いじめの対処法

夢病マッキー

第1話 割れ続けるコップ

「おい、北口。床に落ちたパン早く食えよ、もったいねえだろ」


「やだよ……そもそも落としたのは志賀くんじゃないか」


「食わなかったらまた髪の毛切るからな」


「えぇもうやだよ……うわーーん!」


「ちょっとそこ、なにしてるんですか!志賀君、来なさい!」


 給食の時間、いじめを見つけた。長年教師をやっていたが、意外にも初めてだった。

 その場にいたほかの児童たちはみな、黙りこくったまま給食を食べていた。

 担任の先生は出張で三時間目からいないらしい。あの時間は大人が一人もいない時間だったのだ。

 俺は誰もいない音楽室に志賀君を連れてきた。

 そして俺は教師として志賀君に冷静な説教をした。感情的になることはなく諭すように話した。

 その場だけ収まるような説教は意味がない。二度と起こらないようにするのが教師の説教。少なくとも俺はそう思っている。


「志賀くん、そこにあるガラスのコップを割ってごらん」


 コップは不細工な割れ方をした。


「コップに謝ってみて」


「ごめんなさい......」


「どう?コップは元通りになった?」


 被害を受けた側がその後、どうなるのかをしっかり解らせるために、俺は回りくどいが心に響きそうな説教をした。どこかで聞いたことのある話をしただけだが。

 志賀君は割れたコップの破片を見つめたまま何も言わなかった。その表情に後悔や反省の念があるのかどうか、俺は知らない。だが、俯き顔の志賀君を見て、この説教は意味があったのかなと一人で頷いた。


 数日後


 俺は授業前に、我慢して破裂しそうな膀胱を回復するため小走りでトイレへと向かった。

 すると目の前には、数日前に説教をしたはずの志賀君がまたいじめをしていた。

 しかも、前に見た時よりも陰湿で度合いも酷くなっていた。

 俺はすぐにいじめを止め、志賀君に質問をした。


「前に説教したはずじゃないか!なぜまたいじめをしているんだ!」


 怒った表情を志賀君に向けると、いじめられていた子は、走ってトイレから出て行った。

 男は出て行った子を横目で追いながらいじめを行っていた志賀君に目を合わせる。

 すると、志賀君は得意げに話し出した。


「先生が言うにはあいつはコップと同じくらいの価値ってことでしょ?コップならお小遣いでたくさん買えるし、安いもんだなって思って。

 先生のお陰でいじめをしている罪悪感が全くなくなったよ!ありがとう先生!」

 

その感謝の言葉に俺は声を漏らすこともできなかった。

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