第31話 それぞれの思惑と邂逅




「ああ、パシャ、上出来だ。流石は組織ハデス最高幹部、『四柱地獄フォース・ヘルズ』の一人だ」


 ルンペは口角を吊り上げて微笑を浮かべる。

 

 既にわかっている通り、この老人の正体は「千の身体を持つ者サウザンド」。

 暗殺組織『ハデス』のボス、モルスであった。


 パシャは「ふぅ」と深く溜息を吐く。

 アルタに貫かれた腹部の傷が閉じられ、瞬く間に治癒された。


「……《生体機能増幅強化バイオブースト》か。セティほどじゃないが、大した能力だ」


「あんたの子供達・ ・ ・なら、みんな持っているスキルだろ。この程度、珍しくないさ……ただセティあいつが異常でバケモノすぎなのよ」


「俺の唯一無二の傑作品だからな。勿論、お前ら四人も別格としている。だから色々と気を遣って配慮しているだろ?」


「まぁね……話戻すけど、あんな猿芝居で良かったのかい?」 


「ああ十分だ。アルタには良い『器』になってもらう……『死神セティ』を俺のモノにするためのな」


「悪党ね。あっ元々からだっけ?」


「……否定はしない。だが貴様ら『四柱地獄フォース・ヘルズ』も、うかうかしてられんぞ。いつまでもいがみ合っていたら、そのうちアルタに先を越されるかもな。奴は『負』想念に満ち溢れ見所がある」


「今度そのために会合を開くわ……四人同時に集まるのは20年ぶりかしら? 会った瞬間に殺し合いになりそうだけど」


「俺はお前達にそこまで関与しない。だが単身ではセティに勝てんぞ。お前達は元々四人で一つ・ ・なんだからな……そこを忘れるなよ」


「肝に命じるよ……あたいはね。それともう一つ聞きたいことあるけどいい?」


「なんだ?」


「ポンプルのことだよ。あいつポンコツだけど、あたいにとって可愛い弟分なんだ……あいつにもしものことがあったら、速攻でアルタを殺すよ」


 パシャは軽い口調だが、その小さな体からは圧倒する殺意が沸き溢れ漲っている。

 間違いなく実行できる能力を秘めていた。


 まだ広場には、アルタが屠った他のホビット族の遺体が散乱している。

 にもかかわらず、パシャはそのことについては一切言及せず、ポンプルに対してのみ執着しているように見えた。


 一方のモルスは、そんな幹部の変貌に臆することなく平然と頷く。


「あの《悪運》持ちのリトルフ小人妖精なら問題ないだろ? アルタについて行ったとはいえ、組織ハデスを裏切ったわけじゃないからノーカンだ。俺直々の命令でもあるし、そんなに心配なら次のフェイズまで密偵鴉を配備させておこう」


「ならどうしてポンプルが必要なんだい? アルタ一人で行かせリゃ良かったのに……」


「ポンプルは軌道修正役を期待している。アルタが下手な方向に行かせないためのな」


「下手な方向?」


「良心だ。復讐相手が身内である以上、ふと芽生えてしまう可能性もある。アルタには常に『闇』を持ってもらわないといけない、『器』になってもらうための……そのためのポンプルだ」


「ポンプルは弱いよ。未だに最下級の暗殺者アサシンじゃないかい?」


「戦闘力は関係ない。しかし奴は吟遊詩人バードとしては有能だと聞く。万一は《うた魔法》で、アルタの精神を魅了することもあるだろう……密偵鴉を通して俺から指示を与えてもいい」


「入念なる悪党……なんか体よく踊らされている、アルタが可哀想に見えてきたよ。あいつ、唯一あんたには信頼を置いてたのにね……」


「信頼か……不要な言葉だ。俺が欲するのは、ただ二つ……一つは組織ハデスによる全世界の支配だ」


「世界の支配ね。知ってる? 世間じゃそれを『魔王』って言うんだよ」


「魔王か……そうかもしれん。あと一つは『死神セティ』、俺はどうしても奴が欲しい」


「愛されてるね」


「ああ愛しているさ……から」


 まるで妄信的に愛を語るモルスに、パシャは冷めた眼差しで見入っている。

 見た目は老人だが、その瞳は恍惚に『死神セティ』を追い求め執着していた。


「……付き合ってられない。あたいはもう行くからね、ボス」


 パシャの姿がフッと消える。

 最初からそこにいなかったような幻想すら覚えてしまう。


 同時に、複数の黒いローブを纏った者達がやってくる。

 この者達は広場中に散らばる遺体を回収し、元の状態に清掃する組織ハデスの『掃除屋』であった。

 手際のよい作業で、凄惨な修羅場が消えていく。



 事が終わり、『掃除屋』達は去って行く。



 清潔感溢れる広場に、モルスが一人佇んでいた。

 

