鑑定結果『目が良い』だけの俺は雑魚扱いされて勇者パーティーから追放されたけど、実は世界の理が見える魔眼持ちだったらしい・・・助けてくれた美少女と新しい町でやっていくからもう邪魔しに来ないでくれ!

ちょびん

【第一章】勇者パーティー追放

1.勇者パーティー追放

俺の名はハル。

16歳の男だ。


現在地はルブル王国とエルシア王国を隔てる中立区。

年中雪が積もるグローム山の山道だ。


新たに出現した迷宮ダンジョン調査の帰り道、俺は唐突にパーティーの追放を宣言された。


「もう我慢ならねぇ! 追放だ! てめぇはこのカナタ様率いる勇者パーティーから追放する!」

「つ、追放って……何言ってんだよ!? 何で俺がパーティーを追い出されなきゃいけないんだよ!」


俺は突然の宣告に戸惑いつつ反論した。


「何でかって!? これだから馬鹿で雑魚で使えねぇお前と話すのはイライラする!」


あからさまに不機嫌な態度をとる勇者カナタは、勢いそのままに続ける。


「てめぇの力が使えねぇからだよ! かろうじてユニークスキルだが、鑑定結果は『目が良い』だけじゃねぇか! ちょっと危険が分かるようだが、俺様のパーティーに戦えねぇ雑魚は必要ねぇ! 足手まといだってことに気付けよクソが!」


勇者カナタは小馬鹿にしたような顔で俺を罵倒ばとうする。


「しかもクソ雑魚のくせして俺様がやることにいちいち口出ししやがって! さっきのダンジョンでもそうだ! 何もできねぇくせして何様のつもりだ!? 荷物持ちは荷物持ちらしく、黙って後ろで見てろってんだよ!」

「がっはっは! 勇者の言う通りだぞ! そもそも危険が分かろうが分かるまいが、ルブル最強である勇者には関係のないこと! 俺は前々から、ハルの力は必要ないと思ってたんだ!」


横で見ていたパーティーの壁役であるダンも、大声で笑いながら言った。


「本当よね! お荷物のくせしていつも後ろから命令してきてさ。 鬱陶うっとうしいから黙ってろって感じなんですけど! 私もハルは勇者のパーティーに相応しくないと思ってたのよ!」


拳闘士のアスカも鬱憤うっぷんを晴らすかのような口ぶりで二人に同意する。


自分に賛同するメンバーの声に気をよくしたのか、勇者カナタはニヤニヤと口の端を吊り上げながらさらに続けた。


「つーかよぉ、孤児院で呪われた子供なんて言われてたやつが、どうして栄えある勇者パーティーにいんだよ!? いっそ呪いの元凶としてここで討伐してやろうか!?」

「…………」


なんだよこいつら。

そんな風に思ってたのかよ。

俺が今まで、どれだけお前たちのために頑張ってきたと思ってんだ。


パーティーメンバーからのあんまりな暴言に何も言い返すことができず、俺は悔しさで拳を握りしめた。


そんな俺を見ながらハハッと笑った勇者カナタは、


「さて、厄介払いも済んだことだ。 国の未来を明るく照らす存在である俺様たちは、王都に帰還するとしようか」


そう言ってきびすを返すと、ダンとアスカを連れて山道を下り始めた。


「そ、そっちはダメだって! さっきからおかしい感じがするんだ!」


彼らが向かおうとしている先には、コインくらい大きさの、邪悪で真っ黒な光が無数に漂っている。

それがさっきから、どんどんと濃くなっていた。

こんなことは初めてだ。


「頼むから俺の話を聞いて……」

「いい加減黙れや!」


何とか引き止めようとする俺の頬に、激高げきこうした勇者カナタの拳が叩きつけられた。


痛っ……くそっ。

殴られた頬がジーンと熱を持ち、ズキズキと痛みだす。


「もう本当に喋んな! ぶっ殺すぞ! ああ!?」


地面に倒れた俺を、勇者カナタはさらに力一杯に蹴りつけてくる。


その時……


ズシャッ


勇者カナタの背後、つまり先程彼らが進もうとしていた道の先から、雪道を踏みしめるような物音がした。


みんなが一斉に音の方へ目を向けると、そこには体長10メートルはあろうかという化け物が、鋭い牙を剥き出しにして、よだれしたたらせながらこちらを睨みつけていた。


「う、嘘……」


恐怖で震えたアスカの声。


「な、何故こんなところに……ベヒモスが……」


同じく怯えた様子のダンも言葉を漏らす。


ルブル王国が定める魔物の危険等級で最上位に分類され、魔獣の王の異名持つ“ベヒモス”。

そんな危険種が目の前にいた。


「く、くそがぁぁぁぁ!!」


ダンとアスカの二人が動けないでいる中、勇者カナタが絶叫しながら斬りかかる。

聖剣に力を込めた一撃は、ベヒモス諸共、周囲を吹き飛ばした。


「流石だぞ勇者! やったか!?」


ダンの期待のも虚しく、爆煙ばくえんが晴れたそこには無傷のベヒモスが立っていた。


「ダンがフラグみたいな馬鹿なこと言うからやれてないんですけど!」


アスカが目に涙を浮かべながら絶叫する。


「グオオォォォォオオオオオオ!!!!」


勇者カナタの攻撃に腹を立てたのか、ベヒモスが今にも飛びかかってきそうな体勢で吠えた。


やばいやばいやばい!

