◆見慣れた景色も気持ち次第で新鮮に見える
オレは去年の夏休み李奈とエッチした。
そして告白もしないで今のような友達関係を継続してきた。
それは告白が成功しないと知っていたからである。
そして、
たぶん李奈には好きな人がいる。
それはあの夏休みから今までの約半年間の李奈の行動を考えればわかる。
正確にはクリスマスから今日までの変化だ。
今までの李奈は優等生で学校を休むなんてことはほとんどなかった。
だが、今年の一月から三月にかけての約二ヶ月間は学校に現れなかった。
先生によると体調不良で入院しているという連絡があったそうだが真意は不明。
心配になりヌエと
みんな心配していたが、その心配をよそに李奈は期末テスト前日に何事もなかったように登校してきた。
当然クラスのみんなから質問攻めにあっていたが李奈は頑なに『大丈夫だよ。何でもないよ』と何があったか答えなかった。
オレも色々と質問をしたかったが、はぐらかす李奈を見て問いただそうとはしなかった。
李奈が何事もなく帰ってきたそれだけで十分だった。
一安心だった。ホッとした。安堵のため息をついた。
だけど、李奈の帰還を安心する想いとは別にもう一つの想いが膨れ上がっていた。
李奈と会えなかった二ヶ月間で自分が李奈を本当に心の底から好きだという想いだ。
そしてその思いが膨れ上がり我慢できなくなった結果、告白を実行しようと決めた。
このまま行動に移さず李奈が誰かの彼女になることが嫌だった。我慢ならなかった。
たとえ李奈に意中の相手がいたとしても自分が先に想いを伝えれば状況は良い方向に動くと考えていた。
静寂が浴室に充満している。
身体がひどく重く感じる。
通常、湯船に入ると浮遊感に包まれて身体は軽く感じるのだがいまはやけに重く感じる。
まるで鎖付き鉄球を体に巻き付けられたかのようだ。
あれからどれくらいたったのだろうか?
流れに任せて告白してから李奈は黙り込んでしまった。
振り返って表情を窺おうとしたが、視界の端で膝を抱えてうつむいている李奈をみて視線を戻してしまい、表情をとらえることが出来なかった。
自分の方から何かを言おうとしてみるものの喉の奥で声が引っかかるような感触を覚えて口から言葉を紡ぎ出すことが出来ない。
李奈は今いったい何を考えているのだろう?
告白されて迷惑だったのか?
もしかしたらもう好きな人と付き合ってしまっていて断りの返事を考えているのか?
そうだとしても振られる可能性は低いはずだ。
だって、李奈はオレを恋人としてカモフラージュに使っていた。それはオレとなら恋人関係に見られても良いということだ。
それに、いまこうして一緒にお風呂に入っていることが何よりの証拠だ。嫌いな人間と一緒にお風呂に入らないはずだ。もっと言えば付き合っていない男女が混浴すること自体ありえない。
確信的なのはお風呂に入る前の李奈のあの態度。あれはほぼ間違いなくオレに対して何かを言おうとしていた。たぶんそれはきっと告白だと思う。
李奈はオレに告白するためにこのシチュエーションを用意したのはずだ。
そう考えるといま間違いなく李奈とオレの心は赤い矢印で真正面からぶつかり合っている。
告白までの流れは多少強引すぎたところもあるが、このまま押し切れば勝てると確信できる。
つまりオレがこの状況でとるべき行動は黙っていることではない。さらに押すことだ。
恋愛の教科書なんて読んだことはないがきっとこう書いてあるはずだ。『押してダメならさらに押せ!』
「李奈、もう一度抱かせてほしい」
押す方向性が違うと感じたが、自分の心に素直に従ったら自然と欲望が口から出ていた。
背中越しぼ李奈が震える。
そして再び流れ出す静寂の時間。けれど今度は思ったより時間経過が速かった。
「…… ごめんなさい。それは無理なの」
……一瞬何を言われたのかが理解できなかった。だけど時間経過が速かったためなのかすぐに理解できた。
断られた。振られた。
振られる確率が低いだのなんだのと言っていた先程の自分がひどく馬鹿に思えてきてしまう。
振られるのを予想していなかったわけではないが、自分は振られる理由が無いと考えていた。ただの一つを除いて。
それは、もうすでに李奈は想い人と恋人同士になったから付き合えないという理由だ。
振られる理由としては妥当なものである。
オレをカモフラージュの恋人の仕立てた後に意中の相手と付き合い始めたのだろう。
本当に別の誰かと付き合っているから振られたのか真意は定かではないが、それを言及する勇気はオレにはなかった。
「…… そっか。ごめんな。無理言って、オレたち別に恋人同士じゃないしな」
「違うの!それは関係が無くて。私に問題があるの」
李奈には問題なんてないはずだ。たとえ李奈に恋人がいたとしてもそれは李奈の問題じゃない。気づかなかったオレの問題だ。
李奈はその問題の答えを教えるようにゆっくりと湯船から立ち上がる。
背中越しに感じていた李奈の体温が離れていく。
「こっちを向いて」と李奈の声が上から聞こえてくる。
自分を振った女の子の裸を見るのは申し訳なさがあったが、李奈の裸をもう一度みたいという欲望はなく。ただその答えを知りたいという想いからゆっくりと振り向く。
……そこには見慣れた景色があった。
というか毎日見ているものがあった。
「だって私…… ボク、おとこの娘になったから」
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