15.勇者達のその後④
大きな爆発と共に崩落する城の一角。
飛び交う悲鳴を他所に、俺は爆煙に乗じて城から逃亡した。
くそっ! くそっ!
俺は湧き上がる怒りをなんとか抑えてひた走る。
「おい勇者よ! いきなり過ぎるぞ! せめて合図を!」
「そうよ! 危うく巻き込まれるところだったんですけど!」
走りながら声がする後方に視線を向けると、聖盾を担ぐ壁用のダンと、聖爪を抱えた見栄え用のアスカが必死に駆けていた。
そんな二人を見て思わず舌打ちしそうになる。
役立たずが付いてくるんじゃねぇ。
という言葉をグッと飲み込み、俺は二人に指示を出す。
「大声は出すな。騒ぎが収まる前に町を出る馬車に乗り込むぞ」
「了解した!」
「分かったわ!」
言ったそばから大声を出す二人に、俺は小さく舌打ちした。
固められていた城の門を出る際、気晴らしも兼ねてもう一度聖剣の一撃を放つ。
「ひゃっはー! 邪魔するやつはブッ殺すぞ!」
城で一発、門で一発。
スッキリしたぜ。
俺は倒れた兵から変装に使えそうなマントなどを剥ぎ、一気に城下町を駆け抜けた。
すぐに追っ手が来るようなら
「あの荷馬車に乗り込む」
俺たちはすぐに出そうな商人を選び、バレないように荷馬車に転がり込んだ。
乗り込んですぐ、馬車は町の外へと走り出した。
上手くいったな。
俺はひとまずホッと息をついた。
「ねぇ、これからどうするの? 私たちどうなるの?」
アスカが膝を抱えて不安そうに言う。
てめぇらのことなんか知らねぇよ。
俺がそう思って無視していると、
「俺は許せないぞ。今までこの国のために戦ってきた俺たちが処刑など」
言いながらダンが悔しそうに拳を握り、
「このまま逃げ続けても
立ち上がりそうな勢いで拳を振るい上げた。
もう少し静かにできねぇのか、この馬鹿は。
「そんなことしてもし捕まったらどうすんの!? それより先に怪我を癒した方がいいと思うんですけど……私の顔の怪我だけでも」
こいつは自分のことしか考えてねぇ。
まぁたしかに、顔に傷が残ればコイツの存在価値はなくなるから焦りもするか。
俺としても、必ずゴルゴーンとダーブランドには復讐するつもりではいる。
奴らを殺して、この国も殺す。
それは決定事項だ。
だが今じゃない。
ダンは馬鹿だから何も考えてねぇが、こんな傷だらけで、しかも使えねぇコイツらと乗り込んでも返り討ちにあうだけだ。
二人はともかく俺は重症。
腹に二度、太ももに一度矢を受けていて完治していない。
傷を癒す必要がある。
だがそれも今じゃない。
大きな町の治療士ならこの傷も完治するだろうが、そんな技術を持った奴が中央と繋がってない訳がねぇ。
もうこれ以上、こいつらのせいで失敗するのは御免だ。
言い合う二人を見ていると、俺はいい案が閃いた。
「てめぇら聞け。この国には必ず復讐するが、今じゃねぇ。傷も癒す必要はあるが、それも今じゃねぇ。まずは追っ手から完全に逃げ切る。分かるな?」
俺の言葉に二人はコクコクと頷いている。
本当に理解しているかは疑問が残るが。
「まずは一度、この国を出る。そこで傷を癒やし、あの国王と大臣を殺すために再起を図る」
俺が言い終わると、ダンが大きく頷いた。
「なるほど! さすがだぞ勇者!」
「たしかに逃げた方がいいかも……。そうよね、顔の怪我はもう少しだけ我慢することにするわ!」
行動目標が決まった二人は俺のことをキラキラとした目で見てくる。
「あぁ、それまでしっかり協力していくぞ」
そんな二人に、俺は心にもないことを言った。
このまま言い合っていてはバラバラになりそうだったからだ。
この二人は一応キープ。
追っ手に見つかった時、コイツらを生贄にしてでも俺だけは必ず逃げ延びてやる。
問題はどこに逃げるかだが……
ルブル王国は北部、西部を険しい山脈に囲まれ、東部、南部は危険な海に面している。
地理的にも孤立した閉鎖的な国家だ。
海路は正確に安全ルートを通らなければ巨大な海の魔物に襲われる危険性がある上に、東部には水の国と呼ばれる他種族が治める国があり、南部には魔力濃度の高い魔人の大陸が広がっている。
西部のキラーズ山脈は大陸を縦断する巨大な山脈だが、ルブルに接しているのは海に近い端の方。
海沿いの道を選べば割と緩やかだ。
問題はその先。
山を越えた先には世界最大の樹海、ファラナス大森林がある。
強力な魔物の巣窟で、獣族やエルフ族といった種族の国もあるらしく危険だろう。
それらを踏まえて消去法で考えると、北部のグランズロック山脈を越えて人族の国であるエルシア王国に進むしかない。
俺たちは人目につかないよう細心の注意を払い、馬車を乗り継いで北部へと向かった。
――
王都を逃げ出して数日が経った。
俺たちは順調に北部へと向かうことができている。
現在地はグランズロック山脈のふもと辺りにあるヒミス村。
以前グローム山からの帰り道、馬車を捕まえたムルという町から定期馬車で3時間のくらいの小さな村だ。
「勇者様だ!」
「おお、勇者様!」
村民共が俺たちに群がる。
最後の最後でダンがしくじり、この村の人間に見つかった。
通報される前に始末しようかとも考えたが、どうにも思っていた状況とは違う。
「ああ勇者様! こんな辺境の村まで巡回に来てくださるなんて!」
「ご尊顔を拝見でき、光栄でございますじゃ」
ルブル王国は中央の技術こそ進んではいるが、町村は非常に貧しい。
情報伝達に関しても、予想していたよりもずっも と時間がかかるようだ。
運がいいな。
「この辺りは山脈が近く魔物も出やすいだろう。しばらく滞在して俺たちが魔物駆除を請け負う」
俺は村長に向けてそう言った。
「なんと……。勇者様、ありがとうございます。我々も精一杯おもてなし致しますじゃ」
うやうやしく礼をする村長。
「どう言うことだ?」
「急ぐんじゃないの?」
ダンとアスカが訝しげに聞いてきた。
本当に少しは自分たちで考えて欲しい。
俺はため息を吐きながら二人に問う。
「いいか? 心身ともに疲れ切った今の状態でグランズロック山脈に入ってみろ? どうなる?」
「む、キツいだろうな」
ダンが首をかしげながら言う。
「そうだ。じゃあ今のコイツらの反応を見てどう思った?」
「え……っと、私たちの今の状況を知らない?」
アスカも自信なさげに答える。
「つまり?」
「がはは! なるほど! さすがだぞ勇者!」
「今のうちにしっかり英気を養うってことね!」
「そうだ。しっかり休んで明日の朝にでもこっそり抜け出すぞ」
嬉しそうに頷く二人を連れ、俺はこの村での歓迎を受けることにした。
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