第57話 狙われながらのスローライフ満喫




 建物同士の僅かな隙間から、人影が落ちてきた。


 黒装束を纏った男女不明の人物、頭部が縦状に割られ既に即死している。

 まるで戦斧でかち割られたような遺体だ。


 たった今、斬月が攻撃した不審者である。


盗賊シーフにしちゃ、随分と手の込んだ暗器を装備しているねぇ……アタイらをつけ回すなんて組織ハデス暗殺者アサシンでないのは確かだけど?」


『こいつはエウロス大陸の暗殺者アサシン。おそらく闇九龍ガウロンの密偵部隊といったところか』


 パシャの疑問に、ケースが即答で言い当てる。

 素顔がわからない深々と被られていたフードから、小さな魔法陣が二つ浮かび上がっていた。

 おそらく《鑑定魔法》を発動させ、身元を割り出したに違いない。

 しかも正確に言い当てるなど相当制度の高い魔術だと思われる。


闇九龍ガウロンだぁ!? やはり連中は『死神』と結託しやがったのかぁぁぁ! 殺すッ、ぶっ殺すぅぅぅ!!!」


「やかましいドレイクは無視するとして、ボスの勘は的中しているのなら面白いことになるぞ……エウロス大陸を牛耳る闇九龍ガウロンとの全面対決は俺も望むところだ」


「相変わらずの戦闘狂だねぇ、斬月は……まだそうだったと決まったわけじゃないのにさぁ。けど『死神セティ』を始末するには邪魔な障害なのは変わりないかもねぇ。まぁ、アタイらは普段通り邪魔な火の粉を振り払うまでだよ」


「んじゃよぉ、パシャにテメーらッ! とっとと『死神』をぶっ殺してやろうぜぇぇ、ああ!?」


 ドレイクが威勢よく檄を飛ばすも、他の三人は「お前に言われる筋合いはない」と冷たくあしらう。


 相変わらず不仲のまま、『四柱地獄フォース・ヘルズ』は闇夜に消えて行った。





**********



「――ポンプル、9番テーブルのお客さんに持って行ってくれ!」


「うぃす、セティ様ぁ! ヘイ、お客さん! 豚骨ラーメン、ネギ抜きバリカタ一丁っす!」


 あれから僕達は通り掛かる各村や国で、ランチワゴンの営業を行いながら目的地へ向かっている。


 約束通り同行を認めたポンプルに店の手伝いをさせていた。

 暗殺者アサシンとしてはへっぽこな奴だが、小人妖精リトルフ族だけあり手先が器用で要領がいい。

 何より愛嬌があるので、日頃の美少女達目当てばかりの男性客の中で女性客も増えていた。


 さらにポンプルは吟遊詩人バードとして、そこそこ名が通っているようで地元の英雄譚を朗唱してはお客集めに貢献している。

 暗殺者アサシンではなく、そっち一本でやっていた方が良かったと思えるほどだ。


「セティ~、アタシのメイド服姿、よく見るネ~!」


 パイロンは他の女子達と同様に露出度のあるメイド服を着用し、僕の前でくるりと回転して見せてくる。

 真っ白でなんとも可愛らしい。その正体が闇九龍ガウロンのボスとは思えない。

 みんな高レベルの美少女ばかりだが、彼女も決して見劣りせず魅力的だった。


「ああ、よく似合っているよ、パイ」


 以前よりも賑やかで忙しくなっているが、僕は心地よい充実感に満たされていた。




「――冒険者様方。賊達から村を救ってくれて、なんとお礼を言って良いものか。これはささやかなお礼です」


 営業が終わり頃。

 村の村長が訪れ、僕に謝礼金を渡そうとしてくる。

 つい先日まで、この村は戦争に敗れ賊になり下がった兵士達によって占領されていた。


 僕達が訪れた際、罪のない村人を虐待する連中に業を煮やして撃退してやったのだ。


 相手は100人を超える賊達で兵士だったこともあり戦い慣れた連中ばかりだった。

 しかしこちらも元屈強の勇者パーティの女子達に最高クラスの暗殺者アサシンが二名もいる最強チームだ。


 抜群のチームワークと個々の強さで次々と賊達を打ち倒していく。

 僕も『死神セティ』としてではなく村を救う一人の冒険者として戦い、無駄なキルをせず連中を追い返すことができた。


 それから賊達は全員拘束したまま、領土国の警備兵に突き出している。

 後は国の裁きを受けることになる筈だ。これで僕達の役目は終わった。


 ランチワゴンの営業をする中、世直しまでとはいかないも時に理不尽な暴挙に対して善良な民達を守るため戦うこともある。

 それが僕のできる、せめての贖罪だと思いながら。


「村長さん、僕達はランチワゴンで稼がせてもらっているのでお金はいりません。その代わり宿を取らせてもらいたいのですが? みんなの身体を休ませたいので」


「ええ勿論、とびっきりの部屋をご用意いたします。それに当村は温泉地でもあります。どうか湯にお浸かりになって静養してください」


 こうして村長に進められるまま、僕達は貸し切りで宿屋に一泊することになった。

 ちなみに、ここの温泉には混浴ではないそうだ(残念)。



「ポンプル、たまには男同士で背中を流し合わないか?」


「え? い、いえ……セティ様。オイラ、お湯に入るとうっかり漏らしてしまうんで、どうぞ先に入ってくださいっす」


 お子ちゃまか?

