7.勇者達のその後③
「……ここ……は……?」
目を覚ますと、綺麗に整えられた部屋のベッドにいた。
……俺の部屋か。
うぐっ!?
体を起こし周囲を確認しようとして、顔面と腹部の激痛に気が付いた。
そうだ……俺は……またゴブリンに……
怒りに歯を食いしばり、拳をギリギリ握りしめる。
その怒りの矛先は……
「……やっと起きたか」
声の主はベッドのイスに腰を掛けていた大臣。
俺は痛みに耐えながら体を起こした。
俺のベッドを挟んで向かい側にはダンとアスカが立っていた。
「てめぇら……」
「おい勇者! お前の作戦に従ってまたゴブリンに負けたぞ! どういうことだ!?」
「だから遠距離かサポート役を入れようって言ったじゃん! ちゃんと私たちの話を聞いてほしいんですけど!」
ダンが俺の胸ぐらを掴んで怒鳴り、その横でアスカも怒りに声を震わせながら叫んだ。
「離せよ、いてぇじゃねぇか。こっちは怪我してんだぞ」
俺はダンの手を払いながら、
「てめぇら何勘違いしてんだ? 俺様のレベルに合わせられねぇてめぇらが敗因だろ? あんな矢すら防げない壁、ゴブリンにすら恐れ逃げ惑う拳士……俺様は絶望したよ……てめぇらの無能さに」
そうだ。
俺は心底仲間運に恵まれない。
やっと邪魔な役立たずを追い出したと思ったら、他の仲間も雑魚だった。
雑魚のせいでまた大怪我を負わされた。
その怒りでどうにかなりそうだったが、叫ぶと腹の傷に響く。
俺はゆっくりと仲間の無能さを説いた。
その言葉に二人は顔を真っ赤にして抗議してきたが、どれもこれも的外れだ。
「……はぁ」
それは眉間を手でグイグイとつまみながら、うつむく大臣から漏れたため息だった。
「ほらみろ。大臣もてめぇらの無能さに頭抱えてんぞ」
そう言った俺を見て、大臣は再び大きなため息を吐く。
「……おい。なんだてめぇ? 俺様を馬鹿にしてん……っつ……!」
思わず興奮した俺は、ズキンと痛む腹の傷を押さえた。
「ゴブリンの群れに襲われた際のことを、御者や発見した冒険者たちから聴取した。散々なものだったそうだな」
「そ、それはこいつらが俺様の足を引っ張ったから……!」
「そして今回、国王や貴族たちが見ている目の前であの失態。聞けば私が連れてきた剣士の言うことを無視したそうだな」
「それも今話したろ! 俺様についてこられねぇこいつらが戦犯だ! 俺様の作戦に問題はなかった!」
俺の抗議に耳を貸すこともなく、大臣は淡々と続け、そして、
「……やはり、ハルがいなければ駄目だったな」
ため息混じりにそんなこと言った。
今……何つった?
あまりにも想定外だった一言に、頭の理解が追いつかない。
あの
「おいてめぇ……今なんて? あいつは俺様にケチつけてくるだけだ……こいつら以上に何の役にも立たなかった……だから追い出した……だから生贄に……」
未だ理解できずにそんなことを言っていると、
「何故気付かない? お前たちが今まで成してきた功績。ダンジョン攻略も、悪魔退治も、全てハルのサポートあってこそだったろう。そこに何故気付けないんだ」
呆れた目をした大臣の口から、またしても予想外の言葉が飛び出した。
これには俺だけでなく、ダンとアスカも理解ができなかったのか、立ち尽くしたまま何も言えずにいた。
大臣はさらに続ける。
「優秀なサポートがいなくなった途端、この有様だ。ゴブリンなどそこらの冒険者でもなんなく討伐できる雑魚だ。ハルがいないだけで、そんな雑魚にも勝てないとは……」
「さっきからハルハルハルハル……俺様の前で……あいつの話をするんじゃねぇぇぇええええ!!!」
とうとう怒りが頂点に達し
それを慌てて止めに入るダンとアスカ。
怒りで顔を熱くして殴りかかる俺に、大臣は憐れむような眼差しを送ってくる。
怒りのせいだろうか。
俺の目には何故か涙が溢れていた。
「騒がしいな」
突然、部屋にしわがれた、それでいて貫禄のある声が静かに響いた。
その聞き慣れた声に一同が扉の方を向く。
部屋にやってきたのはルブル国王その人だった。
俺を除く、その場にいた全ての者が一様に
「なんだよ……王サマ直々に」
フッと笑いながら平静を装って話しかけた俺を、国王は冷ややかな目で
「ダーブライド大臣。これが城の者や貴族たちと話し合った結果だ」
そう言って大臣に書簡を手渡すと、俺には何の反応も示さず、そのまま部屋を後にした。
俺たちはその書簡に目を通す大臣を静かに見つめた。
すると大臣は大きくため息を吐き立ち上がる。
「何なんだよ! なんて書かれてんだ!?」
大臣は俺に書簡を手渡すと、部屋の扉へと歩き出す。
それを気にしつつも、俺は書簡に目を通した。
『国王をはじめ、ルブルの全国民の信頼の裏切り。勇者という地位を利用した再三にわたる税金の着服。勇者カナタ一行は力を偽った罰として勇者の称号剥奪、及び聖剣、聖盾、聖爪の没収。そして今後このようなことが起こらぬよう、カナタ、ダン、アスカの三名は見せしめに公開処刑とする』
「な、ななな、何だこれぇ!?」
俺たちはありえない書簡の内容に絶叫した。
大臣が部屋を出ようとするのと同時、数名の騎士たちがズカズカと部屋へ押し入っていた。
「な、何しやがる! 俺様は勇者だぞ!」
「は、はなせ! くそ! 怪我さえなければこんな……!」
「いや! いやよ! 死にたくない! お願い何でもするから! 死にたくないよ!」
拘束しようとする騎士に、俺たちは必死の抵抗をする。
ふと扉の前でこっちを見ている大臣と目が合った。
「……次は、ハルのような者を勇者に選定しよう」
そう言い残し、大臣は立ち去った。
「ふ、ふふふ、ふざけるなぁぁぁあああ!!!」
俺は魂を振り絞るように絶叫し、騎士が持ち去ろうとした聖剣を力づくで奪う。
「こんな……こんなの、間違ってやがる……。認めねえ……。俺様が……俺様がこんな国……絶対ぶっ殺してやるよ!!!」
叫びながら俺は、渾身の一撃で城の一角を吹き飛ばした。
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