考えろ!

考えるんだ!

みんなでこの危機を乗り越える方法を……


俺はどうやってこの魔獣から逃れるかを考えていると、ふと勇者カナタと目が合った。

その瞬間、勇者カナタは口元を歪めて、確かに言った。


「俺のために……死ね」


それと同時、俺は勇者カナタに思いきり蹴り飛ばされ、ベヒモスの目の前に転がり出る。

勇者カナタの思わぬ行動に、俺はうつ伏せの体を起こしながら唖然とした。


「最期の最期、やっとルブル王国の役に立つ覚悟ができたか!」


こ、こいつ、何を言ってんだ!?


背後に迫る恐怖と、暴行を受けた痛みで体をうまく動かせない俺は、必死に這うようにして勇者たちの元へ……


「そ、そうだな! 大臣と国王には俺たちから言っておくぞ! 見事な最期だったと!」

「あ、ありがとうねハル! あなたのおかげで私たちはこれからも民のために戦うことができるわ!」


勇者カナタの元へ駆け寄った二人は、顔を強張らせながらそんなことを言った。


「待ってくれ! 置いてかないで! ダン! アスカ! カナタ!」


懇願する俺の声を無視して、三人はベヒモスと反対方向へ逃げていった。


う、嘘だろ?

こんな状況で……あいつら本当に……


いまだ三人の行動が信じられずにいると、


「グルルルルル」


背後、少し高い位置で喉が鳴る音がした。

恐る恐る振り返ると、目と鼻の先にベヒモスが迫り、大きな口がゆっくりと開かれた。


こんなところで……

あんなろくでもない奴らに裏切られて……

よりにもよって、モンスターに食われて死ぬのか俺は?


恐怖と悲嘆ひたんの涙を流しながら絶叫を上げる俺は、そのままギュッと目をつぶった。


【氷華槍魔法】フリズランス


涼やかな、それでいて力強い声が聞こえたかと思うと、ベヒモスが悲鳴を上げた。

目を開けると、巨大なバラの茎のような造形をした氷槍に体を貫かれ、ベヒモスが苦しそうにもだえている。

そして、俺とベヒモスの間には黒髪の女の子が立っていた。


「な、なんだ!?」


突然の光景に驚愕きょうがくしていると、その子がこちらをチラッと振り返る。

その横顔は凛としていて美しく、綺麗な漆黒の瞳に吸い込まれるような感覚を覚えた。


そして、ベヒモスとは対照的に体から白い光が溢れんばかりに湧き出していた。

勇者たちが力を使う時に集まる光に似てるけど、量も輝きも段違いだ。


彼女は再びベヒモスに視線を向けた。


ベヒモスは火を操る魔獣。

自身の熱で溶かしたのか、刺さっていた氷のバラは消えて無くなっており、ベヒモスはよろめきながらも彼女を威嚇する。

突如、ベヒモスの口に黒い光が集まるように見えた。

まるで体中の力を吐き出そうとしているような……


「な、何か口から出るぞ!」

「……!?」


俺の声に驚きつつも、彼女はベヒモスから距離を取るように後退する。

次の瞬間、雄叫びと共に、ベヒモスの口からブレスが放たれた。


「【シールド】」


目の前で一瞬、格子状に光が走ったかと思うと、放たれたブレスは壁に遮られるように爆音とともに四散した。


「何が、起こって……」


【氷華結晶魔法】フリズクリスタル


女の子が左手をベヒモスに向けると同時、ベヒモスの大きな体が足元から凍り始め、あっという間にバラの氷像に閉じ込められた。

そして、ベヒモスの周囲を漂っていた黒い光が霧散し、消えていった。


「死んだのか……?」


目の前の光景に理解が追いつかない。

何もない足元からベヒモスが氷漬けになった。


もしかしてこれが魔法?

というかこの子、ベヒモスをこんな簡単に、たった一人で。


「あ、ありがとう。君のおかげで、助かった」

「…………」


俺が感謝を告げると、少女はじっとこちらを見つめてくる。


年は俺と同じくらいだろうか。


肩口まであるミディアムロングの黒髪は、しっとりしていて艶やかだ。


少し眠たげな目……ジト目というやつか。

でも、その奥からは吸い込まれるような、綺麗な漆黒の瞳が覗いている。

無愛想な表情だというのに、目鼻の整った顔立ちをしていてとても美しい。


背は俺より低く、160センチ弱といったところか。

細身だけど女性らしさのある美しい曲線を持つ体を、クールな印象の黒と藍色を基調とした衣装に包んでいる。


そんな彼女に見惚みとれてた俺は、ハッとして挨拶する。


「あ、えっと、俺はハルといいます。本当にありがとう。さっきのはもしかして、魔法ですか?」

「…………」


無言でコクリと頷く少女に、俺は興奮しながら、


「やっぱり! 初めて見ました! ルブルは閉鎖国だから魔法が全く発展してなくて! さっきの氷の花もすごかった! 急に指に光が集まったかと思ったら、急にベヒモスが凍りだして……」

「……指が……光った?」


落ち着きのある心地の良い声で少女が聞き返した。


「ああ! ベヒモスに向けた君の左手の……」

「あなたもしかして、マナが見えるの?」


物静かな声で、しかし興奮気味に、俺の手を握った少女は綺麗な顔をグイッと俺に近づけながら言った。

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