◆新学期は通学路も新鮮に感じる

 昨日の回想を終えて身支度を整えるためにシャワーを浴び髪型をセットする。

 髪型は美容院で仕上げてもらったツーブロックと刈り上げで爽やかに仕上げたナチュラル束感ショート。

 髪型をセットしたら今度は黒い学ランに袖を通す。ボタンを留めないのがオレのスタイル。

 うちの中学は校則があまり厳しくないので髪型や制服の着崩しは自由である。

 ある程度自由が利くのは公立の中学校ながらも学力が高いことに起因しているらしい。

 勉強ができれば服装髪型は自由にしてよいという校風のなせる技である。

 制服を着崩したら朝食をとる。

 これがオレこと類世悠聖たぐよゆうせいのモーニングルーティン。


「行ってきます」

 ローファーを履き家族に見送られながら学校に向かっていく。

 天気は快晴。

 小高い丘の上にある我が母校。沙倉さくら中学校までの桜並木を歩いていく。

 舞い散る桜がまるで初彼女が出来たオレを祝福しているみたいだ。ついでに新入生も祝福していることだろう。

 今日から中学三年生。中学校生活の最後の一年間が始まる。人生初の彼女(おとこの娘)と共に。

「朝から何をそんなに浮かれてるの?」

 後ろから可愛らしい声を掛けられ振り向くと、そこにはセーラー服に身を包んだ李奈りなが笑顔でたたずんでいた。

 黒く艶のある髪はショートボブになっており李奈の小顔と合わさってまるで人形の様だ。

「色々といい方向に状況が変化したからな」

 彼女が出来たり、その彼女がおとこの娘だったり昨日だけで随分と人生が変わったな。

「ボクのこと?」

「学校ではおとこの娘モードは出さないんじゃなかったのか?」

「ここはまだ学校じゃないからね。それに…… 」

「それに?」

「悠聖と二人っきりのときは基本的におとこの娘モードでいくことにしたから」

 それは二人だけの秘密を共有出来てうれしいような。恋人として見られていないみたいで悲しいような複雑な気分だ。

「登下校中はおとこの娘でいくからこれからよろしくね!」

「ということはこれから毎日一緒に登下校するのかよ」

「そうだよ。だって私たち恋人同士じゃん。ふつうふつう」

 確かに恋人同士では普通のことだ。通学路ということもあり学生同士のカップルもたまに見かける。

「オレたちは普通の恋人同士じゃないだろ。それに今はおとこの娘のはずだ」

「普通じゃないから普通を装うんだよ」

 普通を装うか。

 難しいのか簡単なのかわからないことだ。

「それに周りに人がいるときは恋人同士になるの」

「周りに人って…… 。結構いるな」

 どうやらいつの間にか校門の近くまで来てしまったようだ。

 話に夢中で気が付かなかった。正確には李奈に夢中で気が付かなかった。

「長く緩い上り坂も恋人と話をしているとあっという間だね」

「これが彼女持ちにのみ許された特権というやつだな!」

「違うと思うよ」

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