「……セティよ。保険は常にをかけておくものだよ、フフフ」


 不敵に微笑む『千の身体を持つ者サウザンド』の胸中は誰にもわからない。






**********



「いらっしゃ~い! ランチワゴン開店中で~す!」


 エウロス大陸の暗殺組織『闇九龍ガウロン』のボスである黒龍ヘイロンを斃し、僕達は次に向かった王国で普段通りに営業を行っていた。


 事実上、グランドライン大陸から奴らを一掃した形となる。


 とはいえ、まだ『闇九龍ガウロン』は自体は健在だ。油断はできない。

 

 だが《転移スキル》を持つ、黒龍ヘイロンを始末したことは大きいかった。

 連中も迂闊にグランドライン大陸に潜入し、神出鬼没に現れることもない筈だ。


 ましてや組織ハデスが幅を利かせている限り、この大陸内でこれまで通りの大胆な行動は起こせないだろう。

 きっと潜入しただけでも情報は筒向けに入り、僕の耳にも入る筈だ。


 僕をつけ狙う組織ハデス暗殺者アサシンを通して――。

 

 そう考えれば奇妙なバランスが構築されてしまったかもしれないな。

 けどヒナを守るためなら構わない。どんな奴が相手だろうと全力で戦ってやるまでだ。


 またヒナの拳銃ハンドガンの訓練も継続しようと考えている。

 黒龍ヘイロンの話からでも、あの子は倭国にとって重要かつ危険な立場だということがわかったからだ。

 最悪の場合、ヒナが自分で身を守らなければいけない場面があるかもしれない。

 そのために覚えるべきスキルなのだ。


「セティお兄ちゃん! 9番テーブルのお客さんが餃子三皿頂戴って!」


「わかった、今作るよ」


 向日葵のような明るく愛らしいヒナの笑顔に、僕は今日も癒される。




 その夜、宿屋にて。


 僕はカリナ達から、ある相談を持ち掛けられる。


「え? 神聖国グラーテカに戻りたいって?」


「はい。一度、お母様にセティさんを紹介したくて……いけませんか?」


 フィアラが頬を染めて恥ずかしそうに言ってきた。

 彼女の母親はグラーテカにあり「聖母メルサナ大神殿」の教皇を務めている。

 確か父親はいなく女手一つで彼女を育てたと聞いていた。


「別に駄目じゃないけど……僕なんかと会っても、ね」


 元暗殺者アサシンだし……清き場所には無縁の男だと自覚しているわけで。


「我も一度、祖国に戻るか考えている。その際は……是非、セティ殿に両親を紹介したいのだが」


「え? カリナの両親って……もろウォアナ王国の国王だろ? とても恐れ多いんだけど……」


 それこそ身分が違いすぎる。下手したら娘をかどわかしたとかで首ちょんぱされそうだ。

 まぁ、速攻で逃げるけど……。


「アタシも『聖なる深き森』のエルフ王国でパパとママに会わせたいんだぁ。ウチは格式とかは大丈夫だよ、『強い子種』であればOKだからね~、セティなら絶対問題ないもん!」


 ミーリエルはエルフ王国の第五王女らしい。なんでも『強い子種』を求めて、勇者であるアルタと政略的の婚約者になったとか。

 この子の口から『子種』と聞くとドキッとしてしまう。


「私も父もグラーテカに住む庶民だから問題ないわね。きっとセティくんのこと珍しいと思って研究対象として気に入ってくれるわ」


 マニーサは平然と言ってくる。それって実験動物的なアレだよね?

 彼女の父は昔勇者パーティの魔術師で「伝説の大賢者マギラス」と称される偉人だ。

 庶民と言っているが、実際はグラーテカにある魔道学院カレッジの理事長をしているので、下手な貴族より身分が上であり宮廷魔術師並みの発言権を持っているらしい。


 どうやら彼女達は僕を親に会わせたいようだ。


 理由もなんとなく察しがついている。

 けど、みんなもそこまで僕とのことを真剣に考えてくれているのか……。

 

 やっぱり後は僕次第なのかな……。


 それなら、


「わかったよ。明後日にでも、神聖国グラーテカ方面に向かおう」


「「「「うん」」」」


 僕の返答に、四人は優しい笑顔で頷いてくれる。

 

 うん、これでいいんだ。

 僕だって……みんなと過ごしたい。

 これからもずっと……。




 翌日、ランチワゴンを開店する中、思わぬ奴と遭遇した。


「カリナ、フィアラ、ミーリエル、マニーサ! どうしてお前らがこの国にいる!? メイドみたいな格好はなんだ!? それにその男は誰なんだ、ああ!!!?」


 そう、勇者アルタだ。




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