 実年齢30歳だろうが……いっそ医者に診てもらった方がいいぞ。

 

 どうやらこいつと一緒に温泉に入ったら、とんでもない惨劇に見舞われそうだ。


「わかった、一人で入るよ。ゆっくり休んでくれ」


「うぃす(危ねぇ……ここで裸を見せたら今度こそ、パシャ姐さんの『心臓』を隠し持っていることがバレるっす! けどオイラ、嘘は言ってないっすけどね……浴場に入るとガチで尿を催してしまうっす)」


 僕はポンプルを置いて、浴場へと向かった。


 すると、


「セティお兄ちゃ~ん!」


 ヒナが広々とした湯船に浸かった状態で大きく手を振っている。


「どうして、ヒナがここに? ここは男湯だぞ?」


「ヒナだけじゃないよぉ、おネェちゃん達も一緒だよ~!」


 そう言ってきたので、湯煙の奥側に視線を向けると確かに彼女達がいた。


 カリナ、フィアラ、ミリーエル、マニーサ、そしてパイロンの五人だ。

 みんな混浴用のバスタオルを巻いたまま湯に入っていた。


「セティ殿、店主に頼んで今晩だけ混浴にしてもらったのだ」


「どうせ、わたし達の貸し切りですからね」


「えへへへ~、また一緒に入れて嬉しいよ」


「ポンプルは後で入るって聞いたから、いい機会だと思ったのよ」


「これぞ夫婦、いやヒナもいるから家族水入らずネ~、セティ」


 そういうものなのか?

 相変わらず行動力というか積極性が凄いと思う。


 まぁ、僕も今回はちゃんと腰にタオルを巻いた状態だし、湯に入るだけなら問題ないかな。


「じゃあ、僕もお言葉に甘えて」


 僕は身体を流し、ゆっくりと湯船に浸かる。

 気持ちいい、アツミ村以来の解放感だ。


 湯を満喫する中、彼女達はじぃっと僕を見つめてくる。


「どうしたの、みんな?」


「いえ、セティ殿にしては積極的というか、前向きというか……」


「そうかな、カリナ……ドキドキはしているよ。けど僕はもう決めているからね」


「決めているですか?」


 フィアラの問いに、僕は頷いて見せる。


「うん……みんなを幸せにしたい。僕ができるやり方で……だから、こういうスキンシップは大切だと思っているんだ」


「そ、それって、セティ……あたし達との……結婚を考えてくれているってこと?」


「……うん。まだ力不足だけど、こんな僕で良ければ……」


「ありがとう、セティ君……私達も本気よ。みんなセティ君が好きなの……だから嬉しいわ」


 嬉しさが込み上げ溢れたのか、マニーサが涙ぐみ声を震わせた。

 他のみんなも微笑を染めて照れながら微笑んでくれる。


 僕も凄く嬉しい。

 彼女達を信じながらも万一断られたらどうしようと不安も過っていたから。

 けど杞憂だった。


「アタシも嬉しいヨ。とっとと『千の身体を持つ者サウザンド』を斃して、みんなで結婚式を上げるネ! 子作りに専念するヨ~!」


 パイロンは無邪気に両腕を上げてはしゃいでいる。

 彼女にとって子作りネタは外せない事項らしい。

 けど胸に巻いていたバスタオルが解けてしまい、危なくポロりそうになっている。


「パイ、結婚式は良しとして後の方はおいおいってことで……キミとの約束通り、エウロス大陸には一緒に行くよ」


「セティお兄ちゃん、ヒナとシャバゾウも一緒に行くからね~! みんなずっと一緒だよ~!」


「え? う、うん。そうだね……ヒナも一緒に行こうか」


 僕は一瞬だけ言葉を詰まらせた。

 ヒナにとってエウロス大陸に行くことは、敵地に乗り込むようなものだ。

 倭国の皇帝がこの子を邪魔として命を狙い続けている限り。


 けどパイロンが仲間になってくれている以上、大丈夫だと判断する。

 モルスを斃した暁に、倭国の皇帝とも決着をつける必要があるだろうと思った。


「よし! セティ殿の気持ちを確認できたことだし、ここは我らが未来の夫となる方のお背中を流すことにしよう!」


 いきなり何を思ったのか、カリナが音頭を取り始めた。

 ヒナを含む女子達全員は「おーっ!」と賛同し、僕の両脇を抱えて湯船から上がらせようとする。


「ちょ、ちょっと待って! まだそこまでしなくても……あっ、タオルが取れちゃうよ~!」


 まずい、今度は僕がポロリそうになる!?


 けど女子達は構わず、「いいから、いきからぁ!」とテンションを上げ、揃って僕の身体を泡塗れにして洗い始めてきた。

 くすぐったくて幸せだけど超恥ずかしい……。



 こうして楽しいスローライフを送りながら、僕達は旅を続けた。




 数日後、ようやく目的地である辺境地ユグドラシルの森林地帯にある『古代エルフの遺跡』に辿り着く。





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