第64話 四柱地獄との決着




 オレが攻めきれない中、斬月の猛撃は続いていた。


 高速で背後に回ろうとも、奴は至箇所から刃を出現させ斬り掛かり、また刃を飛ばして襲ってくる。

 単体なのに複数の剣客と戦っているような気分だ。


 このまま『超神速化』が使えるようになるまで長期戦にもっていくか……。

 

「逃げてばかりか!? 『死神』の名が泣くぞ!」


 斬月は攻撃を繰り出しながら、嘲笑い挑発してくる。

 だが油断しているようで油断していない。

 オレのペースを乱すための心理戦だ。


「別に『死神』って呼び名に固執してないと言っているだろ?」


 刃を躱し弾きながら、オレは奴との距離を一定に保ち移動する。


「なるほど……再び『時』を止める準備をしているな? 連続使用ができないってわけか? そんな時間など与えん!」


 斬月は言い放ち、身体中から同時に刃を出現させる。

 無数の刃は触手のように伸長し、一斉に攻撃を仕掛けてきた。


「これぞ《無限刀流》の真骨頂だ! 躱せるものなら躱してみろぉぉぉ、死神セティィィィ!!!」


「チイッ――仕方ない! 奥の手だ!」


 オレは後方へと跳躍し、ある場所に向かう。


 当然ながら斬月は見逃す筈もなく、鋭利な刃群がオレに向けて追随してきた。



 斬ッ、斬ッ、斬ッ、斬――……!



 それはまさに圧倒する斬撃と数の暴力。


 一見して、刃群がオレの肉体を容赦なく切り刻んだかに見えた。



 が、



「――な、なんだと!?」


 斬月は驚愕する。


 攻撃の先に、オレは平然と立っていた。


「ふむ。流石は最強の防御力だ。遺体だろうと刃が一切通らない。大したものだ」


 そう――ドレイクの亡骸を抱え、防御用の「盾代わり」とした状態。

 勿論ドレイクは既に絶命しているが、自分が死んだことすら実感させず屠ったことで、まだスキル効果は失われてなかったのだ。


「ぐっ……セティ、貴様ッ!」


「初めて名前だけで呼んでくれたな? だが、もう遅いッ! 『時』は既に満ちている――《生体機能増幅強化バイオブースト》全リミッター解除ッ!」


 オレは『超神速化』となり、その場から姿を消した。



 束の間



 支えを失い、ドレイクの遺体が地面に倒れる。


「――ぐふっ、バカな! セティィィ!!!?」


 同時に斬月の全身が斬り裂かれ、切断された頭部が回転しながら滑り落ちた。


 背後にはオレが回り込んでおり、両手には血塗られた短剣ダガーが握られている。


「斬月……最強を目指していただけに手強い相手だった。純粋な戦闘力だけならより上だったかもしれない」


 僕は《生体機能増幅強化バイオブースト》を解き、素の状態に戻った。

 

