第61話 四柱地獄と混戦




 ケールが施した支援魔法 《超究極増幅強化ハイパーブースト》を施され強化された、斬月とドレイクの二人がオレに襲い掛かってくる。


 普段は不仲でこそあるが、組織ハデスにおいて最強の攻撃と防御を兼ね備えた奴らであり、無敵クラスの矛と盾と言っても良いだろう。

 こうして歯車が噛み合うことで、その力はオレをも圧倒するかもしれない。


 おまけにパシャのスキル《歪空間領域ディストーション》で自分周囲の空間が歪められ、今のオレは思うように身動きが取れない。

 どんなに素早く動こうとも、回し車のようにその位置から離れられないでいる。


(こうなれば大ダメージ覚悟で、攻撃を受けた際にカウンターを浴びせるしかない!)


 果たして強化された二人に対し、同時カウンターが可能なのか未知ではあるがやるしかない――そう腹を括る。



「――アタシの夫は殺させないネ!」


 覚悟を決めたその時だ。

 

 ふとパシャの声が耳に入る。一瞬、幻聴かと思ったが。


「《牢獄の烙印プリズン・スティグマ》!」


 僕の周囲に透明色の壁が出現する。


 目の前で迫る二刀の刃が火花を散らし、それ以上進むことはできない。


「なんだと!?」


「馬鹿な……う、動けねぇ!?」


 その現象に斬月とドレイクは驚愕する。


 間違いない。

 これはパイロンの恩寵ギフト系スキル《牢獄の烙印プリズン・スティグマ》だ。

 オレの周囲に結界を張ってくれたのか。


「セティ! 大丈夫カ!?」


 パイロンが必死な表情で駆けつけてくれる。

 

