第55話 お漏らし暗殺者の秘密

 


 移動用の大型鳥モンスターことホウシロウに跨るポンプルは、荷馬車の方に近づいて来る。


「と、とにかくっす! 荷馬車を止めてくださいっす! 一端、降りて説明させてくださいっすよぉ、セティ様ぁぁぁ!」


「駄目だ。なんでお前の要求で僕達が足止めされなきゃいけないんだ? こちらには腹を空かせている者もいる。そんなに話をしたければ、次の村まで付き合ってもらうぞ。嫌なら、今すぐ殺す」


 僕のキル宣言に、臆病なポンプルは「ひぃっ!」と喉を鳴らした。


「わ、わかったす。言うこと聞くっす……だからボクに殺意を向けるのはやめてくれっす! ちょっとだけ漏らしたっす!」


 ポンプルのお漏らし告知に、ホウシロウは長い首を大きく横に振るって嫌がっているも、末端とはいえ暗殺者アサシンであり小人妖精リトルフ族特有の身軽さもあってか振り落とされないのは流石と言うべきか。


 僕は無視し御者台へと戻りパイロンから手綱を受け取る。

 そのまま次の村まで直行した。




 夕暮れ刻となり村の市場で食材を購入する。

 それから腹ペコのパイロンに食事を提供した。


 ランチワゴンは明日から営業することにし、許可を貰った広場でテントを張る。


「セティさん、夕食の準備できましたけど?」


「ああ。フィアラ、ありがとう。今行くよ」


 僕は返答しながら視線を動かし、立ち竦むポンプルを見つめた。

 相変わらず臆病でびびっており、僕を見ては身を震わせている。

 空腹なのか密かに腹を鳴らしているようだ。


「……ポンプル、お前も来い。夕食ぐらいは奢ってやる」


 僕の提案に、ポンプルは瞳を見開き「へっ?」と間抜けそうな返答をする。


「ボ、ボクも? いいんですか、セティ様……」


「ああ、それから話を聞こう。殺すかどうかはその時に決める」


「いや、それじゃ最後の晩餐になるかもしれないじゃないっすか……けど言うこと聞くっす」


 ポンプルはびくつきながら、僕の後ろについて来る。


 それから設置された大きな円卓を全員が囲む形で食事をした。


 カリナ達四人はポンプルの存在に警戒しながらも、何も言わず黙ってくれている。

 奴をどうするかの判断は僕に委ねるという考えだ。


 ヒナは小人妖精リトルフ族が珍しいらしく、自分と変わらない容姿のおっさんに興味深そうに見入っていた。


 パイロンはポンプルをハデスの暗殺者アサシンだと見抜きつつ、「アタシの分はあげないネ!」と食い意地を見せている。さっきあれだけ食べたのになぁ……。


 ただシャバゾウだけは警戒心を解かず、僕の背後に隠れて呻り声を上げている。

 ポンプルに何かを感じているのだろうと思った。


 確かに胡散臭い小人妖精リトルフだ。

 暗殺者アサシンとしては低レベルだが他の連中にないモノを宿している気がしてならない。


(とにかく話だけは聞いてみるか)


 僕はそう思った。



 夕食後、女子達が後片付けをしてくれている中、僕は円卓越しでポンプルと向き合った。


「じゃあ、ポンプル。説明してもらおうか?」


「は、はい……実はボク、組織ハデスを抜けたっす」


「抜けた? どうして?」


「理由はシンプルっす……アルタの兄貴……いや、アルタを見捨てて逃亡したからっす。それが組織から『裏切り行為』と見なされ、セティ様と同様に『追われる身』となったっす」


 なるほど、確かにアルタはモルスと肉体を共有していた存在。

 事実上ボスを見捨てた形となったわけだ。


「それで僕と接触したってわけか? 同じ『追われる身』同士、あわよくば匿ってもらうのを期待して同行を求めに来たってわけか?」


「仰る通りっす! セティ様の居場所は旅の商人達から聞いたっす!」


 まぁ、ランチワゴンは目立つからな。方角くらいは、すぐバレるだろう。

 今後はその対策も考えなきゃいけないか。


「話は理解した。内容自体に不審な点はない……だが迂闊に信用するわけにはいかない」


「ど、どうしてっすか?」


「僕の背後に隠れている幼竜、シャバゾウがお前を警戒している。油断させた振りして、僕に敵意があるのかもしれない……あるいは人に言えない危険なモノを隠し持っているとか?」


