バックスとオードリーには頭が上がらないようだと2人は顔を見合わせ思わず笑いだす
「2人に感謝しないとね」
「ああ」
納得はいかないがという顔を隠そうともしないエイドリアンに苦笑を漏らす
「相変わらず仲がいいようだな」
背後から声を掛けられ振り向くと帝王夫妻が立っていた
「帝王。本日は…」
「挨拶はいい。今日は発表したいことがある。それが終わるまでは会場に留まれ」
「「承知しました」」
そう答え頭を下げる2人の横をすり抜け帝王は舞台に向かって歩いていった
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