「ああ、パイ! おかげで助かったよ、ありがとう!」


無問題モーマンタイネ。夫のピンチを救うのは妻として当たり前ヨ!」


 まだ結婚してないけどね。

 けどガチで助けられた。


「他のみんなは?」


「救援活動も追えて、もうすぐ駆けつけて来るネ! 森の消火はエルフの民に一任したヨ! 心配ないネ!」


 そうか、それならいい。

 これでより戦闘に集中できる。


「やい、白い女! 急に現れやがってぇ、テメェはなんなんだ!?」


「待て、ドレイク……あの女が纏う服、エウロス大陸の者か!?」


「なんだと!? ってことはこの女ァ、闇九龍ガウロンか!」


 指摘されたパイロンは「フフン!」と得意げに鼻を鳴らして胸を張る。


「そうネ! 我が名は白龍パイロン! 現、闇九龍ガウロンのボスヨ! この三下共、ひれ伏すがヨロシ!」


 包み隠さず、ここぞとばかりにぶっちゃけ始める。

 それでいいのか? と思ってしまった。


闇九龍ガウロンのボスだって!? こんな小娘が!?」


 パイロンよりも小娘っぽく見える小人妖精リトルフのパシャが驚愕し声を張り上げる。


「そうヨ。お前らアタシのセティを狙う害虫、どうせ全員始末するから正体明かしたネ。死人に口なしだヨ」


「んなのは実際に始末してから言う台詞さぁね! ケール、あの結界を排除しな!」


『無理だよ、パシャ……あれは恩寵ギフト系スキルによる防壁。如何に強力な魔法も通すことはない。ましてや解除など……憎い、なんて憎いぃぃぃ、ヒェェェェェェイ!』


 ケールが発狂している。

 どうやら、ドレイク以上の防壁でオレは守られた状態のようだ。

 今のうちに、《生体機能増幅強化バイオブースト》で受けた損傷と疲労の回復を試みる。


 だがいくら傷は癒えても、まだ周囲に漂う空間の歪みは解消されていない。

 やはり、あのパシャをなんとかしないとスキルは解消されないようだ。


「なるほど、そういうことネ!」


 パイロンはニッと微笑を浮かべ駆け出した。

 目で追うのがやっとの速さで、斬月とドレイクの頭上を飛び越える。


「――《牢獄の烙印プリズン・スティグマ》ッ!」


 オレに施された結界を解除し、今度はパシャに向けてスキルを発動した。


 パシャの周辺に六角形の壁が出現し覆う形で囲む。

 透明色の壁は狭められ、まさに牢獄の如く密封され中に閉じ込められた。


「な、なんだい! これは!?」


小人妖精リトルフの女。お前はもうそこから抜け出せないネ! 能力もその中でしか使えない、それがアタシの恩寵ギフト系スキルだからヨ」


 パイロンは言い切る。

 何せ微粒子のウイルスさえ閉じ込めるほどの結界だ。

 その絶対的な能力故に彼女は闇九龍ガウロンの新たなボスとして成り上がったのだから。


 けどこうして目の当たりにすると物凄く恐ろしいスキルだ。

 本当に彼女が味方で良かったと思う。


「……確かに、パシャに施された歪曲空間のスキルが消失している。これでオレも自由に動けるようになったぞ」


 ダメージも回復したし、これなら二人掛かりだろうと負けない。


「セティ、もっと良い事が続くみたいだヨ」


 パイロンはチラッとこちらを振り向くと嬉しそうに白い歯をみせてきた。

 良い事だって?


 オレは首を傾げると、遠くの方から数人が近づき駆けつけてくる。

 

 カリナ、フィアラ、ミーリエル、マニーサ、そしてシャバゾウだ。


「セティ殿、ご無事か!?」


「ああ、カリナ。結構ピンチだったけど、パイのおかげで大丈夫だよ!」


「セティさん、お怪我の方は……ご自分で回復されたようですね?」


「うん。フィアラ、心配してくれてありがとう。あとエルフ兵の救出活動ご苦労だったね」


「とにかく無事でよかったよぉ、セティ……あいつらだね? あたし達の森を焼いた酷い連中!」


「そうだ、ミーリ……奴らが『四柱地獄フォース・ヘルズ』だ。ところでマニーサ、ポンプルはどうした?」


「一緒に救援と称か活動していたんだけど、終わり頃になって途中からいなくなったわ……セティ君に言われた通りどこかに逃げたのか、あるいはエルフ兵達と一緒に神殿に戻ったのかもね……」


 そうなのか……まぁ、あいつはいるだけ邪魔なだけか。

 神殿に戻ったのなら、ヒナのことが少し心配な部分もあるが、あの子も『拳銃ハンドガン』を装備している。

 純粋な戦闘力なら、オレから毎日訓練を受けているヒナの方が確実に上だ。

 後は、あの子自身の戦う気持ち次第だが……。

 

「わかった、ここからは反撃ターンだ! オレは斬月とドレイクこいつらを始末する! あとの二名を任せていいか!?」


「了解ネ! あの小人妖精リトルフの女は、アタシが相手するヨ!」


「では我らは細い黒マントを相手にすればいいんだな?」


「その通りだ、カリナ。あのケールって奴は強力な魔法を操る厄介な奴だ。ボス、いやモルスに近い存在と言われるからには他の何かがあるかもしれない……気を付けてくれ!」


「あいわかった! 皆、行くぞ!」


 カリナは頷き駆け出す、その後ろにフィアラとミーリエルとマニーサが後に続いた。


 斬月とドレイクは黙ってそれを見ているしか術はない。

 オレが見張り、強烈な殺意を浴びせているからだ。


 ――既に形勢は逆転されたことを意味する。


 後はこいつらを瞬殺して彼女達と共に戦えば解決となるだろう。

 可能な限りケールって奴は生かす必要がある。

 モルスの本体こと『感染源』の居場所を突き止めるためにも……。


「ギャワ! ギャワ!」


 不意にシャバゾウがオレの前で立ち上がり何かを訴え始める。


「どうした?」


「ギャワ! ギャワ! ギャォォォワ!」


 長い首を捻り、鼻先をドレイクの方へと向けている。

 なんだ? 何を訴えている?


 ……まさか。


「ひょっとして、あの竜神族ドラクノイドと戦うっていうのか?」


 オレの問いに、シャバゾウは大きく首を縦に振るう。


 いや、無理だろ……流石に。

 お前、小さい子供相手でもいつも怯えて隠れているだろ?


 けどシャバゾウのつぶらな瞳は強い信念を感じる。

 神竜の末裔であるレインボウ・ドラゴン虹竜だけあり、ドレイクに思うところがあるのか?


 それになんだ?

 シャバゾウから形容し難い『何か』を感じる。

 意地でも成し遂げようとする強き意志……。


 オレは力強く頷いて見せる。


「――わかった! 危なくなったらオレがフォローする! 共に戦おう!」


 こうして役者が揃い、『四柱地獄フォース・ヘルズ』との混戦状態となった。





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