「い、いやぁ……持ってないっすよ~」


 ん? こいつ今、目を反らしたぞ。


「ポンプル……僕と行動を共にしたいのなら、お前は誠意を見せなければならない」


「誠意っすか? いいっす、セティ様に忠誠を誓うっす」


「言葉はいらない。形で見せてもらう……まずは服を脱いでくれ」


「……ふ、服ですか? ここで?」


 ポンプルは言いながら、女子達に視線を向ける。


 なるほど、見た目はあどけない少年っぽいが実年齢はおそらく30歳か。

 年頃の女子の前で裸になるのには抵抗はあるだろう……。

 僕も悪党には死神だが悪魔じゃない。


「わかった、荷台の裏に行こう。男同士だから問題ないだろ?」


「は、はい……っす」


 素直だが躊躇感を漂わせる、ポンプル。

 

 僕は無視し、奴を連れて人気のない場所に向かった。

 念のため、リードを持ってシャバゾウを連れて行く。


「じ、じゃあ……脱ぐっす。恥ずかしいっす」


「安心しろ、僕にその気は微塵もない。あれだけの美少女達に囲まれていたって手ぐらいしか握れない、超奥手だと自分でも悲観しているんだ」


 つい余計なことを言ってしまう、僕。

 今後、スローライフを目指す上で最大のテーマだと思っている。


 僕が自虐している中、ポンプルはゆっくりと上着から脱ぎ始めた。

 上半身を露わにするが胸毛から腕毛までびっしりと生えている。

 少年っぽい癖にやたら毛深いが、小人妖精リトルフ族の男達は大抵そうだ。


「ぱっと見は不自然な点はなさそうだが……シャバゾウ、どうだ?」


 僕が聞くも、シャバゾウは唸り声だけを上げて何を訴えたいのかわからない。

 依然、警戒心を解いてない様子だ。


 とんがり帽子を脱がさせるも、短髪の毛があるだけで不審な点は見られない。


「じゃあ最後はズボンだな」


「ズ、ズボン!? やっぱ脱がなきゃ駄目っすか?」


「当然だろ? それとも見られちゃ都合の悪いモノでもあるのか?」


「い、いえ……脱ぐっす」


 ポンプルは渋々ズボンを脱ぎ始める。


「――なっ! オ、オムツだと!?」


 その光景に僕は思わず驚愕してしまう。

 布製で赤子が装着する、そのまんまの大人用を履いていた。


 マジかよ、こいつ……なんて奴だ。

 つーか何故、ドヤ顔で堂々としている?


「ポンプルお前……30歳だろ!? なんでそんなモン履いているんだ!?」


「セティ様の前で粗相しないようにっす。実はセティ様を前にして、中身は結構ヤバイ状態っす。これも脱いで見せたほうがいいっすか?」


「……いや結構だ。もう服を着てくれ……てかそのオムツ、漏らしているなら取り替えた方がいいんじゃないか?」


 僕は問うと、ポンプルは「そうっすね……」といいオムツを履き替える。

 交換済みのブツをどうするかは問わない方が良いだろう。


 それからポンプルは服を着用し元の状態に戻る。

 相変わらず奴は怯えながら、子猫のようなすがる眼差しで俺をじっと見つめてきた。


「こ、これでボクのことを信用して頂けたっすか?」


「信用はしない。だが不審物はないことは確認できた……いいだろう、同行は認めよう」


「いいんすか!? セティ様、あざーす!」


「ああ、その代わりランチワゴンを手伝えよ。一緒にいる間は雑用係だからな」


「うぃす! ボク……いや、オイラに異論はないっす!」


「オイラ?」


「はい! ボクだとセティ様と被ってしまうんで、今から一人称をオイラとするっす!」


「……好きにしてくれ。それじゃ、みんなを紹介する。ついて来い。シャバゾウも行くぞ」


「ギャワ、ギァワ!」


 こうして僕はポンプルの同行を許し、共に旅を続けることにした。

 

 さっきも言ったとおり奴を信用したわけじゃない。

 シャバゾウの様子からして、ポンプルには目に見えない何かが施されているのは確かだ。

 最初は魔法系の爆発物を警戒したが、呪術の類は見られなかった。


 まぁ、いい。


 案外こいつを囮に組織ハデスの誰かが釣れるかもしれない。

 モルスは絶対あり得ないとして、幹部クラス……特に『四柱地獄フォース・ヘルズ』なら決着つける上でも都合がいいだろう。


 それだけでもポンプルを同行させる価値はあるか。


 などと考えていた。


(……ふぅ。ボスの命令通り、なんとか『死神セティ』に取り繕うことに成功したっす。しかし「服を脱げ」と言われた時は危なかったっす。咄嗟にパシャ姐さんから預かった『心臓』を背中側に移動させてなんとか気づかれずに済んだっす……これもオイラ・ ・ ・の《悪運》スキルっすかね……自分じゃ自覚ないっすけど)





──────────────────

お読み頂きありがとうございます!

もし「面白い」「続きが気になる」と思ってもらえましたら、是非とも『★★★』と『フォロー』のご評価をお願いいたします<(_ _)>

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る