◆ケンカするほど仲がいいのが幼馴染

 その日は中学二年生、最期の日ということもあり、いつものメンバーで遊んでいた。

 場所は我が家。共働きの両親の帰りが遅く、妹も遊びに行っているため多少騒いでも問題にならないということで決定した。

「しかし、あっという間だよな。俺たちももう三年か」

 1ℓペットボトルのコーラをラッパ飲みしながら感慨深そうにつぶやく男は纐纈縫こうけつぬえ

 実家が空手道場を営んでいる関係で自身も空手部に所属する武術家である。身長が高く長い髪が特徴。

「それね!一、二年なんてあっという間に過ぎ去っていった感があるわー」

 お菓子を食べながら、高いテンションでうなずく彼女は栗並美波くりなみみなみ

 性格と身体の凹凸がはっきりしているポニーテール女子。バレーボール部所属。

「でも、この一年の方がもっと早く過ぎると思うよ。文化祭に体育祭、修学旅行に高校受験。イベントがいっぱいで楽しみだね」

 あまりうれしくないイベントも楽しみという彼女は風利李奈ふうりりな

 黒く艶のある髪をショートボブにしておりそれが小顔と合わさってまるで人形の様にかわいらしい女の子。

 オレの想い人。

 ちなみにオレ類世悠聖たぐよゆうせい

 髪型は美容院で仕上げてもらったツーブロックと刈り上げで爽やかに仕上げたナチュラル束感ショートの男子。

「うげぇ…… 。嫌なこと思い出させないでよ!」

「嫌だといっても、避けては通れない道だろ。そんなに嫌なら今から猛勉強すればいいだろ」

「勉強ができる人は簡単に言ってくれるわね。こっちは部活の最後の大会で忙しいのよ!」

「それなら俺だって同じだよ!空手部の練習で忙しい。だけどな、勉強も部活も両立するのが中学生というものだろ」

「うぐぅ…… 。この、生真面目男!」

「まあまあ、落ち着いてジュースでも飲んで」

 李奈は紙コップにオレンジジュースを注いでいく。

「しかし、お前らは顔を合わすたびにケンカしてるよな。幼馴染はそういうものなのか?」

 幼馴染のいないオレとしてはぜひとも聞いておきたい。

「別に幼馴染全体がこんな毎日ケンカしているわけじゃない。俺と美波はこれ以外のスキンシップを知らないだけだ」

「そうよ。別に好き好んでケンカしてるわけじゃないの。ただ子供のころからの感じが今も続いているだけ」

 なんとも不器用な関係だな。

 幼馴染ってそんなもんなのか?

「喧嘩するほど仲がいいってことよ!」

「そうゆうことだ!」

「そうゆうことなのか?」

 仲がいいのは二人とも認めているんだな。

「幼馴染の関係はいいとして、ヌエ君の言う通りクリちゃんは少し勉強した方がいいと思うよ」

「誰かに勉強を教えてもらうのはどうだ?」

 オレと李奈がヌエを横目で見ながら美波に話を振る。

「じゃあ、りなっちが教えてよ」

「…… 私は人に教える程、勉強できないし。私に教わるぐらいなら誰かほかの人に教えを乞うた方がいいよ」

 そういって再度視線をヌエの方に向ける。

「それじゃあ、悠聖が勉強教えてよ!」

 美波は李奈の視線に気づかないのかオレに懇願してきた。

「悪いがオレも人様に教える程勉強が得意なわけじゃないんでね」

 断っておくがオレや李奈は別に勉強ができないわけじゃない。

 むしろできる部類であり人に教えることで知識の定着に役立つと知っている。

 だが、美波に勉強を教えることはできない。

 なぜなら、ヌエと美波が一緒に勉強して痴話ゲンカをする姿が見たいからである。幼馴染のケンカほど観ていて微笑ましいものはないからな。

 全国の幼馴染が日常的にケンカをしていないのを知ってしまい少し残念ではあるが、例外であるこの二人にはぜひとも仲睦まじく微笑ましい光景に勤しんでほしい。

 我ながら悪趣味だと思うが、この悪趣味を共感してくれる人物がいる。

 その人物である李奈もニヤニヤしながら二人を交互に観ている。

 李奈と知り合ってもう二年にもなるが、李奈とはよくこうして意見が合う。

 一緒にいて楽しいし価値観も合うんだよな。

 好きにならないわけがない。

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