 地面に伏せている、斬月の頭部。

 その瞳は見開いており、自分の死を受け入れないまま絶命した表情に見える。


 僕は歩み寄り、斬月の双眸を閉じさせた。

 自ら屠った暗殺者アサシンに、ここまで敬意を示したのは初めてだと思う。

 どうしてかはわからない。


 最強を目指し堂々と挑む姿勢に、何かしらの感銘を受けたのかもしれない。


「……力の使い方さえ間違わなければ良い剣士になれたかもしれない。全てモルスが元凶だ」


「ギャワ、ギャワ!」


 呟く僕に、シャバゾウが擦り寄ってきた。

 今回はこいつも大活躍だな。そう思い優しく幼竜の頭を撫でる。


 余裕ができた僕は立ち上がり、周囲の戦闘状況を確認した。


 ケールという発狂する魔術師の女と戦っていたカリナ達は勝利し、マニーサの魔法で奴の頭蓋骨をカチカチに凍結させている。

 流石、魔王討伐に選抜された勇者パーティ。

 肝心の勇者は偽物を雇う愚か者でも、彼女達の実力は本物だ。


 だが一方で、


 小人妖精リトルフ族のパシャと戦っていた、パイロンの様子が何か可笑しい。


 特に苦戦しているとかではない。

 パイロンは至って無傷だ。

 彼女の恩寵系ギフトスキル《牢獄の烙印プリズン・スティグマ》を発動し、パシャを結界の中で封じ込めた以降、何も進展していない光景に見えた。

 確かあのスキル、たた結界に封じるだけでなく高い攻撃能力も備わっている筈だ。



 僕はシャバゾウと共に駆けつける。


「どうした、パイロン? 僕が来るまで待っていたのか?」


「違うネ、セティ……この小人妖精リトルフ、いくら攻撃しても死なないヨ! すぐ復活するネ! あいや~だヨ!」


 困り顔でパイロンは訴えてきた。


 なんでも結界の壁で押し潰しても、棘状に変化させ串刺して切り刻んでも、空気を失わせ窒息させようとも直ぐに回復して復活するらしい。


「誰もアタイを殺せないさぁねぇ! 残念でしたぁ、アハハハ!」


 パシャは結界に閉じ込められたままドヤ顔でイキっている。

 奴も《牢獄の烙印プリズン・スティグマ》に閉じ込められた状態では、反撃することができないので膠着状態が続いているようだ。


 僕は腕を組み考察する。


小人妖精リトルフ族にはそのような超人的な回復能力はないからね……モルスが直に育てた『子供達』なら《生体機能増幅強化バイオブースト》を体得していると思う。しかし僕もそうだけど不死身ではない。時間を掛ければ損傷の治癒こそできるけど、即効性の回復能力まではないよ」


 あまりにも激しい損傷は、フィアラに回復してもらうようにしているからな。


 このパシャという小人妖精リトルフ族、歪曲空間能力以外にも別のスキルを持っているっていうのか?


「――セティ君、終わったのね……無事で良かったわ。ところでパイ、どうしたの?」


 戦闘を終えたマニーサ達が合流してきた。

 カリナ、フィアラ、ミーリエルも目立った損傷はなく健在だ。

 特にマニーサは魔法で生成した特殊グローブをはいており、カチカチに凍結させた『ケールの頭蓋骨』を持っている。


 僕は頷きつつ、大まかの説明をしてみた。


 マニーサは「ふ~ん」と頷いて見せる。


「……そう。ケールと同じタイプのようね。パイ、この結界どれほどまで維持できるの?」


「アタシが生きていれば永遠ネ。けどアタシもこの場所から動けないから厄介ヨ……視界内でしか能力が維持できない、それが弱点でもあるネ」


 互いに信頼を得ているとはいえ、自分のスキル能力の欠点をあっさりと暴露する、パイロン。


「以前、パイロンならこの結界で出入りできると言ったわよね? 部外者は無理でも魔法を注ぐとかできないの?」


「アタシが許可すれば誰でも自由に出入りできるし、魔法も使えるネ」


「なら簡単よ――このケールのように凍らせて封じちゃえば解決するわ。私が《凍結魔法》を放つから、パイは許可してよね」


 マニーサの提案で、僕とパイロン「おお~っ」と声を上げる。


「キルできなくても封じることはできるか……流石、マニーサ。いいアイデアだね」


「本当だネ! そのおっぱいのデカさは伊達じゃあいヨ!」


 いやパイロン、胸の大きさは関係なくね?


「しかし、マニーサ。こやつを凍らせるのは良いとして、その後どうする? そう容易く持ち運べる大きさではないし、放置しておくとそのうちに溶けてしまうぞ?」


 カリナが聞くと、マニーサは手に持つ『ケールの頭蓋骨』を掲げ見せてきた。


「凍らした後、浮力魔法を使えば『神殿』くらいまでなら持ち運べるわ……後は、この『ケール』に聞いてみましょう? ハデスのボス、モルスの『本体』の行方と同時にね」


 うん、流石はパーティ随一の頭脳派ブレインだ。

 あっという間に解決策を見出してしまった。


 そのやり取りを聞き、余裕ぶっていたパシャの顔色が変わる。


「ちょ、ちょいと! アンタら、まさか本気でアタイを氷漬けにするっていうのかい!? こんな可愛らしい容姿をした、いたいけな少女のような小人妖精リトルフに向けてさぁ! アンタらには慈悲や倫理観は持ち合わせてないのかい!?」


「ここにいる私達は全員、セティ君と同じよ――悪・瞬・殺。あれだけ大暴れした癖に、今更何言ってんのよ?」


「マニーサの言う通りだな。貴様など百害あって一利なし」


「聖母メルサナの教えでも悪と暴挙には毅然と立ち向かうべしとされています。何一つ問題ありません」


「あんた達が奪い傷つけた、森とエルフ兵達の恨みだってあるんだからね! 覚悟しなよ!」


 マニーサに続き、カリナとフィアラとミーリエルが至極当然の言葉を浴びせた。

 彼女達の本気度に、パシャは「うぐっ」と絶句する。


 大抵の小人妖精リトルフ族は困った時には、すぐ愛らしい見た目を売りにするところがある。

 けど世の中には上辺よりも中身で是非を判断する人間もいるっていうことを学んだ方がいいだろう。

 実際の話、偽勇者だった僕を一生懸命に探してくれたのは彼女達だからね。


「それじゃ、マニーサ先生、お願いするネ! 思いっきりカッチカッチにするがヨロシ!」


「任せて」


 マニーサは『ケールの頭蓋骨』を僕に預けると、装備している『賢者の杖』を取り出し呪文語を唱え始める。



 嫌だぁ、やめてぇ! ぎゃあぁぁぁぁぁぁ――……!!!



 パシャから阿鼻叫喚の悲鳴が木霊する中、最上級凍結魔法が執行された。





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